その他 2016.11.30

vol.15 現場と本部のジレンマ

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2016年12月号

リハーサルは中止に
 
 
 「是が非でも自分の番組で新記録を出したい」。そう思って選手を励まし、練習のサポートを熱心に続けていた現場ディレクターは苦渋の決断を下します。
現場ディレクター「予報によれば、こんなはずではなかったのですが……。明日の本番には回復し、透明な海面を明るい月の光が照らし出します、きっと!
 というわけで、取りあえず、今日の選手の飛び込みリハは中止。代わりに、選手に見立てた地元のスキューバダイバーに潜っていただき、それを本番通り水中カメラマンが撮影。梶原さんが船の上でモニターを見て実況するのは予定通りです。選手の皆さんも、船からご覧になってイメージトレーニングだけでもしっかりしておいてください。気を抜かないでね。では早速リハーサル行きまーす! 5秒前、4、3、2、スタート!」
 ドッボーン!
 「選手役」が飛び込む音は聞こえたのですが、選手の姿を映すはずの水中カメラマンも潮に流され、私が頼りとするモニターには「選手役のダイバー」の姿が一向に見えてきません。
実況梶原「チャレンジャーが勢いよく水に入りましたが、あれー? おっと、どこだ? ダイバー、ダイバー……あ、見えました! えー!? カメラを担いでいる? これは、どうやら水に流された水中カメラマンを捉えた映像のようであります。さあダイバーが、いましたね! 水深計は? ちょっと確認できません! おお。ここです、いました選手が。順調に潜行を続けて……。ではなくこれまた別のカメラマンか? え? ケーブルが絡まった?? チャレンジャーはどこにいるのでありましょうか!? こちらからは見えません!!」
現場ディレクター「(メガホンで怒鳴るように)はいストップ! カメラさん、梶原さんよろしければもう一度まいりますよ、じゃあ、ダイバー役の方、飛び込みから、どうぞ!」
 ドップーン!!(モニター映らず……)
現場ディレクター「(メガホンで叫ぶ)がんばりましょー、気合い入れ直していきますよ、ダイバーさんあらためて、どーぞ!!」
 ドップーン……
 10回ほどディレクターが声を張り上げたところで、カメラマンやダイバー役のスキューバさんたちから泣きが入りました。
 「もう酸素がありません。正直、体力も限界です」
 揺れる波の上、船に設置されたモニター越しに実況し続けた私も、いてつく寒さと船酔いで気を失う寸前でした。リハーサルをじっと見守った選手たちの顔も心なしか青ざめ、唇も震えています。
現場ディレクター「(努めて明るい表情を作っていたような……)皆さん、お疲れさまでした! おかげさまで、なんとか明日の見通しが立った気がします。選手のみなさん! 今日は神様がゆっくり休息をとってエネルギーを蓄え、明日がんばれとエールを送ってくれたように僕には感じられました。本番は、日本中が注目しています! 明日のために今夜はゆっくり寝て、体調を整え、明日、目いっぱいがんばりましょう!!」
 熱心で、元気で陽気で、ちょっぴり押し付けがましい彼は、われわれや選手を気遣っているようで、実は、嫌なプレッシャーを与えるなあ。そんな印象を私は持ち始めていたのです。
 なかなか寝付けぬ民宿の部屋。隣の部屋で誰かが声を押し殺すように電話で話をしています。耳をすませば、あの現場ディレクターが、誰かに電話をしているようです。
現場ディレクター「(小声でヒソヒソと)ええ……はい、まあ…もちろん…そりゃあそうです…(突然声を荒げた!)判断は現場(こっち)がするんだよ!!(以後しばらく沈黙)うん、ええ。はい……じゃあ……」
 「何事だろう?」と思いつつ、私はそのまま、まどろみの世界へ。