ハワイアン焼酎カンパニー
ハワイで初めて焼酎を仕込んだ焼酎蔵「ハワイアン焼酎カンパニー」の平田憲氏
コナベイハワイ
上質なアロハシャツが人気の「コナベイハワイ」の木内九州生氏
ハワイの今
コロナ禍でずっと行けなかった海外ですが、先日思い切って出張に踏み切りました。
行き先はハワイです。「それ、出張じゃなくて遊びだろ」と思われるかもしれませんが、確認したいことがいくつかあったのです。
2022年の夏、久々にハワイが旅行先として注目を集めましたね。ワクチン3回接種済みで、しかも帰国前のPCR検査で陰性ならば、行きも帰りも隔離なしとなりました。それを受けて航空各社は順次、東京/ホノルル線を毎日運航に戻しました。実際に人気が復調しているのか、それを一度、この目で見たかったのです。
確かに、ハワイ人気は戻りつつある印象でした。海外旅行にやっと行ける状況となると、少なからぬ人はやはりハワイを想起するのでしょうね。私の乗ったホノルル便はほぼ満席でした。
また、書類を準備して、厚生労働省のアプリ「MySOS」に事前登録すれば、出国も入国もあっけないほど簡単に済みました。渡航客がまだ少ない分、コロナ禍以前よりもすんなりとゲートをくぐり抜けられるほどでした。
ただし、ハワイの物価は相当なものでした。コロナ禍以前に比べると、ドルベースで総じて2割増しといったところです。日本人旅行客には、そこに円安も加わります。ドル表示での価格にまずは驚き、日本円に換算してさらに焦るという感じでした。例えば、マクドナルドをのぞいてビッグマックのコンボ(セット)の値段を見たら、これが9.29ドル(約1300円)。つまり、日本の2倍近くもするのです。万事こんな衝撃が続きました。
エアラインは毎日運航、条件がそろえば隔離もないという状況になったとはいえ、ことハワイに関して言えば、こうしたモノの値段の問題が、旅行するのをためらわせる大きな要因になりそうですね。
現地の事業者への取材
私がハワイへ向かったのには、もう1つ理由があります。以前に取材していた現地の事業者がコロナ禍でどのような事態に直面していたか、また、それをどう乗り越えようとしているのか。それを確かめたかったのです。
まず訪れたのは、オアフ島の北西部・ノースショアにある焼酎蔵でした。ハワイで初めて焼酎を仕込んだ蔵であり、その名を「ハワイアン焼酎カンパニー」と言います。以前(2020年3月号)、本連載で少しだけ触れたことがありますね。
日本人夫婦が営む、ごく小さな焼酎蔵で、春と秋それぞれ、わずか約3000本だけが生産されています。消費者がここの焼酎を手に入れるには、ここノースショアまでわざわざ行くしかない(一般の小売店に卸していません)というのに、焼酎を春と秋に発売するたびに、瞬く間に完売となります。それでちまたでは、「幻の焼酎」「ファン垂ぜんの焼酎」などとも称されているほどです。
でも、このコロナ禍ですから、それほど超人気の焼酎であってもさすがに苦しい状況だったのではないでしょうか。久々に会った代表の平田憲氏に話を聞きました。
「オアフ島の飲食店に販売していた分の注文はほぼなくなりました。それは今も続いています」(平田氏)
ああ、やはり厳しかったのですね。ワイキキの飲食店はすでに米国本土からの旅行客を中心ににぎわいを取り戻しつつあるようですが、平田氏の焼酎への発注が復活するほどではないようです。
逆風をチャンスに
しかしながら、平田氏の表情は暗くありませんでした。なぜか。
「もともと、私たちの焼酎の販売先は、オアフ島の飲食店向けが2割で、あとの8割は消費者向けに直販していました」(平田氏)
そうなのですね、飲食店向けはさほど大きなウエートを占めているわけではなかったのですね。
「はい。そして、一般消費者向けの8割はコロナ禍の前と同じく、ちゃんと購入してもらえていました」(平田氏)
平田氏は「ハワイアン焼酎カンパニー」を2013年に創業して以来、ターゲットの中心を地元で暮らすいわゆるローカルの人々に据えていました。ノースショアまでレンタカーで足を運ぶ日本人旅行客の需要はメインではなかったというのですね。そのため、コロナ禍であっても一般消費者向けの販売量は落ち込むことがなかったというわけです。
この話に限らず、私は常々「地元の人が振り向かない商品に、よその人(例えば、地方へ訪れた大都市圏の消費者)が振り向くはずがない」と各所でお伝えしていますけれど、ハワイアン焼酎カンパニーの場合、最初から地元の人を重視して、焼酎蔵の見学や説明を精力的に続けていたことが、ここにきて生きた格好になったということ。
さらには、飲食店向けの需要が落ちたことにより、平田氏には余力が生じたわけですが、それをむしろ好機と捉えて、新たな製品づくりに取り組む時間としたそうです。長く寝かせる熟成タイプの焼酎を造ったほか、焼酎に地元の7種のボタニカルを漬け込んだのち再蒸留をかけたジンも完成させています。つまり、コロナ禍による逆風状況をむしろチャンスとして前向きな姿勢を取った。そして、こうした新製品は地元客からも好感を持って購入されていると聞きました。
商機を広げるタイミングに
「ハワイアン焼酎カンパニー」の場合、もともとローカルの消費者が主要ターゲットとしていた部分がプラスに働いた面がある、とすでにお伝えしました。では、旅行客に照準を定めていた事業者はどうでしょうか。
私がもう一軒訪れたのは、ホノルルにある「コナベイハワイ」でした。上質なアロハシャツが人気のブランドで、オーナーは日本人である木内九州生氏です。
木内氏に聞くと、約2年間、ホノルルの店舗は閉めていたそうで、その間はネット通販や日本のセレクトショップなどとの取り引き、そしてクラウドファンディングに取り組むことで耐えてきたと言います。2022年2月に店舗を久しぶりに開きましたが、取材時まで、日本からの旅行客が訪れたのはわずか9組。コロナ禍以前ならば、1日か2日で達成できる人数です。
木内氏は言います。
「こういう状況だからこそ、販路を広げることに注力したい」
どういうことか。このコロナ禍であっても、店舗を再開した後に訪れてくれる客はいる。あるとき、フィリピンのバイヤーが突然来店し、その場でスマホを握って売り先を確定させ、一気に100枚購入してくれたそうです。
「このバイヤーの果敢さに驚きました。同時に、アジアあるいは米国本土に本格進出するためのヒントと刺激を大いに得ました。今こそ攻めるべきだ、と」(木内氏)
苦境にあっても次の一手を諦めない。今回のハワイ取材で、そのことを学んだ気がしました。