メインビジュアルの画像
コラム

旗を掲げる! 地方企業の商機

「日経トレンディ」元編集長で商品ジャーナリストの北村森氏が、地方企業のヒット商品や、自治体の取り組みなどをご紹介します。
コラム 2024.07.01

Vol.104 「そもそも」に立ち返る

北村 森

KTION(ケーション) 「MEDIFLA」(メディフラ)

ビーカーや試験管に用いられる理化学ガラスを用いた花瓶。小花や野草が似合う形にとフラワーアーティスト川崎景太氏によってデザインされた

 

 

ある製糖会社のラム酒

 

今回の話の前段として、まずは私自身が携わった事例をお伝えすることをお許しください。

 

千葉に本社のある大東製糖が、2023年、鹿児島県の種子島にラム酒の蒸留所を立ち上げました。どうして砂糖をつくる会社がラム酒を造ったのか、理由ははっきりしています。ラム酒の原材料は、サトウキビです。そして砂糖もまた、サトウキビからつくられますね。同社は、砂糖関連の産業に、あらためてしっかりと光を当てたいと考えたわけです。

 

そして、ラム酒に用いるサトウキビを自ら育てるために、種子島で畑を耕し、刈り取って搾ったサトウキビの汁をすぐさま発酵・蒸留させる体制をとりました。

 

その後2024年の春に、ラム酒の第一号「ARCABUZ(アーキバス)」を世に送り出し、さらに、ラム酒の世界的アワードである「World Rum Awards」にエントリーしました。

 

すると、TASTE部門で「GOLD WINNERS」、DESIGN部門で「Best Bottle Design」を獲りました。いきなりのダブル受賞(いずれも最高賞)でした。

 

私は、同社のラム酒プロジェクトのオーガナイザー(とりまとめ役)として、この過程に最初から立ち会い、蒸留所の創設から、サトウキビの品種選択と栽培、ラム酒の味づくり、ボトルデザインにまで、ずっと関わってきました。

 

なぜ、第一号のラム酒を出したばかりなのに、世界的アワードでダブル受賞できたか。振り返ると、チーム全員の目指すところがずっと一致していたからではないかと思います。

 

「そもそもラム酒とはどうあるべきか」ーー。これをチームメンバーで自問し続けてきた結果が、今回の結果に直結したというのが、私の考えるところです。具体的に言いますと、「ラム酒がサトウキビからできていることを、ひと口飲めば、たちどころに実感できる一杯を完成させよう」という明快な目標がありました。サトウキビを品種段階から検討し、自ら育て、刈り取ったらすぐさま搾って発酵させるという体制づくり(実は、どれもラム酒づくりの上でそう多い話ではありません)を徹底したのも、全てそのためでした。

 

この「そもそも、どうあるべきか」を突き詰める作業は、ラム酒に限った話ではなく、あらゆる製品・サービスにも通じる大事なところなのではないかと、私は確信しています。

 

 

理化学ガラスの実力

 

で、ここからが今回の本題です。取り上げる商品は花瓶です。「昔から存在する花瓶で面白い話があるのか?」と思われるかもしれませんが、まあお聞きください。順番にお伝えしていきましょう。

 

東京の大田区にKTION(ケーション)という花をテーマにした企業があります。国内外で活躍するフラワーアーティストの川崎景太氏の活動を支える会社です。そんな同社が2020年に発売し、現在では9アイテムをそろえているのが「MEDIFLA(メディフラ)」という花瓶のシリーズ。その価格は1760円(税込み)からです。

 

写真をご覧ください。普通の花瓶とはちょっと、いやかなり異なる姿をしていますね。試験管を思わせるような形です。どうしてこのような形をしているのか。もちろんそこには必然的な理由がいくつかあるらしい。

 

まず何より、この花瓶は理化学ガラスによってできているという点です。理化学ガラスというのは、試験管やビーカーに用いる素材で、熱に強く、耐久性があり、その上、透明度も高いのだそうです。いずれも実験に使うには大事な要素ですよね。

 

川崎氏はある時、東京の江東区にある町工場で、理化学ガラスを使った試験管づくりの現場を見る機会に恵まれたそうです。そして彼はびっくりした。

 

「試験管もビーカーも手作りだったんです」(川崎氏)

 

型があって、それに合わせて製造するのではなくて、ガラスを吹く、旋盤にかける、といった工程によって完成させるのだと川崎氏は知ります。

 

 

花瓶とは何なのか

 

川崎氏はこうして、理化学ガラスの持ち味、そして理化学ガラスを使った試験管やビーカーづくりのすごみを目の当たりにしたのでした。

 

「日本の職人技がそこにあったわけです」と彼は言います。彼はここで思い立ちました。「この理化学ガラスの良さを花瓶に生かしたい」と。

 

すると今度は、町工場の職人さんたちが、まさか花瓶作りに自分たちの技術が使えるとはと驚いたそうです。

 

ただし、ここで川崎氏は立ち止まって考えました。理化学ガラスを使うからといって、ただ単に試験管を模したようなデザインにするのではいけない。花瓶の形にも当然、必然性がなくてはなりませんね。

 

では、川崎氏はどう動いたのか。

 

「花瓶そのものはすでに世の中に数多く存在しています。では、花瓶とはそもそもどうあるべきなのかを最初から考えることにしました」(川崎氏)

 

 

当たり前を疑う意義

 

具体的にはどういう話なのでしょう。川崎氏は「花本位である花瓶」、つまり「花が喜ぶ形を探ろう」と思いを巡らせたと言います。これまでの花瓶はもしかすると人本位、すなわち花を生ける人を優先した形ではなかったか、というところに疑問を抱いたのです。

 

「なるほど」と私は感じました。まあ普通に考えれば、商品というのは、それを使う人の都合や気持ちを大事にするのが定石と言って良いでしょうけれども、そこにあえて斬り込んで、「そこに加わる存在(ここで言えば花)にとってうれしい姿とは何か」と考えを新たにしたわけです。

 

川崎氏の結論はこうでした。「小花や野草が似合う形というのがあるはずだ」と。決して豪華絢爛(けんらん)な花でなくてもきちんと映える、そんな花瓶ができたなら、それこそが花本位の花瓶なのではないかと判断したのです。

 

そうして完成したのが「メディフラ」のラインナップでした。実に興味深いのは、9つのラインナップはどれも、川崎氏の言葉を借りれば「花を生けたことのない人が使っても、ちゃんと成立する花瓶」であるところです。

 

その意味を、私はよく理解できました。写真のように、素朴な花をそこにただ挿せば、しっかりと絵になるという印象を抱けましたから。

 

川崎氏が花本位の花瓶を一貫して志向してこの花瓶を完成させたら、それは結果として、同時に人にとってもありがたい存在にもなったのですね。

 

今回の前段でお伝えしたラム酒「アーキバス」も、また本題である「メディフラ」も、繰り返しとなりますが、「そもそもどう在るべきなのか」の熟慮から、商品化の道を開いた点が共通しています。

 

商品開発の最初の段階で、多くの人がさほど疑ってこなかった部分に意識を向けることが大事であるのだと、あらためて感じた次第です。

 

PROFILE
著者画像
北村 森
Mori Kitamura
1966 年富山県生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。「日経トレンディ」編集長を経て2008年に独立。
製品・サービスの評価、消費トレンドの分析を専門領域とする一方で、数々の地域おこしプロジェクトにも参画する。
日本経済新聞社やANAとの協業のほか、経済産業省や特許庁などの委員を歴任。サイバー大学IT総合学部教授(商品企画論)、秋田大学客員教授。