•  
有識者連載のメインビジュアル
コラム
有識者連載
各分野の有識者や、さまざまな領域の専門家による連載です。
コラム 2016.12.22

vol.16 明暗を分ける 社長と社員のコミュニケーション

shigeru_banner 2017年1月号 後継経営者に講演を!?  「あの方たちは、新しい年をどんなふうに迎えていらっしゃるのだろうか……」  タナベ経営東京本部のセミナールームでお会いした、「後継経営者スクール」参加者の皆さんの顔が浮かんできます。  「経営の“け”の字も知らない梶原が、後継経営者の研修で何やるわけ?」と思われるのも当然です。受講者は、親族やご先祖さまが創業し、育て上げた企業を承継してさらに発展させることを使命とするサラブレッドたち。プログラムは経営に関わる専門的な内容です。私は不安になりました。  「だからこそ、梶原さんみたいな人が、笑えて和めて、ちょっとためになる話をしてくだされば、皆さんもホッとしたひと時が過ごせるんじゃないかと思うんです」  そんな本連載編集担当のMさんの説得を受け、昨年の秋……恐る恐る東京駅徒歩1分にあるタナベ経営東京本部のセミナールームに参上した、というわけです。  仕事の現場には「30分前に現地入り」と決めている私ですが、この日は緊張のせいで予定時間の45分も前に到着。セミナー会場のロビーでソファに座り、「本当に、私でいいのかなあ……」と、今さらのように悶々(もんもん)としていると、Mさんが通り掛かりました。  「あれ? 早いですね」  「ええ、全国からお見えになっている皆さまの学びの場に、遅れるなんてことがあってはなりませんから」(緊張して、気がせいて、早く来ちゃったとは言わずに……)  「もしよろしければ、若松(タナベ経営社長)が講義中なので、ご興味があればご覧になりますか?」  「えー! 見る見る!! 聴く聴く!!」 経営のプロである若松社長を間近に「体験できる」という、またとないチャンス! 仕事の現場には、早く到着しておくものです。  その講義は、聞きしに勝るエキサイティングなものでした。「財務の強化」「事業戦略設計」など、ど素人の私には難解なテーマが本論であるにもかかわらず、折々に語られる「経営の是非を左右するのは、経営者の社員たちとの関わり方だ」というメッセージはどれも私の心にストレートに伝わってきました。  そのままにするのはもったいないと思い、社長の話を聴きながら必死に書いたノートを読み返しつつ、一部をここに再現することとしました。  当然ながら、経営知識ゼロの私が「興奮しながら書きなぐった記憶」ですから、講義内容そのものではありません。偏った受け止め方がいくつもあるはずです。あらかじめおわびしつつ、ぜひ機会を設けて、若松社長の講義、講演を実際に堪能されることをお勧めします。

shigeru_banner 2017年1月号 経営者のコミュニケーション  “経営の是非を左右するのは、経営者の社員たちとの関わり方だ”というメッセージを3つ列挙します。 1.問題な経営者VSあるべき経営者  それを分けるのは「コミュニケーション能力」。若松社長がコンサルの成果を経営者に伝えた時の、A社とB社の経営者の反応です。 A社「わが社の現状がよく分かりました! ありがとうございます。ご指摘いただいた点は、次回までに必ず修正しておきます」  こういう返答をする社長は、その次回には大抵こう言うらしいのです。「ああ、例の件ですね? 今、検討中です。次回までには必ず……」  B社の場合はどうでしょう。 B社「ちょっとお待ちいただけますか?(さっとスマホを取り出し電話をかけ)もしもし、○○さん? △△の件について詳しく聞きたいんだが、このあと時間取れる? じゃあ15分後に私の部屋で!(電話を切って)今日中にも修正します!」  とても対照的な例ですね。「社内コミュニケーションがうまくいっていないリーダーは問題の先送りをしがちで、常日頃、社員と密につながっているリーダーはスピード感を持って問題に対処できる」とのこと。この話から、「優秀なコンサルに相談さえすれば成果が上がるというわけではない」という事実が浮かび上がってきます。  自分がリーダーになったときはB社でありたい。受講者たちは深くうなずきながら、コミュニケーションの大切さを心に深く刻んだ様子でした。

shigeru_banner 2017年1月号 経営者のコミュニケーション 2.手帳で“社内コミュ力”を確認  会社は自社の利益追求だけでなく、地域や社会への貢献が大切だといった声をしばしば耳にします。地元でさまざまな役割を担おうとボランティア精神を発揮すれば肩書は増える。こういったことは社長の使命というか、宿命だと思っていたのですが……。  若松社長は話を続けます。「もちろん社外のお付き合いも大事です。とはいえ、社外活動に翻弄(ほん ろう)されて、ほとんど社内にいない。社員が報告や相談をしたくても、社長の姿が社内に見えない。こんな状況は本末転倒と言わざるを得ません。社外での肩書は、多くてもせめて10以内にしていただきたい」  一見「社交的」に見える社長が、実は社内の細々した業務を見て回るより、外へ行って「よ、社長!」と、無責任にチヤホヤ持ち上げられる方が「気分がいい」ということだったとしたらどうでしょう。社会貢献している気分を味わい、気楽に過ごすだけなら確かに問題です。  社長の仕事はまず社業。社内を歩き、社員たちと言葉を交わし、疑問があれば尋ね、質問されれば答え、問題があれば共に答えを見つけ合う。社内コミュニケーションに時間がどれだけ使えるかは極めて重要なのですね。  若松社長はさらにこう続けました。「経営者の手帳を見れば、その人が何に一番時間を割いているのか一目瞭然、問題点も見えてきます」  社内コミュニケーションが適切に行われているか否かは手帳が物語る。社長でもない私が思わず自分の手帳を見直してしまいました。 3.社員を「お前」呼ばわりする社長は、「彼」呼ばわりされる  ちなみに、若松社長は著書『100年経営・世紀を超えるマネジメント』(ダイヤモンド社)で「後継経営者として最もダメな典型例」を挙げています。 (1)Cさんは、一流大学を出て東京の一流企業で勤務後、父の経営する「大きくない会社」に社長候補として入社。大企業に比べると、会社も、社員も全てが「幼稚」に映った。自分の経営能力を棚に上げ、社員を見下すばかり。「社員のレベルが低い」「人材がいない」。社員のやる気はすっかり萎(な)え、最終的に社員から退任要求が出された……。まるでテレビドラマに出てきそうな話ですが、実在する人の話なのだそうです。 (2)いつのまにか「ワンマン社長」になった後継社長は社員の声に耳を貸さない「暴君」に。と同時に、社内コミュニケーションは消滅。会議は社長の一方的な指示、命令の伝達。部下はその間ひたすらメモを取るふりをする。  社員は自分の頭で考えることを一切放棄し、社業は急速に衰える。結果的に事業承継は大失敗という、これも実際にあったケースだそうです。 (3)某後継経営者は、(2)と同様に「完璧に勘違い」し、自らの権力をかさに着て、社員たちを「お前」呼ばわり。独善的なリーダーシップを振りかざしていました。組織が 「良好なコミュニケーションで成立する」という当たり前の基本事項をわきまえなかった愚かな後継社長。社員たちは陰で「彼のやり方は、納得できない」と社長を「彼」呼ばわりしたそうです。  分かる気がしますねえ。「お前」以上によそよそしい「彼」という響きは、「社員と社長」という関係が不成立である、との印象を強くします。「お前」と「彼」でしかない組織に未来などあるはずもないのです。コミュニケーション環境は呼び名にも表れるんですね。  ただしお断りしておくと、私がお会いした受講生の皆さまは、(1)から(3)のケースとはまるで無縁な方々ばかりでした。  後継経営者スクールは4月の新年度まで、あと2回続くようです。頼もしい、人望の厚い新社長さんのデビューが待たれます!


筆者プロフィール shigeru_profilepic 梶原 しげる (かじわら しげる) 早稲田大学卒業後、文化放送に入社。20年のアナウンサー経験を経て、1992年からフリーとしてテレビ・ラジオ番組の司会を中心に活躍。49歳で東京成徳大学大学院心理学研究科に進学、心理学修士号取得。東京成徳大学経営学部講師(口頭表現トレーニング)、日本語検定審議委員も務める。 \著書案内/ 不適切な日本語 梶原しげる著/新潮新書 821円(定価)