その他
2018.04.27
vol.32 “脱サラ”して分かった会社という居場所
2018年5月号
仲の良かった先輩が
Aさん「梶原さん、どうぞこちらへ」
ソファーを勧めるその言い方が、いつもとまるで違うのです。
Aさん「ではこれから弊社にお返しいただくものから説明いたします」
「弊社」とは、「赤の他人・よそ者」に向かい、自分の会社をへりくだって表現する謙譲語です。すなわち、この時点で私はすでに、この会社の人間ではないということです。もちろん、意図したわけではないのでしょうが、ものすごく寂しい気持ちがこみ上げてきました。
「先輩!そんな他人行儀な言い方やめましょうよ」と軽口をたたく雰囲気ではないのです。
根が真面目なAさんは、「退職の儀式」を正式にきちんと執り行うことこそが、はなむけにふさわしいと判断されたのでしょう。
しかし、鈍感男の私はこの時初めて「ああ、俺この会社辞めちゃうんだ」と、事実と真正面から向き合わされた感じがしたのです。
Aさん「社員証は?」
梶原「はい、こちらにお出しします」
Aさん「承知しました。次に、背広の襟に付ける社章ですが、もし記念にお持ちになるということでしたら可能ですが」
梶原「お言葉に甘え、記念にいただくことにいたします」
Aさん「承知しました」
そして、「雇用保険被保険者離職票」といった失業給付に必要な書類や「源泉徴収票」などが、丁寧な説明とともに、厳かに手渡されました。
結局、退職後もこの放送局での番組は続いたので、毎日のように局へ出掛けたわけですが、「自分の立場は前とは違う」と自らに言い聞かせるような心境になりました。
もう「うちの会社」じゃないんですから。