vol.34 広がる「ICレコーダー」の用途
2018年7月号
ICレコーダーのまったく違う使い方を提案する人がいました。
10年ほど前のことだったと思います。ビジネスグッズとして定着していたICレコーダーを「家庭のママさんにこそ、使ってほしいんです!」とテレビの画面から熱く訴えていたのが、あのジャパネットたかたの髙田明社長(当時)でした。
(以下は私のあいまいな記憶に基づくものです)
テレビの髙田さん「皆さん!ビジネスマンや学生さんにおなじみのICレコーダーを、私は家庭のママさんに使っていただきたいんです!」
見ている梶原「あ……どうして??」
髙田「昔はお母さんが家にいて、朝食を作り子どもを学校に送り出し、家のお仕事や内職をしてお子さんが帰ってきたらお帰りなさいと迎えることができました。でも皆さん、今は違いますね?」
梶原「そういえば、働くママさんが当たり前だなあ」
髙田「学校を終えて家に帰ったお子さん、ランドセルから鍵を出し家のドアを開けて入っても誰もいません。寂しいですねえ」
梶原「そうだなあ」
髙田「そんなとき、玄関の靴箱の上にお子さんへのメッセージを吹き込んだICレコーダーを置いてあげるんです」
梶原「それで?」
髙田「レコーダーはビジネス用とは違ってお子さんでも十分使えるように、録音、再生、停止の3つに色分けされた大きなボタンだけで操作できます。あらかじめお子さんには、家に帰ったら、まず緑色のボタン(再生)を押してみてねと言っておくんです。『あ、ママの言っていたコレだ!』とお子さんがボタンを押しますね? すると朝ママが吹き込んでおいたメッセージが流れるんです」
梶原「え??」
髙田「舞ちゃーん! お帰りなさい! 学校頑張ったね、お腹空いたよね。台所の冷蔵庫を開けると一番上の棚の右側にシュークリームがあるからおやつに食べてね。ママはこの後5時にはおうちに帰るから、それまでに宿題やって待っていてね。玄関の鍵は閉めておいてね。4時を過ぎたら電気をつけてね。今日は一緒にカレーライス作ろうね」
ICレコーダーを、親子の伝言板として使おうとの提案なのです。誰もいない部屋に一人で帰る娘の寂しさを、ママの明るい声が勇気づける。5時が待ちきれない舞ちゃんが、ICレコーダーの緑色の「再生」を押して何度もママの温かい声を聴く姿が目に浮かびます。
この髙田さんの呼び掛けで、それまでICレコーダーではまったく未開拓分野だったママさんマーケットが一気に広がったと聞いたことがあります。
事件抑止のICレコーダーも大事だけれど、母子をつなぐICレコーダーもすてきだなあ。
筆者プロフィール
梶原 しげる (かじわら ?しげる)
早稲田大学卒業後、文化放送に入社。20年のアナウンサー経験を経て、1992年からフリーとしてテレビ・ラジオ番組の司会を中心に活躍。49歳で東京成徳大学大学院心理学研究科に進学、心理学修士号取得。東京成徳大学経営学部講師(口頭表現トレーニング)、日本語検定審議委員も務める。
\著書案内/
不適切な日本語
梶原しげる著/新潮新書
821円(定価)