【図表2】グラスゴー・カレドニアン大学の案内文
英国の大学の履修内容からひもとく
ラグジュアリー市場でやや見逃されやすい地域がある。それは英国だ。自動車のアストンマーチン、リッツホテル、特別な会員だけのエクスクルーシブ(独占的)なゴルフやヨットのクラブなど、英国にも独特のラグジュアリー文化が存在している。しかも、金融都市のロンドンには世界の一級の消費者が集まっている。
そんな英国においてラグジュアリーを学べるコースがあるか、インターネットで検索すると、少なくとも五つの大学のコースがヒットする。その一つであるグラスゴー・カレドニアン大学のラグジュアリー・ブランド・マネジメントの案内を見てみると、【図表2】のような説明を見つけた。
ラグジュアリーのコンテクストをいかに多角的に理解するか、ということが肝であるようだ。均一な工業製品で機能性が優先されるジャンルである場合もコンテクストは重要であるが、ラグジュアリー分野は製品の意味がさらに問われることに価値があるため、コンテクストの理解が鍵となる。意味はコンテクストに依存するからだ。
それがために文化を知ることが同様に大切になってくるわけである。いわばラグジュアリービジネスを学ぶことは、普通のビジネス以上に「総合力」が要求されていると言っても過言ではない。
日本はラグジュアリービジネスを軽く見ている
ボッコーニ大学とグラスゴー・カレドニアン大学は、ラグジュアリービジネスの発信元を本拠地として学ぶ。たとえ、そこに欧州以外の地域からの留学生が多く欧州の人間が少ないとしても、あくまでもいわば「ラグジュアリービジネスの聖地」で学ぶスタイルである。
しかしながら、それだけでは人材需要をカバーしきれないのだろう。次に紹介する大学は、市場に勢いのある新興国に拠点を置いている。
アラブ首長国連邦にある、オーストラリアのウーロンゴン大学ドバイ校。同校はミラノ工科大学のビジネススクールと提携したコースを2020年からスタートする。ドバイを学びの拠点としながら、ミラノ、パリ、ジュネーブを研修先とし、湾岸諸国を中心とした国際的舞台で活躍できる人材を育成するのが目的だ。
内容はラグジュアリービジネスの戦略的分析、国際的な交渉や契約、エクスペリエンスデザインとマーケティング、サプライチェーン、イノベーションマネジメント、リテールサービスデザイン、ブランドマネジメント、販路開拓といった科目だ。例えば、サプライチェーンについてはスイスの高級時計メーカーの探索から学ぶ、という具合である。期間は18カ月。費用は日本円に換算しておよそ400万円で、研修先への交通費や宿泊費なども全て含む。
新興国における最終消費財のラグジュアリービジネスは、小売りの視点に重きが置かれ、欧州の供給元の見極めやそことの交渉が中心になるはずだ。コンセプトから含めた商品開発力が要求されるのは、今のところリゾートなどの体験型ビジネスがメインになるだろう。
そこで売る物理的な形のあるローカル商品をどうラグジュアリーカテゴリーに入れるかというテーマがあるとは想像するものの、欧州発のすでにあるラグジュアリー商品の方に現地の多くのビジネスパーソン(ことに高額の授業料を払って学ぶ人たち)は関心が向いているはずだ。
つまり、これらの事例から指摘できることは、ラグジュアリービジネスを体系立って教えることで、欧州のラグジュアリービジネスの当事者たちのステータスがより向上する可能性である。ノウハウを教示して地位が奪われるのではなく、短期的に予想される事態は逆である。なぜならば、ラグジュアリービジネスが何たるかを学んだ人たちは、自分のよく知った文化圏にてその実践で自己投資の回収を図るからだ。
冒頭で書いたように、私が調べた限り、これまでに紹介したような事例が日本の大学には乏しい。また、欧州の大学でラグジュアリービジネスを勉強している日本からの留学生もあまり多くないと見える(大学の案内を読み、関係者にヒアリングした限りにおいて)。
レクサスやグランドセイコー、あるいは化粧品のビジネスがラグジュアリービジネスを主舞台としたがっているのは、はた目にも分かる。そして、このようなレベルでビジネスの成功を望む企業は少なくない。しかし、なぜ、大学で体系的に学ぶ必要のある分野だと考えられないのか。
この問題は、本連載の中で別の機会に論じる必要があるだろう。