その他 2016.11.30

vol.15 現場と本部のジレンマ

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2016年12月号

やる気みなぎる現場スタッフ

 「フリーダイビング競技」とは、マスクとフィンだけで水中深くどこまで潜れるかを競う「素潜り大会」のことです。当時、驚異の105メートルというすさまじい記録を打ち立てたフランス人ダイバー、ジャック・マイヨールをモデルにした映画『グラン・ブルー』に触発され、日本でもフリーダイビングブームが巻き起こっていました。
 とはいえ、全国に生中継するのはこれが日本初。この中継そのものが「新しい年へのチャレンジ」だったのです。選手はもちろん、現場を取り仕切る(下請け)制作会社のディレクターの意気込みは、半端なものではありませんでした。
 「東京の局舎でぬくぬくと仕事をしている“上の連中”に一泡吹かせてやりたい!」
 彼はそんな野心を胸に、何日も前から現場入り。選手たちや、水中撮影するカメラマンたちと繰り返しリハーサルを行い、本番での記録達成の手応えを感じていたはずです。
 通常、その時期の枕崎は波も穏やか、海水の透明度も抜群。本来、フリーダイビングは昼間に行われる競技ですが、真昼の太陽に負けないほど数多くのライトを灯す専用の「照明船」を何隻も用意し、万全の態勢が組まれていた、はずでしたが……。
 本番前日に行われた深夜のリハーサル。その時に、「想定外の事態」が発生しました。季節外れの風が吹き、潮がうねり、飛び込み台のある「基地ボート」も大きく揺れています。海面はまるで「みそ汁」のように濁って、透明度がひどく落ちています。