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コラム
有識者連載
各分野の有識者や、さまざまな領域の専門家による連載です。
コラム 2016.09.30

vol.13 会話のしくじりを、どう防ぐか?

shigeru_banner 2016年10月号   しくじり発言で失敗した 政治家たち     古今東西、「会話でしくじった人」は想像以上に多いようです。 「貧乏人は麦を食え」で有名な池田勇人元総理は、「中小企業の5人や10人の破産自殺はやむを得ない」で旧通産相をしくじったことでも有名です。     「古すぎる!」とお怒りの方に、もう少し近いところでこちらはいかが? 「女性は子どもを産む機械」―柳沢伯夫元厚労相は、誠実な仕事ぶりで評価の高い政治家でしたが、この「言葉のしくじり」で追われるように姿を消しました。     「知恵を出したところは助けるが、出さないところは助けない」。この「しくじり発言」で震災復興相のポストを棒に振った方もいました。   麻生太郎副総理も「しくじり会話」が少なければ、再び「副」のつかない存在になっていたかもしれません。     「日本ほど安全で治安の良い国はない。ブサイクな人でも美人でも、夜中に平気で歩けるのだから」「(終末医療については)さっさと死ねるようにしないと解決しない」「90(歳)になって老後が心配とか、わけのわからないことを言う人がテレビに出ていた」     「麻生さんのキャラだから」とおおらかに受け止める人もなくはありませんが、「もう一度総理」の夢を阻むのには十分なしくじり発言だと言わざるを得ません。     2016年夏の東京都知事選で、増田寛也候補の応援に駆け付けた石原慎太郎元東京都知事の「小池百合子候補は、大年増で厚化粧」発言。「あの石原さんなら言いそうだ」と苦笑いで済ませた人もいたでしょうが、増田候補にとっては「こんな発言でしくじりたくないなあ」というのが本音だったかもしれません。     「政治家のしくじり発言など他人事だ」と感じたら大間違いです。実はわれわれは日常のなんでもない職場でのやりとりや部下との会話で、意外としくじっているようなのです。       shigeru_banner 2016年10月号   心当たりがあれば しくじりの可能性あり       例えば、こんな経験はありませんか?   1.会話する相手と発言のタイミングがぶつかる     2.ネタ探しに奔走、相手の話に集中できない     3.会話が段取り通りに進まないとイライラしてしまう       どれか1つでも「経験アリ」という方は、しくじっている可能性があります。  
      1.会話する相手と発言のタイミングがぶつかる   初対面同士の会話でありがちですが、これが日常的に結構多いという方は要注意です。 「おっと失礼、どうぞ」「いえいえ、そちらから」。言葉のぶつかりも、初回の会話を和ませるには絶好のチャンスです。とはいえ、2度目、3度目に会う相手と「絶好のチャンス」を繰り返していては、会話の進展は望めません。     何度も言葉がぶつかり合う原因は、相手を観察しながら話していないことです。     「私は、しっかり顔を向けて話していた!」     そうおっしゃるかもしれませんが、顔は向けていても、ぼーっとうつろに見ているようでは相手の呼吸が聞こえてきません。     話を聞くとは「表情と呼吸を同時に聞き取る」ということです。声を発する人は息を吐いています。どんなにおしゃべりな人でも、1分、2分も息を吐き続けることはできません。必ず息を吸う瞬間があります。話し掛けるなら、そのわずかな瞬間を読み取り、そのタイミングで「相手に向けて声を発する」。これで「ぶつかり事故」は未然に防げます。     相手がひとしゃべりした後、「スー」と息を吸ったその瞬間を見逃さず、「ええ」「はい」「ほー」「なるほど~」「それから?」「面白いですねえ」「いいですねえ」と、相手と同じ程度の音圧で言葉を挟むと、違和感のないやりとりが生まれます。やりとりのリズムが整ってくれば、会話は順調に進んでいきます。     相手の呼吸を見ない、感じないまま、こちらの都合で相づちを入れると、言葉と言葉が重なったりぶつかったりして、相手の会話意欲をそぐことになります。     相手の「話し出し」を察知する手段は、呼吸観察だけではありません。感情を全く顔に表さない人もたまにいますが、人間は、話す内容を予告するように、言葉に先行して表情が何かを語ろうと動き始めます。その「気配」を察知したら即座に「聞き逃さない態勢」を取ります。表情観察が大事だということです。     察知したら、姿勢を軽く前に突き出したり、顔を上げたりして、「さらにしっかり聞きますよ」という非言語メッセージを伝えることで相手の会話を促進できます。     「体全体で話を聞け」と言うと大げさに聞こえますが、実際にはかすかに姿勢を正す程度で十分です。     「聞いています」ということを伝えようとするあまり、「うんうん」「はいはい」「ほうほう」と過剰に相づちを打つのは避けるべきです。相手は急かされたような、場合によっては「この人は本当は聞きたくないんだ」という誤った認識をしてしまいます。     相手の表情と呼吸を観察しながら聞けば、「言葉のぶつかり事故」を防げるのと同時に、相手の話の流れや会話の行方まで見えてきます。     会話の見通しが立つと、さらに両者の交流はスムーズになっていきます。       shigeru_banner 2016年10月号     2.ネタ探しに奔走、相手の話に集中できない     よく「会話はキャッチボール」だといわれます。少なくともドッジボールではありません。「どこを狙ったらポイントを挙げられるか?」と獲物を探し、隙あらばビシッと決めてやるという態度は、日常会話では嫌われるからです。     その点、投げては受けて、受けては投げる。キャッチボールの方が、ずっと会話のイメージに 近いともいえます。     とはいえ、会話とは「丁々発止」であるべきだという意味ではありません。プロの芸人さんでもあるまいし、常に丁々発止の会話をするなど無茶な話です。そんな会話はしくじって当然です。     「しくじらない会話」は、キャッチボールより、サッカーのゴールキーパーをイメージした方が分かりやすい気がします。     キーパーが実際にボールを蹴り込まれることは、そんなに多くありません(そういうチームもなくはありませんが)。キーパーはボールと選手たちの「今」と「現在地」を見続け、ボールがずっと遠くにあっても常に体と頭を動かしています。これこそが、しくじらない会話のイメージに近いのではないでしょうか。         3.会話が段取り通りに進まないとイライラしてしまう     雑談でない限り、打ち合わせや企画会議など「目的を持った会話」では、ある程度の「筋道」を想定して話を進めます。     「地図もない成り行き任せの止めどない会話」では時間の浪費、問題外です。とはいえ、良いアイデアは、ちょっとした脱線や想定外から生まれることがしばしばあります。     会話初心者や生真面目な人は、この「脱線」が苦手です。あらかじめ想定した路線をきっちり計算した通りの時間で進んでいかないと焦り始め、心ここにあらずとなり、会話が聞けなくなる人がいます。     こういう人は「打ち合わせ」や「企画会議」を単なる「確認の場」としか考えていない可能性があります。「用件1を10分で済ませ、次に用件2へ。30分後に用件3をこなし……」と律儀に予定通り進めます。これがクリエーティブな時間を生み出す上でマイナスに働くことを知りません。     打ち合わせや会議は「目的」ではなく、新しい商品やサービスを生み出すための「手段」だということを常に頭に置いておかないと、会話は「儀式」で終わってしまいます。     「目的地」だけでなく「目的地に至る途中の“今ここ”」を大事にした会話だからこそクリエーティブなアイデアが生まれ、会話を交わし合う人たちの中で化学反応が起こるのです。       shigeru_banner 2016年10月号   ドライブに出掛けた 家族の例     唐突な例で恐縮ですが、たまの休日、子どもたちを東京スカイツリーに連れて行こうと言い出した父親がいたとしましょう。普段は仕事にかまけて家族を顧みない罪悪感を、久々のドライブで埋め合わせたいと考えました。     ところが道路は大渋滞。なかなか目的地に到着できません。     〈パターンA〉 「ちくしょう! なんでこんなに混んでるんだ。道路行政はどうなってる!!」 目的地に着けないイライラをまるで家族にぶつけるかのような父親に、家族は気まずい気持ちでいっぱいです。不機嫌な父親。帰りたいとぐずりだす娘。ため息をつく母親。ようやく着いた目的地で、家族が言葉を交わすこともありませんでした。家族にとって消し去りたい思い出だけが残りました。     〈パターンB〉 一方、同じケースでも、別の父親はまるで違った対応でした。父親はノロノロ走る隣の車に、犬が乗っていると気が付きました。 父親「あ、ワンちゃんだ!」 母親「かわいいねえ」 父親「手、振ってごらん」 娘「わーい! ルルちゃーん!」 父親「名前知ってるの?」 母親「○ちゃん(娘)は前から犬を飼いたいって、名前まで決めているんだよね」 父親「ワンちゃんか、いいなあ。どんなワンちゃん?」 娘「あの子(隣の車を指して)みたいなトイプードル!」     目的地に到着するまでの車内は、東京スカイツリーとは別の話題「わが家のワンちゃん飼育計画」で大いに盛り上がりました。困った渋滞が「貴重な家族だんらんのひととき」となりました。     ひたすら目的地に着くことしか考えないパターンAと、目的地までの道中で過ごす“今ここ”を楽しもうとするパターンBではどちらが望ましいでしょうか?     「次を」「先を」と着地点のことばかり考えるより、「今ここで起きていることも味わう会話」の方が楽しい気がしませんか?     こちらの方が筋書きをなぞるだけの打ち合わせや企画会議よりも、ずっと参加者同士の関係が良くなりそうですね。     「普段の腹立ちや怒りを吐き出して、周囲の人間の目を覚まさせたい!」     「毒や皮肉を交えたインパクトのあるメッセージを伝えたい!」     「気の利いたことを言って、頭の良い人だと感心してもらいたい!」     「あらかじめ引いた図面通り、できるだけ段取り良く目的地に着きたい!」     こういう意図だけで交わされる会話は「しくじる」可能性があります。     会話する相手が“今ここ”で何を考え、何を求めているのか? 話す相手へ、飽くなき興味や関心を持ち続けることが「会話のしくじり」を防止する特効薬。これが、今回の結論です。            
    筆者プロフィール shigeru_profilepic   梶原 しげる (かじわら しげる)   早稲田大学卒業後、文化放送に入社。20年のアナウンサー経験を経て、1992年からフリーとしてテレビ・ラジオ番組の司会を中心に活躍。49歳で東京成徳大学大学院心理学研究科に進学、心理学修士号取得。東京成徳大学経営学部講師(口頭表現トレーニング)、日本語検定審議委員も務める。     新刊案内! 不適切な日本語 梶原しげる著/新潮新書 821円(定価)