vol.1 突然の指名をどう切り抜ける?
梶原しげる
2015年10月号
「思い付いたこと」でうまくいくことはほとんどない
答えはただ一つ。「パーティーに出席するときは、どんな場合であれ、スピーチを用意しておくこと」です。「え? そんなこと??」と、あまりに当たり前な提案にあぜんとする方もいらっしゃるでしょう。
しかし実際はどうでしょう?
事前に「祝辞をお願いします」と予告される創業記念式典や、大事な人の結婚披露宴はともかく、カジュアルなゴルフコンペ後のパーティーや、社内の成績表彰式、展示会を無事に終えた後の軽い「ご苦労さん会」など、オフィシャルではない気軽な会合でこそ、突然の指名という「非常事態」発生のリスクは高まります。
「そんなもん、適当に思い付いたことしゃべればいいんじゃない?」。こういう考えは大変危険です。
場がどんなに和んでいようと、お気軽な空気であろうと、だからこそ、会場の人々は場の和む「気の利いた話」に「笑おう」と待ち構えているのです。楽しいひとときを、さらに楽しく盛り上げてくれることを期待しているのです。「仕事もできるけど、人としての器量が違うよなあ」。そう感心したがっているのです。
ところが、あなたのあいさつがこうだったらどうでしょう。
「いやあ本当にもう、あのう、まーとにかく、本当に、先輩たちが大勢いらっしゃる中、輩者である私のような若い者が、ごあいさつさせていただくのは光栄の行ったり来たりで、なんと言いますか、高い席から一言、簡単に言うとですね、思い返せば20 年前、正確には2004年の5 月、青葉若葉の頃ですから、21 年弱前ですか、村上社長様とは長いお付き合いを。え? あ、上村社長? 失礼しました、村上社長様とは……」
「人前で戸惑う様子を、寸劇風ジョークとし披露する」という「明確な意図」をもって演じられるならまだしも、単なる準備不足による「失態」だと始末に負えません。
前置きと、言い訳を決まり文句でダラダラつなげ、脈絡のないタテマエを延々と口にする「痛いあいさつ」を続ける人への評価は悪化するばかりです。「行き当たりばったり」「出たとこ勝負」で当意即妙なあいさつを行うなどという芸当は、ごく一部の天才以外には無理だと断言します。
私はもちろん、プロである放送業界の先輩たちの多くは皆、いつ突然の指名があってもいいように、周到な準備と予行演習をして会合に臨んでいるのです。