vol.32 “脱サラ”して分かった会社という居場所
2018年5月号
これとは別のケースで「もうサラリーマンじゃないんだ」と寂しい思いをした体験がありました。独立して最初のレギュラー番組が、峰竜太さんといっしょに担当した、月~金曜日放送のテレビ生番組でした。
実際の放送日にはテレビ局差し回しのハイヤーが迎えに来てくれるのですが、「突然の打ち合わせ」なんて場合は、自分で行かなくてはなりません。
その日はたまたま事務所のマネージャーに用があり、私は1人で電車に乗ってテレビ局へ出掛けました。あいにくの雨です。濡れた傘を持って、まだ不慣れだったテレビ局で迷子になっているところを峰さんが見つけてくれました。そして笑いながら言いました。
峰さん「梶さん、タレントが傘持ってテレビ局の中うろうろするの、あんまり格好よくないかもしんないよ」
梶原「そういうもんですか?でもさっきエレベーターを降りたところで見掛けた人気アナウンサーの○○さん、濡れた傘持ってましたよ」
峰さん「局アナさんは、社員だから局に置き傘もあるし、自分のロッカーも、椅子も机もあるじゃない。僕らタレントは、いつどうなっちゃうか分かんないから、何にもないの。だから普段から、傘もいらない、コートだっていらない、必要なものは全て車に入れておく。そういうスタンスをとる定めなんだよね。タレントの車がばかでかいって、見えっ張りだって笑う人がいるけど、そういう理由もあるんだよね」
峰さんから教えてもらった「フリーという立ち位置」は全てなるほど納得でしたが、一方で、「サラリーマンという居心地の良い場所」に自分は二度と戻れないのだという現実を突き付けられました。脱サラも、それなりの根性を求められるものだと、今さらのように思い知らされたのでした。
あの当時は脱サラがブームでしたが、今は転職が盛んです。状況が似ていなくもありませんが、大きな違いは、情報量!ネットはもちろんですが、冒頭に記したように書店へ行けば「転職特集」を載せた雑誌や書籍がいくらでも見つかります。
「今の会社、辞めちゃおうかなあ。うまく転職するにはどうしたらいいのかなあ」
そんな思いで書店で立ち読みするビジネスパーソンへ、某ビジネス雑誌からのメッセージを再度ここに記しておきます。「転職準備を会社の仲間に知られないように注意する」。「あいつ転職狙っているらしいですよ」なんてうわさはすぐ社内に広がり、円満退社を阻害する要因となる可能性がありそうです。
円満退社は、転職成功の大事な条件なんですよね。「転職雑誌」は立ち読みしないで、お金を払って、家へ帰って読みましょう!
筆者プロフィール
梶原 しげる (かじわら ?しげる)
早稲田大学卒業後、文化放送に入社。20年のアナウンサー経験を経て、1992年からフリーとしてテレビ・ラジオ番組の司会を中心に活躍。49歳で東京成徳大学大学院心理学研究科に進学、心理学修士号取得。東京成徳大学経営学部講師(口頭表現トレーニング)、日本語検定審議委員も務める。
\著書案内/
不適切な日本語
梶原しげる著/新潮新書
821円(定価)