「違和感」を大事に
新しい年の幕開けです。2019年の最初を飾る今回は、これからの商品づくりを巡るキーワードを5つ挙げたいと思います。
まず4つ、ざっとご説明しますね。1つ目は「違和感を見逃さないこと」。
以前(2018年6月号)、山口県長門市の「百姓の塩」についてつづりました。販売元である百姓庵を営むご夫妻が、創業して最初の年に塩を作っていて、まさに違和感に気付いた。春夏秋冬で塩の味も結晶の様子も違ったという話です。
百姓庵は、その違和感をそのまま放っておかず、思い切って四季ごとの塩を商品化しました。春塩、夏塩……というふうに。
そうしたら、話題が話題を呼んで、いまや増産を重ねているにもかかわらず、1カ月待ちの人気商品に。
商品づくりの成否を左右するのは、こうした違和感を拾う(あれ?どうしてこうなっているのだろう?という疑問を、疑問のままで放置しない)ところにある、と言ってもいい。多くの業界では、2020年の五輪イヤーに向けた商品開発を巡って、2019年はますます競争が激化していくでしょう。そうした中で、違和感への気付きは重要なファクターになるはず。
「何をやらない」のか
2つ目は「何をやるかよりも、何をやらないかをまず決める」。
2018年11月に、NTTドコモが「カードケータイ」という名の携帯電話端末を発売しました。名刺サイズという小さな機種で、重さはわずか47gです。発売前に入手して試用してみましたが、いや、本当に小さくて薄い。
この端末、いわゆる“2台目ニーズ”を狙った商品と言えます。ここで重要なのは、「できること」が限られているのです。まず、画面はモノクロで、動画閲覧はできないし、アプリは使えません。できることは音声通話とショートメールくらい。ウェブ閲覧はできますが、前述のようにモノクロ画面ですし、制約があります。
それでも、発表直後から話題を呼びました。要するに、割り切りがしっかりとしているからでしょう。モノがあふれている昨今だけに、このカードケータイのように「何をやらないか」をまず決めることが、エッジの効いた強い商品を作る上で、今後ますます大事になる、そう感じましたね。
消費増税をどう読む?
3つ目のキーワードです。「100万人を追うより、『あなた』を狙う」。
誰に向けた商品なのか、どういう人に寄り添うような商品なのか、そこを絞っていく方が、時として売り上げを伸ばせるはずです。
中小事業者の場合、メガヒットを追わなくても一定の商いは成り立つわけで、巨大な市場かどうかは必ずしも重要ではない局面があります。クラフトビールの工場がこの10年で各地に増えていますが、これなど好事例でしょう。
4つ目として挙げたいのは「消費増税の影響を見誤らない」。
2014年の増税時を思い出してみましょう。あの時、何人かの経済評論家が「消費者はこぞって、値段が安くて品質がそこそこ、という商品の購入に向かう」と予測していましたが、実際はどうだったか、という話です。
その予測が正しければ、例えばマクドナルドやユニクロなどが店舗当たりの売り上げを当時伸ばしてしかるべきはずですが、そうではありませんでした。それどころか、むしろ高いものが売れた。
2015年に発売となったバルミューダの「The Toaster」など、トースターとしては異例の2万円台半ばだったのに、超人気となりました。ここから言えるのは、「使えるお金が少なくなる」とは「ゲームのルールが厳しくなる」ということであり、そうなると、少なからぬ消費者は、購買活動を“先鋭化”させるのだと思います。
どういうことか。使えるお金が減るからこそ、1回の買い物に真剣勝負を挑むわけですね。「高いものを買わなくなる」とは必ずしも言えず、「どうでもいいものを買わなくなる」ということ。買い直しが利かない時代だからこそ、そうなるのだと理解すべきでしょう。
「共創」の重要性が高まる
実は今回、最もお伝えしたいのは、ここからです。最後の5つ目のキーワードについて。
それは「複数企業での『共創』が今後、より重要度を高めてくる」ということをお伝えしたいのです。
共創って何?いわゆる協業とは何が違うの?と思いますよね。私も最初はそう感じました。
「ああ、そういうことか」と納得がいったのは、2018年10月にアジア最大級のIT展示会である「CEATEC JAPAN」を訪れたのが、一つのきっかけでした。このCEATEC JAPANが掲げていたテーマが「つながる社会 共創する未来」だったもので、各ブースを巡って「共創って何ですか」と尋ね続けてみたのです。
「企業同士での共創が必要になるのは、要は危機感からです」と解説するのはパナソニックでした。社会の変化に追い付き、さらに先回りして商品づくりを成していくには、もはや1社単独では手に負えない時代に入った、という意味だと理解しました。
だとしたらどうするかを考えると、それぞれに得意分野を有する企業同士が手を取り合うしかない、というわけですね。
でも、それだけであれば、既存の概念である協業とそう変わらないはずです。共創という言葉をわざわざ持ち出すことはない。
フラットな関係に変化
その点について合点がいったのは、三井住友フィナンシャルグループのブースで話を聞いた時です。
「企業同士の関係がフラットになる」というのです。
具体的には「企業の規模はもう関係なくなり、考えを出して動いた企業の勝ちということ」とまで言い切っていました。
企業間の連携において、各社の事業規模にはさほど重きが置かれなくなる、ということですね。そして、「企業の上下関係が薄れていく」とも指摘しています。
同グループでは、投資情報の新サービス構築で、将棋AI(人工知能)の開発で知られるHEROZと、まさに共創しています。例えばそういう話でしょう。
「それって、強いベンチャー企業が数多いIT分野だから言えることでは?」と思う方もいらっしゃるかもしれませんね。でも私は、それこそどのような分野においても「考えを出して動いた企業の勝ち」であり、「企業の上下関係は薄れていく」と思います。と言いますか、そうしたフラットな関係のもとで企業間が連携していかないと、時代に取り残されていくのでは、と強く感じているのです。
別の表現をしますと、中小の事業者は、そうしたフラットな関係のもとで連携できるプロジェクトを、より大事にすることで、次の一手を打てる確率が高まる、ということでもありますね。
例えば、2020年に向けて建設ラッシュが続くホテル業界で今、熱視線を集めているのは、社員数20人ほどの“小さいけれど実績を積んできたホテルコンサルティング企業”です。東京の日本橋にあるホスピタリティマネジメントという会社ですが、大手どころのデベロッパーとの契約が多く、この10年強で売り上げを10倍に増やしています。
あるいは以前(2016年4月号・2018年9月号)、本連載でも紹介した、静岡県掛川市にある福田織物という町工場もそうですね。同社は、海を越えて、欧州の名だたるラグジュアリーブランド企業と直接取引を重ね、共創に成功していますから。
ということは、まずは共創に耐え得る商品開発やサービス構築を考えるべき、という結論に達すると思います。今回、前半部分でお伝えしたキーワードは、そのための重要なポイントとも言えますね。