2016年3月号
立川志の春さんが自慢できなかった理由
そもそも自慢には高度なテクニックが必要です。誰もが同じようにすればうまくいくものでもありません。「あいつが自慢するのは許せるけど、あいつは許せない」と厄介なのです。
超名門「イエール大学卒業」「三井物産入社」との誇るべき経歴をネタに笑わせる噺家の立川志の春さん(立川志の輔門下)は、ついこの間まで「自慢してはいけない人」でした。
英語で語る古典落語で新境地を開き、国内外のネイティブを大爆笑させる「才人」と話題を呼んで以来、「自慢してもいい人」になれました。
その志の春さんが、イエールも三井物産も、自分からは語ることができなかった時代の苦労話を、しみじみ語ってくださったことがあります。
梶原「噺家さんが、クリントン夫妻やブッシュ元大統領の同窓生なんて、意外性があって、最高の洒落じゃないですか! 大ウケだったでしょう?」
志の春「とんでもない。入門早々えらい失態を演じてしまいました。事実を事実として話すのが当然と思われる米国文化と、謙遜を尊ぶ日本文化は根本的に違うのだと思い知らされました」
梶原「帰国子女で、有名受験校から世界の名門イエール大学へ。在学中はラグビーの人気選手。帰国後は三井物産入社。商社マンとして世界を股にかけ、そして今は噺家さん。この大きな落差は、笑いの王道みたいな気がするけどなあ」
志の春「私の履歴を、いくら冗談や洒落にまぶして話しても、お客さまが『自慢だ』と思ったら、それは嫌味な自慢話。セクハラと同じです。いくら言い訳しても相手がセクハラだと思ったら、それはセクハラなんです」