Vol.43 そんなつもりで言ったんじゃない!?
2019年4月号
4:御の字
「前半戦を0対0で終えれば御の字ですね」。ワールドカップ予選、強豪チームを相手に戦うテレビ中継などで言われたりする「御の字」の本来の意味とは何でしょう?
A:一応、納得がいく
B:大いにありがたい
「70点取れれば、御の字だ」で尋ねたところAの「一応、納得がいく」で使う人が約51%、Bの「大いにありがたい」で使う人が約38%と、AがBを13%ほど上回っていました。
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ところが辞書的(本来の意味)には「大いにありがたい、望んだことがかなって非常に、十分満足できること」と、こぞってBを支持しています。
営業本部長「今回の各支店の売り上げ一覧ですが、こんな数字が上がってきています」
社長「おー、君!こりゃあ、御の字じゃないか!」
辞書的な解釈をすれば、このように言われた場合「君、最高だねえ!」と絶賛されたものと、もっと激しく喜んでもよさそうなのですが、実際の調査では言われた側が「控えめな反応」を示してしまう実態が浮かび上がってきます。
「御の字」という言葉、あなたはどう反応しますか?
5:ぞっとしない
「今回の映画は、あまりぞっとしないものだった」。この例を挙げて、世論調査が過去2度(2006年度、2016年度)にわたり行われました。次の2つの選択肢で尋ねています。
A:面白くない
B:恐ろしくない
調査の結果では、2回ともBの「恐ろしくない」が、Aの「面白くない」を、1回目の調査では倍近く、2回目はそれをさらに上回る数字で選択されています。本来の意味はAの「面白くない」や「感心しない」ですから、これも多くの人が逆の認識をしているという結果です。
「アカデミー賞を取った後の作品だからと期待して見たのだけれど、今回はあまり面白くなかったなあ」という場面で「ぞっとしない」が使われています。
「ぞっと」とは「恐ろしくて、身の毛がよだつ様子」を記述する副詞だからか、ぞっとしないという句への調査の回答が、それに引っ張られた印象ですね。
「怖さ」や「スリル」を求めた怪奇映画の出来が悪く「ぞっと、鳥肌の立つ」シーンが少ないのが不満だったから「今回の映画あまりぞっとしなかったね」、というわけじゃあないということです。
言葉の変化、本来の意味と実感とのズレ、何か仕事の役に立ちそうでしょうか?
筆者プロフィール
梶原 しげる (かじわら ?しげる)
早稲田大学卒業後、文化放送に入社。20年のアナウンサー経験を経て、1992年からフリーとしてテレビ・ラジオ番組の司会を中心に活躍。49歳で東京成徳大学大学院心理学研究科に進学、心理学修士号取得。東京成徳大学経営学部講師(口頭表現トレーニング)、日本語検定審議委員も務める。
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不適切な日本語
梶原しげる著/新潮新書
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