vol.21 嫌われない勇気?
2017年6月号
嫌われないための具体策
梶原「男損って、大変な時代ですね。嫌われないための方法、具体的には?」
牛窪「“におい”です」
梶原「?」
牛窪「最近耳にしませんか? スメルハラスメント(においで他人を不快にさせる行為)ですね。“スメハラ”と呼ばれますが、自分では気が付かないけれど、周囲はものすごく気になる。今の働き盛り世代は、自分のにおいが周囲の人々を不快にさせていないか、とても気にします」
梶原「加齢臭?」
牛窪「いえ。40代前後のにおいはミドル脂臭といいます。加齢臭は、懐かしい枯れ草っぽいにおいだからまだましだといわれますが、ミドル脂臭は、脂っこい不快なにおいを放つので、ハラスメントとまでいわれるのです」
私が40代だったころはそんな「いちゃもん」は付けられなかった気がします。今の男性は大変ですね。彼らは、まさに男損の時代を生きているんだと同情してしまいました。
牛窪「においで嫌われたくない彼らは、1 個2000円もする薬用デオドラントせっけんをためらうことなく購入します。ほかにも、体臭消去スプレー、口臭防止のための舌クリーナーなど『消臭対策商品』が売れています。これらも嫌われないための消費といえますね」
そんな嫌われたくない人たちに対して、牛窪さんは「美魔男」を目指せといいます。
牛窪「40過ぎの女性が美しさを徹底的に追求し、美魔女になって幸せをつかんだように、40、50、60を過ぎた男性の皆さんも『男たるもの』との古い概念は捨て去り、美魔男になりましょう!」
気になるにおいを消して、次は「外見の本格的な見直し」に取り組めというのです。そして「嫌われてはならない」と決意した40代50代は、今、必死らしいのです。
「男らしさ」とか「男の生きざま」とか「男の沽券」とか、「男」を言い訳にして小ぎれいになる努力を怠ると、嫌われ軽んじられ、最後には「男損の人」となり果てて、誰も相手にしてくれない。これが「男損の時代の現実」なんだ……。
牛窪「『脱男損』のためには形から入ることも悪くはないと思います。私たちって(牛窪さんは50歳手前)スキーやゴルフや何か習いごとを始めたとき、まず、道具を買いそろえるという『形から入った世代』なんです。嫌われない努力も、形から入るという『得意技』を駆使してよいんじゃないでしょうか」
牛窪さんは、バブル時代のように高級ブランドで身を包めなどとは言いません。清潔感のある、場面にふさわしい「それなりのおしゃれ」を勧めているのです。本の最終章で牛窪さんと対談する社会学者の田中俊之さんが、こう言っています。
「例えば、市民活動のために行政に助成をお願いに行くのに、きちんとした格好をしていると対応が変わる。小ぎれいにするのは簡単にできる『生き方改革』だと思います」
外見をちょっと磨くことが自信にもつながっていく。「モテたい」という高過ぎるハードルを設定して挫折するより、せめて嫌われないように努力してみることも、悪くない気がしてきました。
「嫌われる勇気」と同様に、「嫌われない勇気」にも注目したいものです。
筆者プロフィール
梶原 しげる (かじわら しげる)
早稲田大学卒業後、文化放送に入社。20年のアナウンサー経験を経て、1992年からフリーとしてテレビ・ラジオ番組の司会を中心に活躍。49歳で東京成徳大学大学院心理学研究科に進学、心理学修士号取得。東京成徳大学経営学部講師(口頭表現トレーニング)、日本語検定審議委員も務める。
\著書案内/
不適切な日本語
梶原しげる著/新潮新書
821円(定価)