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有識者連載
旗を掲げる! 地方企業の商機
「日経トレンディ」元編集長で商品ジャーナリストの北村森氏が、地方企業のヒット商品や、自治体の取り組みなどをご紹介します。
コラム 2026.07.31

Vol.127 逆境から地域を売り込む 熊本県八代市坂本町

 熊本県八代市坂本町「ぼたもち」

熊本県八代市坂本町「ぼたもち」
熊本県八代市の南東部に位置する坂本町のソウルフード。
からいも(さつまいも)を練り込んだ生地が特徴的。次の販売予定は2026年秋以降(令和8年熊本地震の復旧状況による)



官民連携事業の弱み

私は毎年のように全国各地の官民連携プロジェクトの取材を続けています。その多くは、自治体と地元の民間事業者がチームを編成して、地域課題に取り組むというものです。例えば、その地にある隠れた実力派産品に光を当てて地域内外に売り込む、あるいは、ものづくりに携わる後継者減少に対して対策を講じるなど、プロジェクトのテーマはさまざまです。


そうした各地の事例を取材する中で、地域における官民連携プロジェクトの多くに共通する悩みをおのずと知ることとなりました。


まず、プロジェクトに関わる人々の間にどうしても生じがちな温度差です。地域課題がそこにあることは分かっていても、それを打開しようとする上での熱意には差があり、プロジェクトが思うように進まない。


時には、地域課題の存在自体を理解していない人がいるケースもあります。そうなると、プロジェクトの実行そのものが壁に阻まれてしまいかねません。


また、メンバー間の熱意に違いがなかったとしても、関係者の間で目指すべきゴールが共有されていないと、プロジェクトは頓挫しがちです。さらに言うと、官民連携プロジェクトには得てして期限が設定されるため、やってはやめての繰り返しになる恐れもあります。そのために、地域課題が解決することなくプロジェクトが終わってしまうケースも散見されます。


各地で数々の官民連携プロジェクトが存在しながら、失敗事例も少なくないように感じられるのは、そうした背景のためだと、私は考えています。


そうした中、2025年冬から2026年春にかけて取材に臨んだ、ある地域の事例は、とても注目に値するものでした。地域における官民連携プロジェクトの課題点をはらみながら、それをクリアして成果を上げようと果敢に挑んでいます。


実は私、2026年5月にこのプロジェクトのアドバイザー役に就いたのですが、今回はその前段階、純粋に取材を進めていたところまでの話をお伝えできればと思います。



高齢化進む山村の宝物

熊本県八代市の中心部からクルマで小一時間ほど走った先の山あいに、坂本という地区があります。自治体合併の前は坂本村でした。この坂本は、古くから地元の家々でぼたもちが作られてきたそうです。旧坂本村はかつて八つの校区で構成されており、小学校が廃校・合併となった後も、その校区ごとにそれぞれのコミュニティーが残っていて、ぼたもちに関しても、八つの旧校区で製法も味わいも異なっています。


八つの旧校区のぼたもちに共通するのは、もち生地にサツマイモが練り込まれているところです。また、その多くは、あんこがもち生地で包まれた形をしています。


ただし、ヨモギを使うかどうか、あんこの素材は何かなど、違いも多い。その結果、先ほど述べたように、旧校区ごとで、ぼたもちの味わいは驚くほど違うのが面白いのです。


そんな坂本のぼたもちは、八代では大人気で、催事で販売するとたちまち売り切れるほど。普段はそのほとんどが家庭で作られ、坂本の中で消費される存在であり、商業ベースで展開される菓子ではないのですが、催事や祭りで販売される日があるとなると、うわさを聞きつけた人たちが長蛇の列をつくるわけです。



ぼたもち文化を残す取り組み

それほどに人気のあるぼたもちですが、いま存亡の危機にあるのだそうです。作り手は“地元のお母さんたち”であり、高齢化と材料の高騰が原因となり、このままでは消えてしまう状況となってしまった。ぼたもち作りの文化がかろうじて残っているのは、八つある旧校区のうち、もうすでに五つの旧校区に減っています。


そうした状況に追い打ちをかけたのが、2020年に坂本地区が見舞われた水害でした。球磨川が氾濫して多くの家屋や商業施設、道路などが甚大な被害を受け、6年が経過した今もなお復興の途上にあります。人口減にも拍車がかかり、このままでは、ぼたもち作りの文化が本当に消えかねない。


ここで立ち上がったのが、八代市坂本支所の職員と、地元の地域おこし協力隊として活動する柳本美緒氏でした。坂本に根付くぼたもち文化をなくしてはならないと、官民挙げての取り組みを進めようと動き始めます。


職員と柳本氏がまず着手したのは、ぼたもちのレシピの記録化でした。水害の傷跡が残る坂本では、これまでぼたもちを作ってきた女性たちから「もういいわ」との声も聞こえてきたといいますが、「ぼたもち文化が消えるとはつまり、坂本がなくなるという話だと伝え続けた」と柳本氏は振り返ります。県の機関からの協力も得ながら、レシピの記録に挑みました。


話はここからです。職員と柳本氏が次に決断したのは、ぼたもちを冷凍にして、全国に向けてネット通販するという取り組みでした。


「これへの反発は大きかった」と柳本氏は言います。余計なお世話だというクレームが坂本支所に届いたほどでした。もともと商業ベースで販売するものではなかったぼたもちをなぜわざわざ売るのか。「できたてこそおいしいぼたもちを冷凍するなんて」と。


それでも職員と柳本氏は説得を続けます。用いるのはあくまで地元で作るぼたもちで、第三者への製造委託ではない。冷凍はプロ向けの機器で行い、味はほぼ損なわない。冷凍のネット通販であれば、ぼたもち作りの季節である秋から春以外でも味わってもらえる。そして何より、坂本を知ってもらえると説きます。



立て続けに成果を出す

地元の人たちは、その意味を理解してくれ、地元の五つのぼたもちがそろうこととなりました。そして2026年2月に1回目のネット通販を実施したところ、30セットが即座に完売。2回目は3月で、80セットがやはり完売。3回目は100セットに増やしましたが、わずか半日で完売でした。


5つのぼたもちの食べ比べセットで値段は送料別で1990円(税込、第1回目のみ1800円)でしたから、正直かなり高めです。それでも3回続けて成果は出た。


数量だけ見れば小さな取り組みかもしれません。しかし、坂本にとっては大きな励みとなる実績となりました。


「今ではお母さんたちから『次はいつ作ればいい?』と尋ねられるほどです」と柳本氏は話します。


坂本では現在、このぼたもち販売の進展を受け、ほかにもある産品を伝える取り組みに挑もうという機運が生まれています。


地元にあった温度差を丁寧に埋め、間を置かずに続けて実行し、今後もプロジェクトを進める姿勢を貫いている。よその地域にもヒントをもたらす事例であると思います。

PROFILE
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北村 森
Mori Kitamura

1966 年富山県生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。「日経トレンディ」編集長を経て2008年に独立。
製品・サービスの評価、消費トレンドの分析を専門領域とする一方で、数々の地域おこしプロジェクトにも参画する。
日本経済新聞社やANAとの協業のほか、経済産業省や特許庁などの委員を歴任。サイバー大学IT総合学部教授(商品企画論)、秋田大学客員教授。