vol.11 雑談力で部下の力を引き出そう
2016年8月号
落ち込む部下を正論ではなく雑談で元気づける技
大事なプレゼンを来週に控え、部下のCさんは悲痛な表情で鬱々(うつうつ)と独り言を口にします。2つの、正反対の上司の対応を見てみましょう。
(1)正論で説き伏せようとして失敗する上司の例
Cさん「無理です。前回もそうでしたが、今回も絶対しくじるに決まっています。心配で何日も寝ていません(ひどく落ち込んだ様子)」
部長「君が弱いからダメなんだ。甘えるな! 頑張れ! 死ぬ気でやれ!」
部長は懸命に応援するのですが、Cさんは「死ぬ気でやる」どころか、本当に死んでしまいかねない様子です。
(2)思わぬ雑談プレーで成功に導いた上司の例
Cさん「今回も絶対しくじるに決まっています(ひどく落ち込み、鬱(うつ)状態)」
部長「緊張するのは、君の中にすんでいる『上がり虫』が悪さをしているからだと僕は思う。虫さえ退治すれば解決する」
Cさん「え! そうなんですか?」
部長「退治すれば、うそみたいに治る。どうだ、一緒に虫退治の戦略会議を行おうじゃないか。虫が動き出すと、いつもどうなるの?」
Cさん「どうなるって……マイクを持つ手が震えます……」
部長「そりゃあ、手持ちマイクが虫の好物なんだ。排除! 虫が嫌いなピンマイクに変えよう」
Cさん「!?」
部長「他に虫の好物は?」
Cさん「原稿用紙を手に持つと震えるんですが……それも好物?」
部長「原稿用紙撤去! 原稿は全てパワーポイントに書き込んで、そのまま読んじゃえばいいじゃないか。これで上がり虫を無力化できる」
Cさん「なんだか、気が楽になりました」
部長「虫が大好きな辛口批評家の局長も、今回は出張でいないから、虫はまさに虫の息さ!」
Cさん「部長……!」
部長「緊張や不安は君のせいじゃない。悪いのは上がり虫のやつなんだから」
この雑談、とっぴすぎて「ついていけない」とお怒りかもしれませんが、これは「過緊張や不安症など、心理的困難を抱える人」の悩みを解消する心理療法の技「外在化」(悩みを自分のせいでなく自分の外にある別の物に置き換える治療法)の1つなのです。頭をぶつけて泣き叫ぶ子どもに「痛いの痛いの飛んでいけ~!」と母親が言ったりしますでしょう? あれと同じです。
「正論」より、「雑談風なストーリー」で救われることさえあるのです。雑談力、「すごい」ですね!
筆者プロフィール
梶原 しげる (かじわら しげる)
早稲田大学卒業後、文化放送に入社。20年のアナウンサー経験を経て、1992年からフリーとしてテレビ・ラジオ番組の司会を中心に活躍。49歳で東京成徳大学大学院心理学研究科に進学、心理学修士号取得。東京成徳大学経営学部講師(口頭表現トレーニング)、日本語検定審議委員も務める。
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