vol.19 AIカウンセラーから学ぶ、 聞くスキル
2017年4月号
人工知能のカウンセリング
「タクシードライバーやスーパーのレジ打ち業務、会計士など多くの仕事は、やがてAI( 人工知能)に取って代わられるかもしれないが、人の話を聞いて心理的援助を行うカウンセラーは、心を持つ人間にしかできない」……な~んてことも、言えない時代になりつつあります。
「人間よりずっと上手に人の話を聞けるAI」の開発は、着々と進んでいるらしいのです。日本産業カウンセラー協会が発行する月刊誌(2016年10月号)では「人工知能のカウンセリング」が特集されています。
人型ロボットが、巧みな会話のやりとりで、悩める人類の問題をズバズバ解消してしまう! という夢みたいな話ではありません。相談者(人間)とカウンセラー(AI)が、コンピューターのキーボードを介した「文字で対話するカウンセリング」ではありますが、これが「なかなかイケてる!」のです。
やりとりの一部に加工を加え、抜き書きしてみました(東京電機大学・篠崎哲雄氏の研究より)。
AI「あなたの頭に浮かんでいる気掛かりなこと、課題は何かありますか?」
人間の相談者「就職できるかどうか気掛かりです」
AI「あなたは、就職できるかどうか気掛かりなんですね。就職活動について気掛かりに思っていることを教えてください」
人間の相談者「就職はできると思うんですが、条件に見合った所に入れるか不安です」
AI「あなたは、就職はできると思うが条件に見合った所に入れるか心配なんですね。もっと話してください」
AI は、相談者が口にした「気掛かり」という言葉に対し、「~が気掛かりなんですね」と、感情の言葉を確実に捉える「伝え返し」を行うことによって、「しっかり聞いていますよ」とのシグナルを送っています。その後も、「もっと話してください」とか「他にも感じていることがありますか?」と、「相談者の気掛かり」を深掘りする、内省促進を支援するコメントが続きます。
意外に悪くない、AIカウンセラーの利点
AIの問い掛けに対して、相談者が考え込んだりして返答が遅れてしまっても、AI相手だからこそ動揺することなく待たせることができます。人間相手なら、気まずさや焦りから、余計な一言を発したくなったり、話題を変えたりしてしまいがちです。AIの沈黙する能力が、結果として相談者の内省を促す大きな力となります。
セッション(やりとり)を通じて、生身の人間である相談者は、相談相手が「コンピューター」だと知りながらも、ひたすら聞いてくれる姿勢に引き込まれ、内省を深め、思考を巡らせることができます。
最終的に相談者は、就職先が自分に求めるスキルや専門性を高めるべく「努力したい!」と決断するに到り、モヤモヤした「気掛かり」や「お悩み」は解消へと向かいました。