vol.36 気遣い言葉にご用心
2018年9月号
真剣に聞いていないように受け取られてしまう
上司「言葉遣いについて細かいことを言って、パワハラだと誤解してほしくないんだが、その『なるほどですね』って口癖、あまりお客さまには使わない方がいいかもしれないよ」
彼「え、なんでですか?」
上司「うまく説明できないが、『話を軽く受け流された感』が気になるんだよね」
彼「『なるほど』単体だと上から目線だと私も思いますが、『ですね』を添えれば、敬語的な響きもして、相手先にも気持ちよく受け止めてもらえると思っていました」
上司「なるほどねえ」
新明解国語辞典第七版(三省堂)には「なるほど」についてこんな記述も見つかりました。「相手の話を聞きながら、『確かにその通りだ』と言う気持ちを込めて相槌を打つ言葉として使われる。ただし立場の上の人には用いない」
すなわち、「目上の人が発言した内容に対して、(なるほど、と)そもそもこのような『評価』を下すこと自体が失礼である」との見解が示されています。その一方で「なるほどですね」については一切触れていません。完全無視です。
私が見る限り「なるほどですね」を載せている唯一の辞書は、三省堂国語辞典第七版(同)です。そこから一部引用します。
「『感嘆詞』賛成を表す、あいづちの言葉。<俗に>『です』をつけて『ああ、なるほどですね』のようにいう」
「なるほどですね」を掲載しているからといって、この辞書がこの表現を推奨しているわけではありません。言葉の「現状」「トレンド」をそのまま伝えようという編集方針を貫いているだけで「使え」「使うな」という基準を示しているわけではありません。
ちなみに、マナー本の類いをパラパラっと見るとそのほとんどが「なるほどですね」を否定的に記述していました。中には「ですね(丁寧語)をプラスしても、ダメなものにダメな言葉をプラスしているので、結局はダメなことに変わりはありません」と、やや感情的な調子で否定しているものも見つかりました。
「相槌」はコミュニケーションを円滑に進める上で重要な武器です。「なるほどですね」もその一つ。それを奪われるのは結構なダメージです。使い慣れた言葉を使うなと言われると、「スムーズな商談」に不都合を来す人が出てきても不思議はありません。
「なるほどですねの代わりに、なんと言ったらいいんですか!?」
そんな人に向けて、あるマナー講師はこんな提案をしています。
①「おっしゃるとおり」への変換、②「なるほど、そうですね」への移行、③「さようでございますか」を新たに採用。
最後はちょっと時代がかっていると、抵抗を示す若い世代がいそうですが……。
私の尊敬する、NHK放送文化研究所の塩田雄大・主任研究員はかつて、研究所のサイト内にある「最近気になる放送用語」で「なるほどですね」についての調査を行っていました。
全国の1530人を対象としたWebアンケートの結果、「なるほどですね」を「聞いたことがある」と回答した人が43%、抵抗感があるとの回答が88%でした。
これを受けて塩田さんの言葉。
「なるほどですねは、特に最近(2009年時点)になって頻繁に使われているようです。しかし違和感を覚える人も多く、少なくとも現時点では、放送では余り使わない方がよいでしょう」
あれから9年がたった今「なるほどですね」についての新たなる大規模調査が行われたとの話は聞こえてきません。「新しい表現」が定着したのか?衰退したのか?言葉もはやり廃りが激しいようです。