その他
2019.02.28
Vol.42 82歳の和子さんが学び続ける理由
2019年3月号
毎日を楽しんでいた夫の病
ある日、和子さんを車に乗せた夫が東京・八丁堀界隈を通過した時、ある看板を見てつぶやきました。
「へえ、早稲田がここにもあったんだなあ」
何十年も前、早稲田の理工学部に学んだOBが、うれしそうに指さしたそれこそが、和子さんがその後通うことになった早稲田オープンカレッジでした。
定年退職から15年。新たな学びからもう一つ別の人生を切り開き、元気いっぱいだった夫は、80歳を迎えたころ、腰に痛みを感じました。医師に診てもらうと脊柱管狭窄症との診断でした。
「よくこれまで我慢されましたねえ」。夫に写真を見せながら説明する医師は驚いたようですが、ご本人は毎日が充実して楽しく、さほどの異変とは気が付かなかったようです。
手術は無事成功したものの、その後病魔が次々襲い掛かります。81歳で脳梗塞に罹患。治療とリハビリの成果が上がり、克服したと思ったそのすぐ後、今度は心臓の異常が見つかり、闘病生活で入退院を繰り返します。
そして2017年夏、夫は、和子さんや子どもたちにみとられ、旅立ちました。
「家の中には夫が遺してくれたものがたくさんあります。書棚、家具、庭の花壇。夫が生前『種をまいたんだけれど、今年はなかなかうまく芽を出してくれないんだよなあ』としきりに心配していた花が芽吹いた時は、『あ、ねえあなた、ほら、咲いたわよ!』と思わず夫に声を掛け、あ、そうか、もういないんだとわれに返ったり……」と和子さん。
「公園に行けば夫の作ったベンチや花壇の囲いを見ることができるんですが、あえて行こうという気力が湧いてこなかったんです」