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コラム
有識者連載
各分野の有識者や、さまざまな領域の専門家による連載です。
コラム 2017.06.30

vol.22 「なぜか信用される人」はどこが違う?

shigeru_banner 2017年7月号 「口べた」なのに営業成績はトップなあの人 「人間、立ち居振る舞いが大事だ」という言葉、誰しもどこかで一度は耳にしたことがあるのではないでしょうか? 立ち居振る舞い。若い人にとっては、なんだか古めかしい言葉のように聞こえるかもしれませんが、辞書を見れば「日常の、当たり前の動作。立ったり座ったり」と書いてあります(明解国語辞典、広辞苑など)。 立派な言葉を達者に並び立てているのに、なんとなく信用ならない人がいるものです。そう感じさせるのは「立ち居振る舞いのせい」かもしれません。 また、「口べたなのに営業成績が抜群」という人が結構いますが、そういう人はほぼ例外なく「立ち居振る舞いがきちんとできている」と考えてよさそうです。 話の内容よりも……? 「目は口ほどにものをいう」という言葉もあります。言葉で言うのと同じくらい、目から気持ちが伝わる場合が少なくないのです。 少し前、復興担当大臣だった某氏が東日本大震災の被害について語った際、「これはまだ東北で、あっちの方だったからまだ良かった」などと口にしたことで大臣を辞任しました。あの方は「口でしくじった」と思われがちですが、記者会見で質問者と向かい合う「立ち居振る舞いのまずさ」が、彼を辞任へと導くきっかけとなりました。 「話す言葉」自体は、比較的自分でコントロールしやすいものです。「反論しても損するからここはじっと我慢だ」「こんなふうに調子を合わせて喜ばせよう」「この人にはこういうロジックで攻めてみよう」。対人コミュニケーションの本も大抵「話し方」を中心に書かれています。 ところが、立ち居振る舞いは往々にして「意識する前に自然にぽろりと出てしまう」から厄介なのです。 だからこそわれわれは、他人の人柄を判断するとき、その人物が「何を話すか」以上に「どんな表情で、どんな佇まいで話すのか」という立ち居振る舞いに注目する傾向があります。「立ち居振る舞いにこそ本音が見える」と感じるのもそのためでしょう。 「口べたなのに営業成績が抜群」という人は、立ち居振る舞いの感じの良さが高く評価されているのかもしれません。 shigeru_banner 2017年7月号
部下はこんなときにも上司の行動を見ている 「4月から、わずか5人ですが部下を抱える立場になっちゃって。どうしたらいいですかねえ」 初めて部下を持つことになった、私の若い友人が口にした不安も当然です。一般的に「上司たる者、部下を適切に評価できてナンボ」といわれますが、実際には「部下の上司評価」はそれ以上にシビアで、部下たちは上司の立ち居振る舞いから「この人に付いて行っていいものかどうか?」を冷静に判断。仲間内で情報交換したりします。 部下たちが共有するその情報が、上司の将来にも影響するというのですから、「どうしたらいいか?」と心配する上司がいても、不思議ではありません。 「上司としての適切な立ち居振る舞い」が求められるのは、何も仕事中だけとは限りません。むしろ仕事を離れた「和みの場」でこそ、「上司の本来の立ち居振る舞い力」が問われると言っても過言ではありません。 「よし、みんな頑張ってくれたから、今日はオレのおごりでパーッと一杯行っちゃうぞ!」 なんて光景は、最近あまり見かけないようではありますが、もしあったとして、そういうときの上司は「気を遣わない振り」をしつつ、「気配りの利いた上司としての正しい立ち居振る舞い」を怠ってはなりません。 部下をねぎらう立場にありながら、部下を差し置き、すっかり良い気持ちで酔っ払い、居眠りを始めた……なんて醜態は、「こんな上司で大丈夫だろうか?」と部下たちの疑心暗鬼を呼び、悪いうわさが社内を駆け巡るという恐れがあります。 立ち居振る舞いに、手抜きは許されないのです。上司の立ち居振る舞いは、宴席の最後の最後まで「見られている」と心しましょう。「A君お疲れさん!」「B君、明日も頑張ろうな!」「Cさん、ご苦労さん!」。声掛けをして店から送り出すまで気を許してはなりません。 例えば、最後の会計の場面。部下たちがいる前で、店の人から「領収書の宛名、何とお書きしましょうか?」などと言われ、慌てて「前(株)で……日付なしでお願いします」などとささやくところを見られてしまう。こんな大失態を犯してはならないのです。 「なーんだ、おごるとか言って、会社のカネなんだ……」 口には出さないまでも、部下たちの「上司の立ち居振る舞いを見るまなざし」には厳しいものがあると、覚悟した方がよさそうです。 宴席後の会計は、トイレのついでにさりげなく済ませておくとか、あらかじめ店に話を通しておく、ぐらいの立ち居振る舞いが「好ましい上司」の条件かもしれません。 なーんて、無駄話が過ぎましたが、ここからは、私がまだ放送局の社員だった20年以上も前、実際に体験した上司の立ち居振る舞いをご紹介しておきましょう。 shigeru_banner 2017年7月号 今後の道を上司に相談したとき 当時の私は、局アナとして会社に残るか、フリーとして独立するか決めかねていました。「うちの事務所に来ないか?」と誘ってくれる所もいくつかありました。迷った末、思い切って直属の上司Tさんの所へ相談に行くことにしました。 上司といっても、普段は冗談を交わし合う先輩後輩という感じで接してくれる人でした。 大部屋のほぼ真ん中で、うずたかく積み上がった書類を前にネクタイをゆるゆるに緩め、ワイシャツをヒジの所まで腕まくりして作業を続けていたTさんは、私を見ると陽気に一言声を掛けてきました。 「どうしたの? 女にでも振られたか?」 いつも通りの軽口です。 「あのー、ご相談が」 普段とは違う私の切羽詰まった気配を感じ取ったTさんは、「分かった!」ときっぱり言うと、どこかに電話を入れ「5階の応接が空いている。行くか?」と仕事をその場で切り上げ、スッと立ち上がりました。 部屋に入ったTさんは、ネクタイを締め直し、背広の上着をキッチリ羽織り、居ずまいを正したところで、いつになく落ち着いた声で語り始めました。 「何か、あったか?」 この先の詳細については省略しますが、この時の「お前の話はキッチリ聞くぞ!」という誠意あふれる対応が、今でもしっかり脳裏に焼き付いています。彼の立ち居振る舞いは、誰に対してもこんな感じだったようです。私の仲間たちも、何かというとそのTさんに相談に乗ってもらっていたようでした。 場面に応じて硬軟使い分けつつ、部下たちに対しての「誠実な立ち居振る舞い」は、ブレないのです。 「話を聞くぞ」というタイミングでは必ずネクタイを締め上げ、上着を着て、姿勢を正し「全て聞くから何でも言ってくれ」という迫力のせいか、上司としての人望は抜群でした。 その後、Tさんは関連会社の社長として転出し、退職。80歳を過ぎた今では、当時の仲間や部下たちとゴルフや麻雀を楽しむハッピーリタイアメントを満喫しています。 私はといえば、独立自営の道を選び、Tさんのように「良き上司としての立ち居振る舞い」で部下たちの尊敬を集める機会を得ることはありませんでしたが、「人に対するときの立ち居振る舞いの心得」の一部は、学ぶことができた気がしています。 「おごらず」「高ぶらず」「そらさず」目の前の人の話をしっかり聞くぞ、という立ち居振る舞い。 部下や年下の話にはとりわけしっかり耳を貸そうと、態度で表す立ち居振る舞いをT さんから学べた幸せを、あらためてかみしめました。
筆者プロフィール shigeru_profilepic 梶原 しげる (かじわら しげる) 早稲田大学卒業後、文化放送に入社。20年のアナウンサー経験を経て、1992年からフリーとしてテレビ・ラジオ番組の司会を中心に活躍。49歳で東京成徳大学大学院心理学研究科に進学、心理学修士号取得。東京成徳大学経営学部講師(口頭表現トレーニング)、日本語検定審議委員も務める。 \著書案内/ 不適切な日本語 梶原しげる著/新潮新書 821円(定価)