vol.29 浅い人間関係、深い人間関係
2018年2月号
人間関係はいろいろ
日本カウンセリング学会が発行する学会誌『カウンセリング研究』で公開された、香川大学の研究者が発表した論文「浅い関係で用いられるスキルに関する研究(田中圭・宮前淳子、2015年)」。本誌をご愛読のビジネスパーソンが現代若者を理解する上で参考になるのではないかと思います。そのごく一部を紹介します。実に明快で、われわれ一般人にも分かりやすく、今後若い世代を職場に迎え、共に働く皆さまが読んで損のない内容です。
そもそも社会とは「人間関係」で成り立っています。多くの悩みや喜びは、人間関係と無縁ではありません。社内の人間関係、顧客との人間関係、地域や友人や親族家族との人間関係。対人関係・人間関係を断ち切って孤高を保つのは難しいのが現実です。
人間関係能力が高い人って?
「人間関係能力が高い人」というと、人当たりの良さ、愛想の良さなど対人スキルをフルに活用し、浅い関係をあっという間に乗り越えて、気が付いたら何十年来の親友か、兄弟か、というぐらい「深い関係に突入する能力に長けている人」とのイメージがあるかもしれません。浅い関係より深い関係の方が上だ、と考える人もいます。
立志伝中の「商売の天才」の多くは人間関係能力が高く、とりわけ深い人間関係を一気に築き上げ信頼を勝ち取る熱血事業家である、というステレオタイプな見方も存在しました。しかし、考えてみればどんな天才でも、全ての人と深い関係を取り結んでいたら心も体も持ちません。さらにビジネスシーンには「深い関係を持たない方がいい相手」だってたくさんいるはずです。そういう相手をあからさまに避けて対立するのも、商売の障害になります。
天才たちは経験的に「浅い関係を維持しながら、上手に距離を取る」という技を会得していった。だからこそ「天下を取った」ともいえます。
論文中では「浅い関係で用いられるスキル」は、「対立を避けながら、適切な距離を取りつつ、浅い関係は維持する」との高度な技を、若者たちが手にしようと努力する実態をあぶり出しています。