vol.10 不適切な日本語がコミュニケーションを阻む?
2016年7月号
6月から採用試験・面接も始まり、就活生、企業の採用担当者双方とも、一足早い、“熱い”夏をお過ごしのこととお察し申し上げます。
私がよく知る若者A君は、7月早々に行われる2017年度教員採用1次試験を前に必死の形相です。
実際にどんな問題が出されているのか? 好奇心に駆られた私は、2016年度の採用試験の問題を見てみました。そこで、「求められる能力は、先生もビジネスパーソンも一緒だなあ」と感心したのです。
B県の採用試験では、誤って理解されることでコミュニケーションが阻害されがちな言葉の意味をただす設問がありました。例えば、「役不足」という言葉。
質問:「役不足」の正しい意味は何ですか。
正解は「本人の力量に対して役目が軽すぎること」でした。
「えー!? そうだっけ?」
戸惑いを感じる方も多いのではないでしょうか。なぜなら、実際には逆の意味で使われることも珍しくないからです。
ビジネス現場をイメージしてみてください。上司は、部下の日頃の努力を買って主任に昇格させることを告げました。当然、部下は大喜びだと思ったのですが―。
部下「主任など私には役不足ですが……頑張ります」
上司「役不足!? 主任では役職が不足なのか? せっかく取り立てたというのに、何が不満だ?」
こういう事態が発生しかねないのは、「役不足」に対して全く逆の認識があるからです。
「役不足」を本来の意味と逆の意味で使うのは、若者ばかりではありません。
中年幹部「この度、営業部長を拝命いたしました、鈴木でございます。甚だ役不足ではございますが……」
鈴木さんの態度や物腰を観察すれば「役が小さくて不満でしょうがない」とクレームを付けているのではなく、「自分にはもったいないほど素晴らしい役職を授かった喜びを、謙虚に述べている」と察することは可能です。
しかし、鈴木さんを部長に推挙した上司たちの中には、「部長で不足か?」とちょっぴり皮肉を言いたくなる人もいることでしょう。「こんなに言葉に鈍感だなんて、彼のコミュニケーション能力は大丈夫か?」と、心配になってしまうかもしれません。