その他 2020.08.19

Vol.11 組織と個人に働き掛ける勇気づけ3

「勇気づけ」シリーズの3回目。今回は「勇気をくじく対応」と「勇気づける対応」の違いを具体的に見ていただきます。

 

 

前回(2020年8月号)は、リーダーシップに勇気づけのスパイスを加えるための「四つの心得」として、

 

❶ヨイ出し
❷心を込めての感謝
❸進歩・成長を認めること
❹失敗をも勇気づける

 

について述べました。

 

今回は、A社のあるケースを基に「勇気をくじく対応」と「勇気づける対応」の両方を味わっていただくことにしましょう。

 

 

事例:A社のワンシーン

 

坂本社長は、岡村課長が部下の池田君を叱っているシーンを見かけました(名前は全て仮名)。

 

「何をやってるんだ、おまえは。何度言ったら分かるんだ。いい加減にしろ!」

 

周囲の人たちもビックリするような大声です。

 

池田君は、最初はおとなしくしていましたが、「ですけど課長」と反論しようとしました。岡村課長は池田君を遮って、「おまえの言い訳なんか聞きたくない」と、またもや大声で発言を制しました。

 

このような場面を見掛けたあなたが坂本社長だとしたらどうしますか? 「勇気をくじく対応」と「勇気づける対応」の両方を考えてみましょう。

 

 

 

勇気をくじく対応

 

望ましくない、「勇気くじき」のいくつかの対応です。

 

一つ目は、見て見ぬふりをして、このやりとりに一切関わらずその場を逃れる。

 

二つ目は、話に割って入り、岡村課長側に立って「上司の命令は絶対だ。池田君が絶対悪い」と、事の内容を知ろうともせずに対応する。

 

三つ目は、2人の間に割って入って「岡村課長、それってパワーハラスメントだよ。絶対に君(岡村課長)が悪い」と、判定を下す。

 

一つ目のやり方だと、見て見ぬふりをする社長の態度を見ていた社員が「情けない社長だ」と失望し、さらには、社長が黙認したとも理解され、岡村課長のパワハラ気味の対応はこれからも続くことでしょう。

 

二つ目の対応は、池田君に「社長は自分をかばってくれないのだ」と感じさせ、周囲にも2対1の関係で威圧した印象を残します。

 

三つ目の対応は、岡村課長側に「問答無用で判断を下された」という印象が残ります。また、池田君と課長の関係がとても悪い場合、「自分は社長に正しいと認められたのだから」という理由で、池田君が今後、岡村課長を陥れるような策を用意するかもしれません。

 

パワハラの防止を企業に義務付ける法律(いわゆるパワハラ防止法)が、2020年6月から施行されています。中小企業の場合は2022年3月31日までの努力義務期間を設けた上で、2022年4月1日から施行されます。客観的に見て、業務上必要かつ相当な範囲だと判断される適正な業務指示・指導はパワハラには当たらないという解釈もありますが、従業員側から「精神的な攻撃(脅迫や名誉毀損、侮辱、ひどい暴言など)」としてパワハラと判断される行為だと指摘されると、会社側の立場は弱くなります。このことを踏まえると、A社の事例はかなり微妙なケースです。

 

 

 

勇気づける対応

 

では同じ事例に対して、「勇気づける対応」としては、どんなことが考えられるでしょうか?

 

対応に当たっては「尊敬(リスペクト)」「信頼」「共感」「協力」の態度が欠かせないことは言うまでもありません。

 

その1。「大声が気になったので」と2人の様子を見た上で介入し、別の場所に3人で移って、それぞれの言い分に耳を傾ける。

 

やりとりの場に社長が割って入り議論を続けていると、他の人たちを含めてどっちが正しいのか、勢力争いに発展しかねません。社長は、リーダーではあっても裁判官ではないので、それぞれの立場に共感を寄せながら中立的な立場を維持すべきです。ただ、論争中に割って入るより、少し時間を置いてから話し合うのが好ましいこともあります。

 

その2。岡村課長を制して、やはり他の場所に移って岡村課長をいさめるやり方です。

 

これは、理由はどうあれ、冷静さを失って「おまえ」呼ばわりをしたり、「おまえの言い訳なんか聞きたくない」と大声で発言を制したりするやり方は、「尊敬(リスペクト)」「信頼」にもとる行為です。組織にとって望ましくない、パワハラに相当する振る舞いであり、社長として、この行為は断じて許してはならないとも言えます。社長の理念を基に、同じような振る舞いを二度と見たくないということを、岡村課長に伝える必要があるのです。

 

勇気づけの風土を築き上げるためには、社長自身が毅然として「勇気くじき」をはびこらせないモデルを示さなくてはなりません。とりわけ、管理職の立場にいる人間による社員の尊厳を損なう行為は、撲滅しなければならないのです。

 

その1にも、その2にも言えることですが、社長自身が自己変革を遂げることによって組織変革が実現できます。社長は毅然とした態度を示し、パワハラの種を見過ごすようなことがあってはならないのです。

 

誤解されやすいのですが、勇気づけとは、相手をいい気分にさせることではなく、あくまでも「困難を克服する活力を与えること」です。そのため、社長は理念や目標にのっとり、「尊敬(リスペクト)」「信頼」「共感」「協力」の態度を基に、とりわけ管理職にこそ、身をもって毅然とした勇気づけの態度で接しなければならないのです。

 

 

 

 

「アドラー心理学」とは201912_adler_02
ウィーン郊外に生まれ、オーストリアで著名になり、晩年には米国を中心に活躍したアルフレッド・アドラー(Alfred Adler、1870-1937)が築き上げた心理学のこと。従来のフロイトに代表される心理学は、人間の行動の原因を探り、人間を要素に分けて考え、環境の影響を免れることができない存在と見なす。このような心理学は、デカルトやニュートン以来の科学思想をそのまま心理学に当てはめる考えに基づく。一方、アドラーは伝統的な科学思想を離れ、人間にこそふさわしい理論構築をした最初の心理学者である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 


PROFILE
著者画像
岩井 俊憲
Toshinori Iwai
1947年栃木県生まれ。早稲田大学卒業後、外資系企業に13年間勤務。1985年ヒューマン・ギルドを設立、代表取締役に就任。アドラー心理学カウンセリング指導者。中小企業診断士。著書は『「勇気づけ」でやる気を引き出す!アドラー流リーダーの伝え方』(秀和システム)、『経営者を育てるアドラーの教え』(致知出版社)、『アドラーに学ぶ70歳からの人生の流儀』(毎日新聞出版)ほか50冊超。