その他 2016.08.31

vol.12 目からウロコの敬語の力

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2016年9月号

敬語の機能その1
話の向かう先を高めて敬う働き

これは、敬語の種類の1つ「尊敬語」の定義でもあります。敬語というと、まずこれをイメージすることが多いのではないでしょうか。「敬う人なんかいないから敬語は使わない」と発言した学生の敬語のイメージは、これかもしれません。


敬語の機能その2
「困った相手を遠ざける働き」

例えば、近年各地でいわゆる“暴対条例”が施行され、善良な市民が、暴力団の理不尽な要求に屈しないための暴力団対応マニュアルを作成しているところが増えています。

役所に押し掛け、がなり立てて不当な要求をしたり、地上げのために立ち退きを迫ったりする目的で怒鳴り散らすコワイ人には、「敬語を使え」とマニュアルで示唆しています。

尊敬したくない人に敬語? なんだか不思議ですね。例えば、次のような対応を推奨する市があります。

A「これ以上大きな声をお出しになりますと、庁舎管理規則により退去していただくことになりますので、お静かにお話しください」

押し掛けられた役所の担当者は、(1)声をお出しになる(尊敬表現の「お〜になる」)、(2)退去していただく(謙譲表現の「いただく」)、(3)お話しください(尊敬表現の「お〜ください」)と、敬語を3つも用いています。

B「お話は伺いましたが、○○はできません。お引き取りください」

Aより短い内容ですが、Bも敬語が満載です。(1)「伺いました(謙譲語の「伺い」+丁寧語の「ました」)、(2)できません(丁寧語の「ません」)、(3)お引き取りください(尊敬表現の「お〜ください」)と、これまた3つの「敬語」が使われています。

わずか2つの例ですが、これらをご覧になった今でも「敬語とは話す相手を尊敬する言葉」「敬語とは敬いを表す心」だと言い切れますか?

ここでの敬語は、尊敬を表す目的ではなく、困った相手を遠ざけるために使われています。

もっとも、任侠の世界に憧れて「俺は尊敬の気持ち、尊崇の思いから、このマニュアルを使っているのだ!」とおっしゃる方もおられるかもしれませんが……。