コラム
2017.09.29
vol.25 部下とのコミュニケーションに効く質問法
2017年10月号
しゃべりのプロも苦労している!?
「部下とのコミュニケーションがうまく取れない」。こういう悩みを抱える人がいます。
「そんなことに悩むのは、もともとコミュニケーションが苦手な連中だけだろう?対人関係にもまれた営業職なんかは、そんなことで苦労しないんじゃない?」
私もそう思いましたが、実際にはそうでもないようなのです。
プロ・アマ問わず、スポーツの世界でも「名プレーヤー、必ずしも名コーチ、名監督にあらず」なんて言葉もありました。
超一流企業を相手に営業を仕掛け、巧みなトークで次々結果を出してきたトップセールスパーソン、「百戦錬磨のしゃべりのプロ」が「部下との話をどうしよう」と途方に暮れるケースも珍しくないというから驚きです。「部下とのコミュニケーション」というハードルは意外に高いらしいのです。
「らしい」などと他人事のように書いてしまいましたが、実はつい先日、まさにこの問題で私は相談を受けていました。
友人からの相談で……
若い友人、といっても間もなく40歳になろうかという、ラジオ制作一筋の彼が、何の間違いか(?)、めでたく管理職に昇進し、3人の部下の面倒を見る羽目になったと、泣きそうな顔をして私のところに駆け込んできたのです。
友人 「僕って、割と人見知りなところがあるでしょう」
梶原 「そうか? 僕らといるときは結構おしゃべりだけどね」
友人 「いえいえ、普段は人と話すことは苦手なんです。特に、上司から『君が部下を育てて一人前にしてやってくれ』なんてプレッシャーをかけられても、何から始めてよいか分からない。超パニックです。上司入門みたいな本を読んだら、部下には適切な声掛けを、声掛けには質問から始めよ、と書いてあるから自分もやりましたよ」
梶原 「それでいいんじゃない?」
友人 「全然!『田舎はどこだ? 趣味は何だ? 好きな食べ物は何だ?仕事で分からないことは何だ?』といろいろ振ったんですが、まるっきり弾まないんですよ、会話が。僕、たぶん、うっとうしい上司の典型になってませんか?」
どうやら、からかうレベルをはるかに超えた苦悩が、彼を大混乱に陥らせているようなのです。
2017年10月号
カウンセリングの先生に学ぶ質問技法
この時、私の脳裏にプワ~っと浮かび上がったのが、10年以上も前、大学院の講義で恩師・國分康孝先生から直接学んだ「質問技法」でした。カウンセリング界の重鎮、國分先生は、本連載でも以前ご紹介したように、会社や組織で役に立つカウンセリング技法研究でも第一人者です。
先生から受けた貴重な講義の一場面がにわかによみがえってきました。そしてこれこそが、目の前の友人を救うに違いないと確信めいたものを感じました。「部下に対する話し方」で悩む、「全国の上司」にも大きな助けになるものと、國分先生の教えを、思い出すまま書き殴ってみましょう。
(注:講義シーンは、あくまでも思い出しながら書いた、おおよその雰囲気です)
國分 「君たちが上司となって部下に接するとき『質問技法』が役に立つ。その目的は3つある」
先生の話しぶりは、こんなふうにセンテンスが短く分かりやすいものでした。
國分 「目的の1つ目は、部下との親しみの関係性を築くため。例えば、外出先から帰ってきた部下に、『雨に降られなかったか?』『この時間、電車混んでた?』とこんな、たわいもないものがよい。部下が考えずそのまま声を出して答えられるものがベスト。声を交わし合うだけで、親しみの関係が生まれてくる」
関係性構築の第一歩は、相手に負荷をかけずに声で触れ合うことだとおっしゃるのです。
さほど意味のない質問で始まる会話にこそ意味がある。「えー? そんなこと?」とお思いになるかもしれませんが、同じ空間で言葉を交わし合う、たったそれだけで双方の距離がぐんと縮まることは、やってみると納得してしまいます。
2017年10月号
2つ目の質問目的は共感すること
國分 「質問目的、2つ目は、部下から情報を取って理解し共感するため。これも話題は人生の大問題ではなく、部下の日常のさりげないシーンから。例えば……『だいぶ日に焼けたね。そうか!昨日は接待だったよね、○○社さんのゴルフ大会、どうだった? おー、君も頑張ったねえ。え、それなりに楽しんだ?すごいぞ!お客さんと真剣に遊ぶ。つらいこともあるけど、大事だよね』。このように、尋ねつつねぎらっていくことが、2つ目のポイントだ」
部下の日頃の動きに関心を寄せ、苦労に共感することの大切さを強調していました。自分の仕事ぶりや、大変さを分かってもらえていると知った部下の、上司への信頼感は、部下のやる気につながりそうです。
3つ目は指導するための質問
國分 「質問技法3つ目は、相手ではなく、自分について問う、指導するための質問。私の疑問をあなたはどう思う?と自分の気持ちを相手に開いて尋ねる、自己開示を伴う質問技法だ。例えば部下が書いたあいさつ状や報告書の文章が、読みにくいことがある。学生の論文指導ではしばしばだ。ワンセンテンスが4行5行と長くなると読む側はつらい。それを『君、長過ぎるじゃないか!』と相手に直接ぶつけるのではなく、質問技法の3つ目“自己開示”で尋ねる。『どれが主語で、どれが述語と理解すればいいのか、私は迷うなあ?』。すなわち、“私は迷っている”と自己開示しつつ、尋ねていることになる。とはいえ、開示された相手が、理路整然と正解を語り始める、ということもなさそうだ。そんな時は『この主語とその述語を短くくっつけるようにしたら、お客さんにも分かりやすくなると私は思うが、どうだろう?』と提案するように質問するのがよい」
質問が詰問になっては、部下と上司の関係を悪化させます。
一方的に欠点を指摘するのではなく、質問で気付かせることに意味がある。これこそが「部下を育てる鉄則だ」「こういう時こそ、自己開示だ」。そんなふうにおっしゃっていたと記憶しています。
と、私から、國分先生の「名講義」のさわりを聞いた友人の反応はどうでしょう?
友人 「部下を持つって、みんな、大変なんだなあ(しみじみ)。3つ全部はともかく、質問技法の1つ目から始めてみることにします、じゃ!」
来た時よりも、ずっと明るい表情で、私の事務所を後にした友人でした。
(参考文献:國分康孝著『上司のための心理学』生産性出版)
筆者プロフィール
梶原 しげる (かじわら しげる)
早稲田大学卒業後、文化放送に入社。20年のアナウンサー経験を経て、1992年からフリーとしてテレビ・ラジオ番組の司会を中心に活躍。49歳で東京成徳大学大学院心理学研究科に進学、心理学修士号取得。東京成徳大学経営学部講師(口頭表現トレーニング)、日本語検定審議委員も務める。
\著書案内/
不適切な日本語
梶原しげる著/新潮新書
821円(定価)