その他 2020.03.31

Vol.6 「目的」をスタートに1

今回から「目的」の大切さをお伝えします。「なぜ?」(原因追求)ではなく「何のために」という問いこそが企業の使命(ミッション)、存在理由につながるというお話です。

 

 

「目的の5乗」の教訓

 

タナベ経営の若松孝彦社長と私との対談(『FCC REVIEW』2019年11月号)で、忘れられない若松社長のフレーズが二つあります。

 

俗に言う「カイゼン活動」の「なぜなぜ分析」では、「なぜ」を5回繰り返して問題の原因を追求します。大切な思考ですが、一方で私はリーダーに必要なのは「目的の5乗」であるとし、「何のために」を5回繰り返せば、目標が目的、使命に昇華されると提言しています。(中略)

 

(私が「理性や感情を一つの志としてイメージする」と語ったことに対して)実は、私自身も全ては「イメージ」「デザイン」から入ります。出来上がっている姿、あるべき姿を「絵」として鮮明に描けない場合は必ず実行の際につまずきます。

 

アドラー心理学では「人間の行動には目的がある」と、人間の行動を探る場合、「原因」よりも「目的」を重視します。人が行動する場合、その人特有の意図・意思があり、それを基に未来へ向けて自分や他者、環境を動かすのを、人間ならではの行動だと見なしているからです。これをアドラー心理学では「目的論」と呼んでいます。これに相反するのが「原因論」です。

 

人間の主体的な意図・意志を伴わずに不具合が発生したような出来事や現象は、「原因論」に基づいて「なぜ?」を5回繰り返し、問題の原因を追求することが再発防止につながり、有益な解決策を得ることもできるでしょう。

 

しかし、経営者が将来のビジョンを描きながら意思決定をするような場面で、原因追求型の「なぜ?」という質問をして過去の何かと関連付けるのは建設的ではありません。それよりも「何のために」と目的を5回繰り返す方が、使命(ミッション)にたどり着くことができて建設的だと思います。

 

経営者は原因を探るための「なぜ?」以上に、目的に到達するための「何のために」を問い掛けることを心掛けてほしいと思います。

 

 

 

 

経営者は「目標」の前に「目的」を語れ

 

経営者の中には、こんな訳の分からないことを言う人がいます。

 

「わが社の目的は、何としてもいち早く売上高50億円の企業に到達することです。そのために経営陣・社員が一丸となって目標必達の思いを共有しようではありませんか!」

 

こんな経営者は、目的の意味が分かっていないどころか、経営そのものを理解していないのに等しいのです。

 

目的は、数値目標とは違います。企業の存在意義であり、経営者のビジョンや企業価値が込められた目指すべき「的」です。このことが理解できていないと、「目的→目標→計画→実行」の「実行」の段階でアンバランスが生じます。先述した若松社長の言葉を拝借すると、次の通りです。

 

出来上がっている姿、あるべき姿を「絵」として鮮明に描けない場合は必ず実行の際につまずきます。

 

「何のために」という根源的な問いに対する回答が「目的」です。これを5回繰り返せば企業の目的が使命(ミッション)に昇華される、とおっしゃっているわけです。

 

それに対して「目標」は目指す標であり、ゴールです。「どこに向かって」の問いに対する回答です。短期・中期・長期の目標があるし、数値で表せる目標も存在します。「何としてもいち早く売上高50億円の企業に到達すること」は目標であり、決して目的ではありません。

 

経営者は目標を語る前に、「当社は何のために存在するのか?」「そもそも顧客にどんな価値を提供しているのか?」「経営者としての自分に課せられた使命(ミッション)は?」「どんなビジョンを実現したいのか?」といった問いを自らに発し、それらの問いから導き出した答えを社員に発信する責務を負っています。

 

目的を忘れ、目標からスタートする勘違い経営を行っていると、数値だけが独り歩きしてノルマ化し、羅針盤のない漂流企業になってしまう危険性があります。

 

「まずは目的から始め、『何のために』を5回繰り返して根源である使命(ミッション)に迫ろう」。これが今回の私のメッセージです。次回(2020年5月号)は、目標を中心に考えます。

 

 

 

 

 

「アドラー心理学」とは201912_adler_02
ウィーン郊外に生まれ、オーストリアで著名になり、晩年には米国を中心に活躍したアルフレッド・アドラー(Alfred Adler、1870-1937)が築き上げた心理学のこと。従来のフロイトに代表される心理学は、人間の行動の原因を探り、人間を要素に分けて考え、環境の影響を免れることができない存在と見なす。このような心理学は、デカルトやニュートン以来の科学思想をそのまま心理学に当てはめる考えに基づく。一方、アドラーは伝統的な科学思想を離れ、人間にこそふさわしい理論構築をした最初の心理学者である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


PROFILE
著者画像
岩井 俊憲
Toshinori Iwai
1947年栃木県生まれ。早稲田大学卒業後、外資系企業に13年間勤務。1985年㈲ヒューマン・ギルドを設立、代表取締役に就任。アドラー心理学カウンセリング指導者。中小企業診断士。著書は『「勇気づけ」でやる気を引き出す!アドラー流リーダーの伝え方』(秀和システム)ほか50冊超。