コラム
2016.10.31
vol.14 気の利いたあいさつは1日にしてならず
2016年11月号
あなたのスピーチが社員たちを戦慄(せんりつ)させる
以前、パーティーで突然の指名を受けて、気の利いたスピーチを求められるのが実は大の苦手だ、と書きました。なまじ「しゃべりのプロ」なだけに、「しくじれないというプレッシャーに苛(さいな)まれる」と愚痴をこぼしたあの記事(2015年10月号)です。その後、ありがたくも共感の声をいただきました。
若手経営者Aさん「実は、私たち経営者にとっても、“突然のご指名”は結構恐怖です。しくじってダメージを受けるのが私だけならまだしも、列席するうちの社員たちにも相当気まずい思いをさせるようで……」
梶原「確かに! 私の場合は、恥をかくのは私だけ。社長の方が、ずっとお辛(つら)いかもしれませんねえ」
Aさんに限らず、年末のパーティーシーズンを控え、突然の指名でのスピーチにどう対処してよいものやら頭を悩ませている方が少なくないと知り、今回のテーマは「突然のスピーチ、徹底対策」としてみました。
「そんな気の小さいことでどうする! 私など、場の空気に任せて、適当にアドリブでしゃべれば、いつだって万雷の拍手だ、わははは(高笑い)」
経営のベテランには「あいさつの天才」が少なくありません。そういう方は本稿を飛ばして次の記事にお進みを。「“突然”は、できれば避けたい」という方は、お付き合いください。
日頃から「あいさつネタ」の採集を怠らない 突然のスピーチだからといって、「身の丈を超えた建前だらけで中身のない話」でお茶を濁すわけにもいきませんよね。 「昨今のグローバリゼーションを見据え……一丸となってまい進することこそ……地球に優しく………地域と社会に貢献し世界の恒久平和を願い………」 国連事務総長が「全世界に向けて」というなら分かりますが、少し的外れな気がします。堅苦しいあいさつを期待しない、和みたい場で、「抽象的で建前だらけの説法」をダラダラ話されたらうんざり。羅針盤が壊れた船のような話は、避けたいものです。 聴衆に「へー」「ほー」「面白いねえ」と、ちょっとでも興味を持ってもらえる話をするには、それなりの準備が必要です。 そこで大事なのが「コンテンツ」。早い話がネタです。聞き手に「ほー」と思ってもらうためには、まずはあなた自身が見たり聞いたり体験し、「ほー」と実際に感心したエピソードをネタとして採集します。これをコツコツため込んでいく必要があります。 具体的には、新聞や雑誌、テレビ、ラジオ、電車の中吊り広告、街の看板、人の話、社員の声、道すがら目にした光景、通りすがりの人の会話。あなたの「興味のアンテナ」に引っ掛かったものは全て「ネタ候補」と考え、メモしておきます。 スマートフォンのメモ機能も大いに活用しましょう。面白い看板などを見つけたら、写真に撮っておきましょう。 私のある日の手帳には「手鏡」「大徳寺屏風(びょうぶ)」「リットン調査団」などなど、「これなんだっけ?」というものを含めて10個ほどの単語が書き殴られていました。こうしてため込んだ単語がネタとして大活躍するときがくるのです。 ちなみに「手鏡」は雑誌『クロワッサン』の編集長から伺った「防災持ち出し用具で絶対欠かせないのは、手鏡!」という「被災女性の生の声」から採集しました。「死ぬか生きるかのときだからこそ、手鏡で自分を見つめて自分と対話することで、自尊心と冷静さを保つことができた」という、その方の深いコメントを忘れないように、「手鏡の思わぬ力」と、メモには簡単な見出しも付けておきました。
2016年11月号
メモはストーリー化しておく
見出し(タイトル)を付けた単語から「年齢・性別・職種」など多様な聞き手に対応できるよう、場面・客層に応じて使えそうなものを抽出、ストーリー化しておきます。
突然のスピーチに限らず、仕事仲間との雑談や番組の打ち合わせ、雑誌のインタビューを受けたりするとき、決まり文句のように言われるのが「最近、何か面白い話ありましたか?」です。
これは何も、私がラジオやテレビ業界の端っこにいるせいとばかりはいえません。ビジネスパーソンの日常会話にも「最近、何か面白い話ありましたか?」が登場することでしょう。
「最近、何か面白い話ありましたか?」は、いわば雑談を始めるときの常套句(じょうとうく)です。雑談ですから、イベントでの突然のスピーチに比べればハードルがぐっと低いとはいえ、「いや、別に」「さあ」ばかりでは「気の利かない人だなあ」と愛想を尽かされかねません。雑談でのネタのやりとりも社交マナーだからです。
「見出しを付けた単語集」は思った以上に使えます。好奇心のアンテナを伸ばさず、アンテナに引っ掛かった言葉をメモしない。メモを取っても放置したまま、見出しも付けない。これは大変もったいない話です。
面白い話は、それを捕まえようとしない人の前を素通りしてしまいます。スピーチだけでなく「最近、何か面白い話ある?」と言われたときのためにも「メモ作り」を続ける意味はありそうです。
メモの中から「これぞ!」と思うものを繰り出しても「なにそれ?」とスルーされることだってあります。しかし、「面白いですねえ!!」と感心される場合もあります。この瞬間こそ、単なる見出し付き単語がネタに成長するチャンスです。
書き留めておいた見出し付き単語がいろいろな人の好奇心にもまれて繰り返し語られるうち、1つの物語に昇華され、「なるほど!」と感心してもらえる完成度の高いストーリーが出来上がるのです。
「出会った言葉をメモする」→「忘れないように見出しを付けて保存する」→「他人に話し、共同作業で物語に仕上げる」。私は「ネタ」をこんなふうに作っています。
ネタさえあれば、突然のスピーチへの恐怖はだいぶ減衰します。
2016年11月号
ネタを実際に人前で披露するときの注意
一般の人が1分間で話すのは300字程度といわれています。突然のスピーチの場合、求められる時間はせいぜい2分から3分。ゆったり話せば、原稿用紙2枚分(800字)。話す内容を実際に書き出してみることをお勧めします。伝えるべき内容が明確化されますし、何より大事な「時間感覚」がつかめます。
2~3分のあいさつのために、冒頭で長々しい断り書きを述べる人は「時間泥棒!」と恨まれる危険があります。例えば、次のようなあいさつです。
「えー、ただいま、あー、司会者の方から突然ごあいさつを、と言われまして、ま、このー、大変戸惑っております。いわゆる、こういう晴れがましい席にはとんと不慣れでございまして、え~、その、何よりも、立派な、そうそうたるご来賓の皆さま方がいらっしゃる中におきましてですね、甚だ恐縮でございますが、ご指名ということで、一言だけごあいさつをさせていただくご無礼を、なんとかお許しくださいますようお願い申し上げますとともに……えー、思い起こせば今回20周年をめでたくお迎えになった、株式会社○○さまとは平成の前の年でしたから西暦で言いますと、えーと……」
「えー、あー」+「中身ゼロ」のあいさつを「ノイズだらけ」といいます。編集で「ノイズ(無駄)」をカットすると、この人は、結局何も言っていないことになります。ノイズは極力排除しましょう!
この方、これだけですでに持ち時間の3分の1近くを費やしてしまいました。「丁寧な人だ」と思ってくれる人より、「退屈だ」「気の利いたことを言え」と腹を立てる人の方が多い気がします。
前口上は短いに限ります。だからこそ、コンテンツは「原稿に書いてみる」ことをお勧めしているのです。本番では原稿丸暗記ではなく、「原稿に記した内容」を「あたかもフリートークであるように話せるレベル」まで、ストップウオッチで計測しつつ声に出して練習します。聴衆の反応する「間(ま)」も意識してリハーサルします。その様子の動画を、スマホで収録してください。他人から見た真実の自分がそこにいます。
「私はこんな顔で話しているのか……」。初めは慄然(りつぜん)とすることでしょうが、客観的な自分のスピーチを繰り返し目の当たりにすることが、「披露(デリバリー)能力」アップへの近道なのです。スピーチの出だしは、こんなシンプルな感じがいいですね。
「突然こんなオヤジが出てきてすいません。紹介いただいた○△と申します」
視線はZの字を描くように、客席左奥から右奥へ、右奥から左手前、そして右手前へ。会場全体に視線を送りながら話すと、目配りの利いた話し方だと思われると説くスピーチ本もあります。
「華やかな女性がたくさんいらっしゃいますが、お料理を召し上がったあと、そっと手鏡を取り出してお顔をチェックなさる様子を拝見しました。すてきですねえ。先日、その手鏡に、なんとも意外な力があると聞いてびっくりしたのです!」
話し手の後ろの一言が、ニュース報道でいうところの「リード」です。リードには、その先、話す内容をあらかじめ告げ、期待感を盛り上げる効果があります。
アナウンサーがニュースを伝えるとき、まず「見出し」を短く言いますね。
アナウンサー「日銀がさらなる金融緩和に踏み切りました」
これがリード。この先もっと詳しく話しますよ、との合図です。リードに続いて「日銀の黒田総裁は、今日午後の会見で……」といった「本格的な中身」に入るので、私たちはストレスなくニュース全体を聞くことができます。
リードで話す内容の概要を予告することにより、聞き手の理解度が、ぐっと増します。コンテンツ作りの過程で行った「見出し・タイトル付け」がここで役に立ちます。
突然のスピーチ対策まとめ 今回の内容をまとめましょう。 1.さまざまな場面・聞き手に対応できる多彩なネタを蓄積、保存しておくこと。目にするものは全てネタの元だと考え、時間を惜しまずコンテンツ=ネタを探しましょう。 2.ネタを身近な人にどんどん話し、練り上げてブラッシュアップ。スピーチコンテンツの質をグンとアップさせましょう! 3.リードを使い、間を生かし、一文を短く簡潔に。ノイズ(無駄)を排除して、聞き手の頭の中に「具体的な絵」を送信するように話しましょう。 4.スマホとストップウオッチを駆使。目の前に聴衆をイメージして日々訓練! 5.突然のスピーチをクリアすれば、宴席は百倍楽しくなり、人望がますます高まると信じましょう!
筆者プロフィール
梶原 しげる (かじわら しげる)
早稲田大学卒業後、文化放送に入社。20年のアナウンサー経験を経て、1992年からフリーとしてテレビ・ラジオ番組の司会を中心に活躍。49歳で東京成徳大学大学院心理学研究科に進学、心理学修士号取得。東京成徳大学経営学部講師(口頭表現トレーニング)、日本語検定審議委員も務める。
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不適切な日本語
梶原しげる著/新潮新書
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