その他 2016.10.31

vol.14 気の利いたあいさつは1日にしてならず

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2016年11月号

ネタを実際に人前で披露するときの注意

一般の人が1分間で話すのは300字程度といわれています。突然のスピーチの場合、求められる時間はせいぜい2分から3分。ゆったり話せば、原稿用紙2枚分(800字)。話す内容を実際に書き出してみることをお勧めします。伝えるべき内容が明確化されますし、何より大事な「時間感覚」がつかめます。

2~3分のあいさつのために、冒頭で長々しい断り書きを述べる人は「時間泥棒!」と恨まれる危険があります。例えば、次のようなあいさつです。

「えー、ただいま、あー、司会者の方から突然ごあいさつを、と言われまして、ま、このー、大変戸惑っております。いわゆる、こういう晴れがましい席にはとんと不慣れでございまして、え〜、その、何よりも、立派な、そうそうたるご来賓の皆さま方がいらっしゃる中におきましてですね、甚だ恐縮でございますが、ご指名ということで、一言だけごあいさつをさせていただくご無礼を、なんとかお許しくださいますようお願い申し上げますとともに……えー、思い起こせば今回20周年をめでたくお迎えになった、株式会社○○さまとは平成の前の年でしたから西暦で言いますと、えーと……」

「えー、あー」+「中身ゼロ」のあいさつを「ノイズだらけ」といいます。編集で「ノイズ(無駄)」をカットすると、この人は、結局何も言っていないことになります。ノイズは極力排除しましょう!

この方、これだけですでに持ち時間の3分の1近くを費やしてしまいました。「丁寧な人だ」と思ってくれる人より、「退屈だ」「気の利いたことを言え」と腹を立てる人の方が多い気がします。

前口上は短いに限ります。だからこそ、コンテンツは「原稿に書いてみる」ことをお勧めしているのです。本番では原稿丸暗記ではなく、「原稿に記した内容」を「あたかもフリートークであるように話せるレベル」まで、ストップウオッチで計測しつつ声に出して練習します。聴衆の反応する「間(ま)」も意識してリハーサルします。その様子の動画を、スマホで収録してください。他人から見た真実の自分がそこにいます。

「私はこんな顔で話しているのか……」。初めは慄然(りつぜん)とすることでしょうが、客観的な自分のスピーチを繰り返し目の当たりにすることが、「披露(デリバリー)能力」アップへの近道なのです。スピーチの出だしは、こんなシンプルな感じがいいですね。

「突然こんなオヤジが出てきてすいません。紹介いただいた○△と申します」

視線はZの字を描くように、客席左奥から右奥へ、右奥から左手前、そして右手前へ。会場全体に視線を送りながら話すと、目配りの利いた話し方だと思われると説くスピーチ本もあります。

「華やかな女性がたくさんいらっしゃいますが、お料理を召し上がったあと、そっと手鏡を取り出してお顔をチェックなさる様子を拝見しました。すてきですねえ。先日、その手鏡に、なんとも意外な力があると聞いてびっくりしたのです!」

話し手の後ろの一言が、ニュース報道でいうところの「リード」です。リードには、その先、話す内容をあらかじめ告げ、期待感を盛り上げる効果があります。

アナウンサーがニュースを伝えるとき、まず「見出し」を短く言いますね。

アナウンサー「日銀がさらなる金融緩和に踏み切りました」

これがリード。この先もっと詳しく話しますよ、との合図です。リードに続いて「日銀の黒田総裁は、今日午後の会見で……」といった「本格的な中身」に入るので、私たちはストレスなくニュース全体を聞くことができます。

リードで話す内容の概要を予告することにより、聞き手の理解度が、ぐっと増します。コンテンツ作りの過程で行った「見出し・タイトル付け」がここで役に立ちます。


突然のスピーチ対策まとめ

今回の内容をまとめましょう。

1.さまざまな場面・聞き手に対応できる多彩なネタを蓄積、保存しておくこと。目にするものは全てネタの元だと考え、時間を惜しまずコンテンツ=ネタを探しましょう。

2.ネタを身近な人にどんどん話し、練り上げてブラッシュアップ。スピーチコンテンツの質をグンとアップさせましょう!

3.リードを使い、間を生かし、一文を短く簡潔に。ノイズ(無駄)を排除して、聞き手の頭の中に「具体的な絵」を送信するように話しましょう。

4.スマホとストップウオッチを駆使。目の前に聴衆をイメージして日々訓練!

5.突然のスピーチをクリアすれば、宴席は百倍楽しくなり、人望がますます高まると信じましょう!


筆者プロフィール
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梶原 しげる (かじわら  しげる)

早稲田大学卒業後、文化放送に入社。20年のアナウンサー経験を経て、1992年からフリーとしてテレビ・ラジオ番組の司会を中心に活躍。49歳で東京成徳大学大学院心理学研究科に進学、心理学修士号取得。東京成徳大学経営学部講師(口頭表現トレーニング)、日本語検定審議委員も務める。

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