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コラム
有識者連載
各分野の有識者や、さまざまな領域の専門家による連載です。
コラム 2017.03.31

vol.19 AIカウンセラーから学ぶ、 聞くスキル

shigeru_banner 2017年4月号 人工知能のカウンセリング 「タクシードライバーやスーパーのレジ打ち業務、会計士など多くの仕事は、やがてAI( 人工知能)に取って代わられるかもしれないが、人の話を聞いて心理的援助を行うカウンセラーは、心を持つ人間にしかできない」……な~んてことも、言えない時代になりつつあります。 「人間よりずっと上手に人の話を聞けるAI」の開発は、着々と進んでいるらしいのです。日本産業カウンセラー協会が発行する月刊誌(2016年10月号)では「人工知能のカウンセリング」が特集されています。 人型ロボットが、巧みな会話のやりとりで、悩める人類の問題をズバズバ解消してしまう! という夢みたいな話ではありません。相談者(人間)とカウンセラー(AI)が、コンピューターのキーボードを介した「文字で対話するカウンセリング」ではありますが、これが「なかなかイケてる!」のです。 やりとりの一部に加工を加え、抜き書きしてみました(東京電機大学・篠崎哲雄氏の研究より)。 AI「あなたの頭に浮かんでいる気掛かりなこと、課題は何かありますか?」 人間の相談者「就職できるかどうか気掛かりです」 AI「あなたは、就職できるかどうか気掛かりなんですね。就職活動について気掛かりに思っていることを教えてください」 人間の相談者「就職はできると思うんですが、条件に見合った所に入れるか不安です」 AI「あなたは、就職はできると思うが条件に見合った所に入れるか心配なんですね。もっと話してください」 AI は、相談者が口にした「気掛かり」という言葉に対し、「~が気掛かりなんですね」と、感情の言葉を確実に捉える「伝え返し」を行うことによって、「しっかり聞いていますよ」とのシグナルを送っています。その後も、「もっと話してください」とか「他にも感じていることがありますか?」と、「相談者の気掛かり」を深掘りする、内省促進を支援するコメントが続きます。 意外に悪くない、AIカウンセラーの利点 AIの問い掛けに対して、相談者が考え込んだりして返答が遅れてしまっても、AI相手だからこそ動揺することなく待たせることができます。人間相手なら、気まずさや焦りから、余計な一言を発したくなったり、話題を変えたりしてしまいがちです。AIの沈黙する能力が、結果として相談者の内省を促す大きな力となります。 セッション(やりとり)を通じて、生身の人間である相談者は、相談相手が「コンピューター」だと知りながらも、ひたすら聞いてくれる姿勢に引き込まれ、内省を深め、思考を巡らせることができます。 最終的に相談者は、就職先が自分に求めるスキルや専門性を高めるべく「努力したい!」と決断するに到り、モヤモヤした「気掛かり」や「お悩み」は解消へと向かいました。 shigeru_banner 2017年4月号
上手に話せなかった原因とは この発展途上のAI カウンセリングから、「人の話を聞く」というコミュニケーションの基本中の基本スキルを学ぶことができそうです。 心理学者の相川充先生は『人づきあいの技術』(サイエンス社)という本にこう書いています。「私たちがコミュニケーションに費やす全時間の45%が聞くことに費やされ、話すこと30%、読むこと16%、書くこと9% だと言うのに、学校教育では、話し、読み、書くことに比べ聞くことは殆ど取り上げられない(教えてもらえない)。それは聞くことが容易だと思われているからでしょう」 先生の言うように、「読み書き」は学校で嫌というほど教えられました。社会人になってからは「プレゼン力が大事だ」「会議での発言力も重要だ」と先輩から、また社内外のセミナーで「話し方」を学ぶ機会も増えていきます。「話し方教室」は大きな街ならいくらも見つかりますが「聞き方教室」の看板は見たことがありません。 しかし、「しゃべり」を職業とする私が身に染みて大事なスキルだと感じているのは、しゃべりそのものよりも「聞く力」です。 インタビュー番組で「しゃべりで失敗した」「話が全然盛り上がらなかった」と敗北感にさいなまれた時を思い返すと、そのしくじりの原因はしゃべることではなく、「聞くこと」にありました。 shigeru_banner 2017年4月号 こんな受け答えをしていませんか? 「上手に聞けずに大失敗」は、次のような場面で発生していました。ひょっとして、皆さんにも思い当たることがあるかもしれません。 「得意分野の話題が出たときの会話」 取引先「ちょっと面白い本を見つけましてね」 あなた「どんな本です?」 取引先「○〇っていう、あの……」 あなた「(遮って)知ってます! 知ってます! △△が書いて、一時ベストセラーになった、××が真実かどうかっていう話。ノンフィクション賞を取る前に読みましたが、前作の□□が、またもう面白くて、最高ですよね(*^ ▽ ^*)」 取引先「……」 話を遮り、最後まで聞かずに横取りする。「話の聞けない人」は相手の怒りを買ってしまいます。 「苦手な話題が出たときの会話」 上司「上野の、ル・コルビュジエが設計した国立西洋美術館に行ったんだがね」 部下「上野、いいっすよねえ。アメ横とかで革ジャン買ったり……」 「無知をさらしたらマズイ」とばかりに話題を強引にすり替えると相手を不愉快にさせてしまいます。 聞き手にとって「不案内な世界」こそ、「へえ、どんな感じなんですか?」と素直に「伺う姿勢」を見せれば、上司は気分良く、世界遺産についてのうんちくを語る喜びを味わうことができた、というのに……。 「価値観を押し付ける会話」 部下「今度のクライアント、怖そうでちょっと不安です」 上司「会う前からそんな弱腰でどうする! 気合いを入れろ! 俺がお前くらいの頃にはなあ……」 部下「す、すいません……」 部下がせっかく不安を打ち明けているのに、自分の価値観を押し付けて会話をつぶしてしまっています。 「ひょっとして自分も、聞けていないかもしれないなあ」と思った方は、冒頭のAIカウンセリングの「受け答え」を参考にしてみてはいかがでしょうか?
筆者プロフィール shigeru_profilepic 梶原 しげる (かじわら しげる) 早稲田大学卒業後、文化放送に入社。20年のアナウンサー経験を経て、1992年からフリーとしてテレビ・ラジオ番組の司会を中心に活躍。49歳で東京成徳大学大学院心理学研究科に進学、心理学修士号取得。東京成徳大学経営学部講師(口頭表現トレーニング)、日本語検定審議委員も務める。 \著書案内/ 不適切な日本語 梶原しげる著/新潮新書 821円(定価)