Vol.41 「大丈夫です」の功罪
2019年2月号
本来の意味が「フワフワ化」
普通の社会人なら一日に一度や二度は必ず目にし、耳にする、ごくごく日常的なやりとりも、こんなふうにあらためてチェックを入れると「意味不明感」が募ってきませんか?
私たちは口に出して発する言葉に「確固たる意味がある」と信じがちですが、そうでもない「フワフワした、つかみどころのない言葉」を投げ掛け合い、「なんとなく分かった気」になっていることがあるものです。
フワフワした言葉の代表選手こそが、まさに「大丈夫」という単語です。「大丈夫」を「儀式化されたレジ前の会話」ならまだしも、社内の人間関係を左右するような場面で使用するのには細心の注意が必要です。
そのことは、言葉の新しい使われ方を積極的に掲載することで知られる『三省堂国語辞典』の最新版(第七版)を見ても分かります。
①②と伝統的な語釈を記した次の③に「俗」としながら、ファミレスで働く若い人が使う「お皿をお下げしても大丈夫ですか」を例に「よろしい・けっこう」という許諾表現を。さらには「レジ袋は大丈夫ですか=ご不要ですか」「はい、大丈夫です(いりません)」という「要・不要」で使われる「大丈夫」にも踏み込んでいます。
「確かに言うよなあ」「ちょっと違和感あるけどなあ」などさまざまな声が聞こえてきそうですが、辞書もこの手の表現を見逃さないのです。
ベストセラーシリーズ『問題な日本語』(大修館書店)の著者としてもおなじみ、北原保雄先生が編纂した『明鏡国語辞典第二版』でも、「伝統的な意味」に加え、相手の勧誘などを遠回しに拒否する俗語の例文「砂糖は二個?」「いえ、大丈夫です」を挙げています。
「大丈夫」の「多様化」「意味の拡大」「フワフワ化」にストップがかからない様子は『デジタル大辞泉』を見ると、さらに進んでいる様子がご覧になれます。
大辞泉とは、小学館が発行する25万語を4000ページに収録した大型辞典です。このおなじみの紙版に加え、スマホやiPadなど端末で読めるアプリ版辞書、その名も『デジタル大辞泉』に「大丈夫」の今がリアルに見えてきます。
紙版の改定には多くの場合10年ほどの歳月を必要としますが、このデジタル版はなんと1年間に3回もの更新(いわば、改定が年3回!)が可能となったことで「最新の言葉を引ける未来の辞書」を実現してしまいました。