vol.4 着席パーティー 見知らぬ人にどう振る舞う?
梶原しげる
自分の「役割」に求められるもの
新婦の父はそんな「さまつなこと」は一切気にしていない様子です。50代半ばとは見えないほど、若々しくアクティブでフレンドリー。われわれ3人に満面の笑みで話し掛けてきます。
その様子がなんとも面白く、吹き出す私にお父さんは大喜び。さらに話を被せてくるのです。私が中国語を話そうと話さまいと、頓着しません。「大陸的」とはこのことでしょうか?
アルコール52度の白酒(中国酒)を両手に掲げ、何度も勧めてくださいます。5回に4回はお断わりするのですが、1回は断わりきれず、それが続いてヘロヘロです。
お父さんは面白がって、スマホのシャッターをどんどん押し、フラッシュがパシャパシャ光り、目の前がチカチカしてきます。お父さんは目一杯われわれにサービスしようとします。
「娘をどうか、よろしく!」
切なる願いが込められていました。娘を手放す親心。そりゃあ不安だったでしょう。
新郎が私をこの席にしてくれた理由が、少しだけ分かった気がしました。「商売柄、何かと気が付いて、サービス精神旺盛な梶原さんなら、娘を異国に嫁がせるちょっぴりメランコリックになりがちな家族を楽しい空気でいたわってくれる」との期待。
そう感じた瞬間、私の「役割スイッチ」が入りました。
わずかな言葉の断片に、身振り手振り、仕草、声の調子、表情、笑顔など非言語を総動員して、家族のだんらんを味わっていただけるよう心掛けました。
すると、それまで黙り込みがちだった80歳のおばあちゃま。筆談を介して雑談しているうち、すっと立ち上がって踊り出したのです。われわれのテーブルは手拍子、拍手で湧き立ちました。
もしこれが立食であれば、言葉の通じない私は諦めてその場から「逃げた」可能性がありました。長い間同じ時を過ごせる、着席の場だからと観念したからこそできた気遣いだったかもしれません。
着席の場には、時間をかけて「友情」を育む力があります。主催者から指定された席に座り、気負わず自然に初対面の相手とやりとりする。無理なく気持ちを通わせる。時の経過とともに、テーブルを同じくするメンバー全体に、じわじわと親しみの感情が熟成される。立食にはない着席の大メリットです。
こうした経験を通して理解した、経営トップの皆さんが軽々とそつなくその場をやり過ごすという作法が、実はとても優れた「能力」だと、あらためて思い知ることとなりました。
筆者プロフィール
梶原 しげる (かじわら しげる)
早稲田大学卒業後、文化放送に入社。20 年のアナウンサー経験を経て、1992 年からフリーとしてテレビ・ラジオ番組の司会を中心に活躍。49 歳で東京成徳大学大学院心理学研究科に進学、心理学修士号取得。東京成徳大学経営学部講師(口頭表現トレーニング)、日本語検定審議委員も務める。
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