メインビジュアルの画像
その他

旗を掲げる! 地方企業の商機

「日経トレンディ」元編集長で商品ジャーナリストの北村森氏が、地方企業のヒット商品や、自治体の取り組みなどをご紹介します。
その他 2020.12.28

Vol.64 値が張るからこそ:ショウワノート

 

 

ショウワノート「ジャポニカ学習帳」
新1970年代後半からの「ジャポニカ学習帳」。昆虫シリーズは2012年にいったん休止したものの、2020年に復活。昆虫が苦手な児童のためにイラスト版もラインアップに加えた

 

 

コロナ禍でも売れた

 

2020年は、新型コロナウイルスの感染拡大で、数多くの業界が苦境に立たされました。航空、飲食といった分野に限らず、大変な1年だったとお察しします。

 

ただ、そうした状況下でも健闘した業界があるのもまた事実ですね。ホームセンターがその一例ですし、またキッチン家電なども売れました。巣ごもり生活下の関連需要が伸びたという外的要因はありますが、しっかりとニーズを捕まえた点は評価できますね。

 

で、ちょっと意外な商品もまた踏ん張っていたというのが、今回のテーマ。何かというと学習帳なのです。ショウワノート(富山県高岡市)の「ジャポニカ学習帳」と言えば、この分野で50%近いトップシェアを誇る商品ですが、2020年の春から初夏にかけての自粛期間中も売り上げが前年比でまったく落ちなかったというのです。「各地の小学校が休校を余儀なくされていたのに、一体どうして?」と、私は不思議に思ったわけです。

 

しかも、この少子化社会にありながら、年間の売り上げはずっと下がっていないそう。

 

今回は、ジャポニカ学習帳の開発や販売に長年携わってきた、同社の代表取締役会長である片岸茂氏に話を聞いてきました。

 

 

後発組ながら定着

 

まず、念のため確認したいのですが、本当にコロナ禍でもジャポニカ学習帳の売り上げは落ちなかったのでしょうか。

 

「まったく落ちていません。他の文具メーカーでは3~4割の売り上げ減となったところもあると聞きますから、異例でしょう」(片岸氏)

 

自宅学習で多くの児童が同社の学習帳を使った、という話でしょうが、これは指名買いが定着していたことのたまものと分析できそうです。実際、ショウワノートは、指名買いを得ることを大目標に営業を重ねてきたようなのです。

 

そもそもジャポニカ学習帳は、販売価格がライバル商品に比べて高い。同社製品は現在1冊当たり税別190円以上です。流通企業のPB商品よりも100円前後も値が張ります。それにもかかわらず指名買いが続き、コロナ禍でも揺るがなかったのはどうしてなのでしょうか。

 

片岸氏は言います。「当社は、学習帳の分野では後発組なんです」

 

話は半世紀前にさかのぼります。1960年代後半、国内の小学生の数は1600万人に上っていたにもかかわらず、学習帳の市場規模は約60億円にすぎなかったそうです。学習帳の市場へ参入する前だったショウワノートは、この数字に対して疑問を抱きました。小学生の人数に比べて学習帳の市場規模が小さすぎる。それはなぜなのか。

 

答えはすぐに判明します。単純な話でした。学習帳の値段が安かったのです。当時は1冊30円程度の商品が大半だったらしい。

 

「だったら、後発である当社は、あえて50円で勝負しよう、となった」と片岸氏は語ります。

 

その分、表紙周りの紙質を上げ、さらに当時の学習帳としては極めて珍しかったテレビCMを打ちました。すると、指名買いが続出するようになった。値段が他社より高いことはネックにならなかったのです。

 

 

 

 

 

 

価格を下げず踏ん張る

 

1970年代後半、同社は新たな一手を打ちます。それは表紙に掲載する写真でした。皆さんもご存じの「昆虫シリーズ」のスタートです。でも、それだけではなくて、科目シールを付録に付けたり、雨に強い表紙コーティングを施したりと、矢継ぎ早に商品を強化していきます。

 

ここで見逃せないのは、1970年代後半はオイルショックで社会全体が不況にあえいでいた時期だった点です。それでもこうして販促策をどんどん打ち出せたのは、要するに単価が高いために利益を確保でき、その利益をちゃんと次の一手に回せた。そこが大きかったわけですね。

 

「小売店の安売り商材になってしまわないようにと、そこだけを考えてきました」(片岸氏)

 

それにしても、紙質の良さや表紙の写真の強い魅力だけで、他社商品よりも高単価なものが、こうもうまく指名買いを得ることができ、しかも後発組ながら高いシェアを奪い取れるものなのでしょうか。

 

「当社は、全国の小学校をくまなく回り続けていたんです。『ぜひ、ジャポニカ学習帳を使ってください』と」(片岸氏)

 

なるほど。付加価値路線といういわば空中戦と、教育現場を丹念に回る地上戦を、同時並行させていたわけですね。

 

 

大手は参入できない

 

もう1つ尋ねておきたいことがあります。ノートブック全般で言いますと、大手文具メーカーが高いシェアを誇り、また高価な海外ブランドも存在感を放っています。それなのに、なぜ学習帳に限っては、こう言うのも失礼ですけれど、地方中堅メーカーであるショウワノートが、50%近くのシェアを占めているのでしょうか。

 

「大手企業にはうまみの少ない分野なんです」と片岸氏は解説します。学習帳は科目ごとに商品をそろえる必要があり、つまりは小ロット多品種型なのですね。同社の場合、現在その数は170種ほどにも及ぶらしい。大手どころが攻めにくい領域で、同社は勝負をかけ続けた、さらには指名買いを受けるための対策を徹底して施した、という話だったわけです。

 

ただし、社会環境は変化しています。子どもの意識や嗜好も移ろいます。そしてネットで情報を簡単に得られる時代となりました。

 

そこは片岸氏も認めるところで「表紙の持つインパクトは以前より薄れている気がします」と言います。2012年には、長年親しまれてきた昆虫シリーズを休止しました。虫嫌いの子どもが増えたからでした。

 

それでも、表紙のインパクトをどう強めるか、同社は心を砕きます。コミックやアニメとの連携、あるいは大関・朝乃山関をはじめとするスポーツ界との連携もそうです。

 

その結果、冒頭で触れたように、ジャポニカ学習帳はコロナ禍をも乗り越えそうな勢いを保持しています。2020年には発売50周年を迎え、昆虫シリーズを復活させました。今度は虫嫌いの子どものために、イラスト版も登場させました。

 

まとめましょう。「ライバル商品と何を変えるか」「既存の商品とどこを変えるか」。そこを熟考し、果敢に攻める。大事なのはそこなのだと、あらためて思いました。

 

 

 

 

 

 

PROFILE
著者画像
北村 森
Mori Kitamura
1966年富山県生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。「日経トレンディ」編集長を経て2008年に独立。製品・サービスの評価、消費トレンドの分析を専門領域とする一方で、数々の地域おこしプロジェクトにも参画する。その他、日本経済新聞社やANAとの協業、特許庁地域団体商標海外展開支援事業技術審査委員など。サイバー大学IT総合学部教授(商品企画論)。