vol.11 雑談力で部下の力を引き出そう
2016年8月号
雑談の極意は Listening is Loving
雑談狙いの質問が、期せずして仕事に結び付いた例を紹介しました。今度は逆に、仕事の質問を雑談に発展させる技を見てみましょう。
(1)うまくいかない、残念な例
部下「部長! 今ちょっといいですか?」
部長「いいよ(パソコンの画面を見ながらキーボードを動かす手を休めることなく作業を続け、部下に顔を向けない)」
部下「あのー、部長がおっしゃっていた例のA社に提出するプランを3つほど考えてみたんですが、いかがいたしましょうか?」
部長「(カチャカチャとパソコンを操作しながら、振り向かず)じゃ、そこのデスクの脇にでも、置いといてもらっていいかな? 時間のあるときに見るから(カチャカチャ……)」
部下「承知しました」
部下は言われた通り、提案書をデスクに置いて、その場を立ち去りました。後ろ姿が悲しげです。
膨大な仕事を抱える多忙な上司としては、致し方ないかもしれません。しかしこれでは、仕事の話を雑談につなげ、職場の空気を良くすることはできません。
(2)単なる仕事が雑談に発展する、望ましい例
部下「部長! 今ちょっといいですか?」
部長「いいよ(パソコンのキーボードから手を離し、サッと部下に体を向け、穏やかな笑顔で話を聞く体勢に入る)」
部下「部長がおっしゃっていた例のA社に提出するプランを3つほどまとめてみたんですが、見ていただけますでしょうか?」
部長「さすがB君、反応早いねえ! どれどれ(興味津々、ほー、えー、と感心しながら読み進む)いいねえ! 面白い! どうだろう、この段落の空いたスペースに、君の得意なスナップ写真1枚添えたら、もっと良くない?」
部下「え? 部長、入社面接で、私が学生時代、写真部だったって申し上げた話、覚えていてくださったんですか?」
部長「もちろん。僕も、写真、好きなんだ。君の輝かしい受賞歴を生かさないのはもったいないよ」
部下「明日朝イチには、出来上がったものを、お持ちします!」
部長「10時半に会議が終わるけど、そこでどう?」
部下「承知しました!」
部長「今度、時間のあるときにでも、撮影術、教えてもらおうかなあ(笑)」
部下「私でよければ、喜んで!(笑)」
ビジネストークがいつの間にか「雑談混じりのカジュアルトーク」になってきました。上司と部下の距離がぐっと近づく瞬間です。
成功の秘訣は、部長の「聴く」姿勢にありました。部下の話を聞くべきときは、しっかり聞く=聴くことに集中する。「傾聴する姿」が信頼や親密さを形成します。
“Listening is Loving”—傾聴とは他者に愛を捧げることでもあります。雑談でも仕事でも、大事なのは人の話に耳を傾ける姿勢なんですね。