コラム
2017.05.31
vol.21 嫌われない勇気?
2017年6月号
牛窪恵さんに聞く「男損の時代」
私の担当するラジオ番組にトレンド評論家の牛窪恵さんをお呼びしました。明石家さんまさん司会の「ほんまでっかTV」(フジテレビ系)に「トレンド評論家」として登場する、笑顔がチャーミングな、あの女性です。
きっかけは、私がたまたま書店で牛窪さんの最新著作『男損の時代』(潮出版)を見つけたことでした。
「男損」とは、「おひとりさまマーケット」など時代を的確に捉えたキャッチフレーズ作りの名人である牛窪さんが、「男尊女卑」をパロディーにして編み出した秀逸なコピーです。
梶原「牛窪さんから見て、男性が損で残念、と思うのは、どんなところですか?」
牛窪「男尊女卑の時代。男性は、女性の苦労や犠牲をよそに、好き勝手をしていてもそれなりに尊敬される仕組みがありました。男は外で稼いでくれば万事OK。それを支えたのが今や風前のともしびとなった、終身雇用や年功序列でした」
梶原「うちの親世代はそうでした。父親は『俺が一家の大黒柱。俺の稼ぎで家族を食わせている』的な態度を時々臭わせていたような気がします。母親にも『お父さんのおかげでこうやって暮らせているんですよ』みたいな空気が、確かにありました」
牛窪「その後、共働きが当たり前になり、家事育児だって夫婦2人で、という意識は進んできましたよね。ところが、実際の心の深いところではいまだに過去の亡霊にとらわれるが故に、息苦しい人生を送っていらっしゃるんです」
梶原「どんな人ですか?」
牛窪「40代半ば以上の男性で、いまだに『家を買ってローン払い切ってこそ男』『妻子を養ってなんぼ』と、どこかでいつも『男子たるもの~』という古い観念からくるプレッシャーに縛られて身動きできなくなり、結局、所帯を持たないという人がいます」
いわれてみれば、私の周囲の40代にも、結構独身が多いことに気が付きました。ちなみに全国仲人連合会(東京都大田区支部)がWeb上に、40代前半の男性未婚率は29.3% と、最新の国勢調査を基にした数字を掲げていました。
牛窪「終身雇用もどうなるか分からない。30代40代の半分以上がリストラ不安を抱えています。1カ月のお小遣いが昼食代込みで3万円少々。これで『男の沽券』を維持するのは極めて困難です。意識としてはいまだ『男たるもの』を目指している。しかし現実は、ギャップに苦しむ『男損の人たち』なんです」
梶原「男損に、打つ手はあるんですか?」
牛窪「はい! 手を打ち始める人が増えています」
2017年6月号
男損に打つ手はあるのか?
梶原「え?」
牛窪「まずは『モテたい』などという大それたことを考えず『嫌われないように』という戦略へとかじを切りました」
積極的に「モテたい」を目指した“男尊の時代”の男たちとは違い、男損の時代の男たちは、目標を「嫌われたくない」へとハードルを低くしているというのです。
時代のトレンドをマーケットが見逃すはずはありません。
牛窪「かつて『モテ欲望』が消費を活発化させていた時代がありました。モテのために高級スポーツカーを買う、モテのために高級海外ブランドを身にまとう、モテ目的で高級リゾート地を旅する」
梶原「いました! バブルの頃。一億総成金時代。そいつら(ほんの少し私も)の頭をかち割れば、『モテたい』という字が渦を巻いていたんじゃないかなあ」
牛窪「マーケットは現在『嫌われたくない人たちのニーズ』に強い関心を向けています」
梶原「ほお。『嫌われたくない』という一見、後ろ向きなモチベーションにチャレンジする業界がある!?」
牛窪「そもそも国が『一億総活躍社会』なんて言い出す10年も前から、職場の女性進出は急激に進んでいます。女性がたくさんいる職場で『モテたい』という下心を見せたら『セクハラ』と受け取られ、社内で問題となる可能性もあります。『モテたいは危険』との認識も広まりました」
「モテたい」より「嫌われたくない」が時代のトレンドのようなのです。
牛窪「結婚できる・できないの前に『モテたい』と変なフェロモンを出すだけで社の内外での評価を落としかねません」
2017年6月号
嫌われないための具体策
梶原「男損って、大変な時代ですね。嫌われないための方法、具体的には?」
牛窪「“におい”です」
梶原「?」
牛窪「最近耳にしませんか? スメルハラスメント(においで他人を不快にさせる行為)ですね。“スメハラ”と呼ばれますが、自分では気が付かないけれど、周囲はものすごく気になる。今の働き盛り世代は、自分のにおいが周囲の人々を不快にさせていないか、とても気にします」
梶原「加齢臭?」
牛窪「いえ。40代前後のにおいはミドル脂臭といいます。加齢臭は、懐かしい枯れ草っぽいにおいだからまだましだといわれますが、ミドル脂臭は、脂っこい不快なにおいを放つので、ハラスメントとまでいわれるのです」
私が40代だったころはそんな「いちゃもん」は付けられなかった気がします。今の男性は大変ですね。彼らは、まさに男損の時代を生きているんだと同情してしまいました。
牛窪「においで嫌われたくない彼らは、1 個2000円もする薬用デオドラントせっけんをためらうことなく購入します。ほかにも、体臭消去スプレー、口臭防止のための舌クリーナーなど『消臭対策商品』が売れています。これらも嫌われないための消費といえますね」
そんな嫌われたくない人たちに対して、牛窪さんは「美魔男」を目指せといいます。
牛窪「40過ぎの女性が美しさを徹底的に追求し、美魔女になって幸せをつかんだように、40、50、60を過ぎた男性の皆さんも『男たるもの』との古い概念は捨て去り、美魔男になりましょう!」
気になるにおいを消して、次は「外見の本格的な見直し」に取り組めというのです。そして「嫌われてはならない」と決意した40代50代は、今、必死らしいのです。
「男らしさ」とか「男の生きざま」とか「男の沽券」とか、「男」を言い訳にして小ぎれいになる努力を怠ると、嫌われ軽んじられ、最後には「男損の人」となり果てて、誰も相手にしてくれない。これが「男損の時代の現実」なんだ……。
牛窪「『脱男損』のためには形から入ることも悪くはないと思います。私たちって(牛窪さんは50歳手前)スキーやゴルフや何か習いごとを始めたとき、まず、道具を買いそろえるという『形から入った世代』なんです。嫌われない努力も、形から入るという『得意技』を駆使してよいんじゃないでしょうか」
牛窪さんは、バブル時代のように高級ブランドで身を包めなどとは言いません。清潔感のある、場面にふさわしい「それなりのおしゃれ」を勧めているのです。本の最終章で牛窪さんと対談する社会学者の田中俊之さんが、こう言っています。
「例えば、市民活動のために行政に助成をお願いに行くのに、きちんとした格好をしていると対応が変わる。小ぎれいにするのは簡単にできる『生き方改革』だと思います」
外見をちょっと磨くことが自信にもつながっていく。「モテたい」という高過ぎるハードルを設定して挫折するより、せめて嫌われないように努力してみることも、悪くない気がしてきました。
「嫌われる勇気」と同様に、「嫌われない勇気」にも注目したいものです。
筆者プロフィール
梶原 しげる (かじわら しげる)
早稲田大学卒業後、文化放送に入社。20年のアナウンサー経験を経て、1992年からフリーとしてテレビ・ラジオ番組の司会を中心に活躍。49歳で東京成徳大学大学院心理学研究科に進学、心理学修士号取得。東京成徳大学経営学部講師(口頭表現トレーニング)、日本語検定審議委員も務める。
\著書案内/
不適切な日本語
梶原しげる著/新潮新書
821円(定価)