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コラム
有識者連載
各分野の有識者や、さまざまな領域の専門家による連載です。
コラム 2017.07.31

vol.23 周りが見えていないと大惨事に!?

shigeru_banner 2017年8月号 なれ合いに慣れることの副作用 タナベ経営発行のメールマガジン(FCC マネジメントレター)に、「仲良しクラブの危険性」という記事があり、大いに共感しました。チームワークのメリットを述べる一方で、その副作用について触れています。 詳しくは本文をお読みいただくとして、私は勝手にこう解釈しました。 「対立を好まず、仲良く明るい雰囲気で仕事をする。これを理想的な環境と感じる人がいる一方で、行き過ぎれば、問題解決どころか、問題の先送り、新たな問題発生の引き金になりかねない」――。 その「危険性」について、さらに具体的に、2つのことを説いていきます。 1:「仲間内だけで通じる常識を常識と思うな」 2:「互いの表面が真っ平らのガラス同士では接着材は十分機能しない。双方の表面がデコボコ、ザラザラしている方が接着材も隙間に入り込めるから、接着力は格段に強まる。これをアンカー効果という。つながり合う同士がスムーズ過ぎないことは大切だ」 念のため断っておきますが、これは、その記事を梶原が「妄想で広げた表現」ですからね。ちなみに「アンカー効果」という聞き慣れない言葉は、マーケティングではすっかりお馴染みのようで、Web上にもいくつか解説が載っていました。 「物事を判断する際に、情報の断片や一部を必要以上に意識することで、判断を誤りやすくすること」(「ferret マーケティング用語辞典」参照)。長い前書きはここまで。本論はここからです。 shigeru_banner 2017年8月号
あらゆるトラブルにつながる!? 仲良しクラブの危険性はビジネスに限らず、政治から日常生活のあらゆる場面で「危険水域」を越え、すでにさまざまなトラブルを引き起こしているらしいのです。 このところ、政治家の「失言」「暴言」が大きなニュースになっています。その一部について本連載でも触れたことがありますが、今回はさらに「やばいもの」をご紹介します。個人を特定しないよう心を配った(ホントか?)のは、特定の政治家を糾弾しようなど恐れ多いことは一切考えていないからです。「他山の石」として自らを戒めるための「教材」ぐらいにお読みいただければ何よりです。 某大臣は「大震災は東北の方でよかった。首都圏に近かったら甚大な被害が出た」と発言し、被災地だけではなく全国から反発の声が上がり、大臣辞任に追いやられました。 この方は以前にも「原発事故で自主避難した人の帰還は自己責任でやるべし」との発言で問題となりました。大臣になったぐらいですから「本来は優秀な人」かもしれないのに、どうしてこんな失言をしてしまったのか? その答えが、仲良しクラブの危険性がもたらす「副作用」だった、と私は感じました。地元へ行けば、政治家先生の周りはいつも「支援者」という尊敬してくれる人や価値観を共有する人、利益を一にする人など、まさに仲良しクラブの面々が取り巻いています。 仲良しクラブの中では、先生がちょっと極端なことを言っても、いやむしろ極端な「本音めいた持論」を言えば言うほど、喝采を受ける可能性があります。 「建前ではなく、言いにくいことをぶっちゃける先生はカッコいい!」 新聞やテレビが伝える「生ぬるい正論」より、「ズバリな本音」のほうが耳に心地よいと感じる仲良しクラブの面々を前にした快感を引きずって、仲良しクラブ以外の人たちもいる場で同じように発言し、思わぬ事態を招いてしまい、「あちゃー……」という状態なのかもしれません。 「仲良しクラブの居心地のよさ」にドップリ漬かると、哀れな末路を迎えるものだ、との例はこれだけではありません。 shigeru_banner 2017年8月号
当人はサービスのつもりでも…… 某大臣はすでに「ある失言」で大失敗しましたが、「何とか切り抜けた」と気持ちが緩んだ仲良しクラブの集会で「冗談言ったら、くびになりそうになった」と発言。仲良しクラブ内では大爆笑の大受けだったようですが、世間では大ひんしゅく。これが命取りとなりました。 居心地のよい仲良しクラブは、危険に満ちた落とし穴なのでした。 「マスコミを懲らしめてやる」 「たかが、巫女のくせに」 「がん患者は働かなければいいんだよ」 繰り出す暴言も、地元の仲良しクラブの間では「開けっぴろげで、裏表のない人、毒舌も魅力だ!」と受けるのかもしれません。その高揚感のまま、仲良しクラブの外で同じことをやって大やけど。それでも懲りない70歳もいましたね。 長靴を忘れておんぶされた某政務官が「これで長靴が売れて業者は大喜びでしょう」と受け狙いで口走ったのも、仲良しクラブ後遺症でしょう。 shigeru_banner 2017年8月号 情報があふれる現代社会だからこそ 「政治家なんてそんなもの。われわれには所属する仲良しクラブなんぞない!」 お怒りの方がいらっしゃるかもしれませんが、そうでしょうか? ある大学の学生たちと、こんな話をしたことがあります。 特定の新聞を「とんでもないことばかり書く、世間知らずなメディア。あり得ない!」と痛烈に批判する「頼もしい若者」がいました。若い世代の「政治への無関心」がいわれて久しい現代。「貴重な意見だなあ」としばらく彼の話を聞きました。 「○△新聞は偏向報道です」 「へえ、○△新聞購読してるんだ」 「今どきお金払って新聞読む学生なんていませんよ。詳しい情報は全てネットで見られる時代じゃないですか」 「じゃ、○△新聞が偏向してるって、どうやって分かるの?」 「ニュースは随時スマホでチェックしてます。知りたい情報やそれに対するリアクションも即更新される。新聞なんか、たかだか朝夕2 回でしょ? しかもダラダラと煮え切らないことを延々読まされるなんてまっぴら。時間の無駄使いじゃないですか」 「時間、大事だもんね」 「それよか、スマホはわざわざ自分で読みたいニュースを探さなくても、知りたいニュースがピンポイントで送られてくる」 ここまで聞いて、彼は「新聞雑誌テレビラジオ」ではなく、「仲良しクラブだけで共有する、自分の好みに合ったニュースだけ」にどっぷり漬かる「今風な情報環境」をエンジョイしていることが分かりました。 米国大統領選挙の際にトランプファンはトランプびいきのニュースだけを受け入れ、クリントン支持者はクリントンびいきの情報にしか接しない傾向があるとしばしばいわれました。これを、「マスメディアからマイメディアへと変化した米国」と評した人がいましたが、日本も米国と変わらない気配です。 Web上で本を買うと、その後、似た論調の本がレコメンデーション機能によって次々パソコン画面上に現れるという経験をしたことがある人は多いと思います。ニュース配信も同じように、「こういう記事を読んだあなたは、こういう『色』の記事がお好きですよね」と傾向でセグメントされ、知らぬ間に仲良しクラブのメンバーに組み込まれるのです。 仲良しクラブメンバー同士では、過激なら過激なほど喝采を浴び、「いいね」をたくさんもらえるから、さらに過激さが増して盛り上がる。 「世間はみんな自分と同じ意見に違いない」。そう錯覚した人が、「別のクラブのメンバー」を前にとうとうと発言して眉をひそめられたり、人望を失ったり、仕事を失ったり。 まるで政治家のように仲良しクラブに足をすくわれ、気が付いたら別のクラブでも同じ振る舞い・発言をして手ひどい失敗を……なんて事態は、われわれの日常でも起こることは大いにあり得ます。 仲良しクラブの危険性、ひとごとではなさそうです。
筆者プロフィール shigeru_profilepic 梶原 しげる (かじわら しげる) 早稲田大学卒業後、文化放送に入社。20年のアナウンサー経験を経て、1992年からフリーとしてテレビ・ラジオ番組の司会を中心に活躍。49歳で東京成徳大学大学院心理学研究科に進学、心理学修士号取得。東京成徳大学経営学部講師(口頭表現トレーニング)、日本語検定審議委員も務める。 \著書案内/ 不適切な日本語 梶原しげる著/新潮新書 821円(定価)