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コラム
有識者連載
各分野の有識者や、さまざまな領域の専門家による連載です。
コラム 2016.07.29

vol.11 雑談力で部下の力を引き出そう

shigeru_banner 2016年8月号 雑談に関する書籍が数多く出版され、出版界は「雑談ブーム」のようです。社内の風通しを良くするための雑談の有効性が叫ばれています。 人と人をさりげない会話で柔らかくつなぐ、雑談。とはいえ、「部下との雑談は、正直苦手だ」。こうおっしゃる上司の方々が少なくありません。 そんな皆さんにお勧めしたい「雑談術」をいくつかご紹介しましょう。 雑談のきっかけは上司の朝のあいさつから 「雑談ネタは何にすべき?」 大上段に振りかざさなくてもよいのです。普段からやっている「朝のあいさつ」に、ほんの一言加えるだけで、十分に互いの関係を円滑にする雑談が生まれます。 出社時に交わす、朝一番のあいさつもその1つ。ところが最近の若い社員は、自分からあいさつするのが苦手なようです。「自分からあいさつするのが苦手な部下が、気の利いた雑談で上司のご機嫌をうかがいに近づいてくる」なんてことは期待できません。 あいさつが苦手で下手なのは、彼・彼女らが礼儀を知らない生意気なやつだから、ではありません。「日々忙しそうにしている上司、陣頭指揮に当たる経営陣に、若手社員が声を掛けるなど、畏れ多くて迷惑に違いない」と遠慮するような、よく言えば「心優しい」、悪く言えば「気の弱い」社員たちが少なくないのです。 社員たちの中には小学生時代、朝から校門前で、校長先生以下全教職員に優しいあいさつで迎えられた経験を持つ人もいます。不登校やいじめ事件などが多発した時代、こういう“サービス”を行う学校も珍しくなかった―なんて事実が、「目上の人からのあいさつを期待する若者」を量産した可能性があります。 「あいさつは目下から目上に行われるべきだ」という声をちょっとだけ脇に置いて、上司から積極的に部下に声を掛け、ついでにプラスアルファの雑談を添えてみよう。この考え方は悪くありません。

shigeru_banner 観察を 雑談につなげてみよう 例えば、こんな感じです。 上司「おはよう!」 部下「あ! お、おはようございます!」(緊張で固まる部下) 上司「あれ? カバン膨らんでない? 家に仕事持ち帰ってるの? 奥さんに叱られるぞ。仕事きついか?」 部下「いえいえ、仕事の後、仲間とフットサルをやるためのウエアです。すみません」 上司「そうか! 終わった後の1杯はうまいんだろうなあ」 部下「ええ、仕事の励みになります!」 上司「例の、山手プロジェクト。順調らしいじゃない」 部下「ええ、今週末には良い知らせをお持ちできそうです」 上司「楽しみにしてるよ」 部下「ありがとうございます!」 上司からのあいさつ→目に付いたもの(ここではカバン)に触れる→応答がある→話が広がる→仕事に触れる→情報交換ができる→爽やかな1日が始まる、という具合いです。 「上司からのあいさつ」「上司の観察力」が、「部下のやる気」「部下の励み」につながる上手な雑談を生み出しています。朝のプラスアルファの雑談の効果は、思った以上にありそうですね。


社内で役立つ、こまめな雑談 雑談を、質問から始めるのも悪くありません。 仕事上の質問では、質問する側も答える側も、互いに無駄のない、正確で的を射た「論理的なやりとり」が求められたりします。ところが、雑談の中での質問は、目的が「互いの関係を良くすること」ですから、無駄があっても非論理的でも一向に構いません。 雑談のための質問は、聞かれた部下の側が答えたい、答えやすいものを「教えてくれる?」と尋ねると、ハズレが少ないものです。人の口を軽くするのは、「話したいことを尋ねられたとき」だからです。 例えば、SNSやゲームなどインターネットに詳しいのが自慢の若手社員。いわゆるネット弱者の上司が「今更だけど、インスタグラムって、始めるメリットあるかなあ?」なんて尋ねたら、若手社員が目を輝かせ、親身に相談に乗ってくれる可能性もあります。簡単に部下と「雑談モード」に入れそうですね。 上司「SNSを始めるメリットって、なんかあるの?」 部下「個人としてだけでなく、会社としても、ターゲティング機能を使った広告効果を狙えると思います」 上司「うちみたいな、小規模な造園会社で?」 部下「小規模ならなおさらです! 例えば、こっちのスマホ画面、見ていただけますか?」 上司「君、スマホいくつ持ってるの!?」 部下「へへへ(笑)」 部下との垣根を取り払えればよい。その程度に考えて仕掛けた雑談が、思いもよらず仕事に結び付くなんてこともありそうです。雑談は、やってみるものです。

shigeru_banner 2016年8月号 雑談の極意は Listening is Loving 雑談狙いの質問が、期せずして仕事に結び付いた例を紹介しました。今度は逆に、仕事の質問を雑談に発展させる技を見てみましょう。 (1)うまくいかない、残念な例 部下「部長! 今ちょっといいですか?」 部長「いいよ(パソコンの画面を見ながらキーボードを動かす手を休めることなく作業を続け、部下に顔を向けない)」 部下「あのー、部長がおっしゃっていた例のA社に提出するプランを3つほど考えてみたんですが、いかがいたしましょうか?」 部長「(カチャカチャとパソコンを操作しながら、振り向かず)じゃ、そこのデスクの脇にでも、置いといてもらっていいかな? 時間のあるときに見るから(カチャカチャ……)」 部下「承知しました」 部下は言われた通り、提案書をデスクに置いて、その場を立ち去りました。後ろ姿が悲しげです。 膨大な仕事を抱える多忙な上司としては、致し方ないかもしれません。しかしこれでは、仕事の話を雑談につなげ、職場の空気を良くすることはできません。 (2)単なる仕事が雑談に発展する、望ましい例 部下「部長! 今ちょっといいですか?」 部長「いいよ(パソコンのキーボードから手を離し、サッと部下に体を向け、穏やかな笑顔で話を聞く体勢に入る)」 部下「部長がおっしゃっていた例のA社に提出するプランを3つほどまとめてみたんですが、見ていただけますでしょうか?」 部長「さすがB君、反応早いねえ! どれどれ(興味津々、ほー、えー、と感心しながら読み進む)いいねえ! 面白い! どうだろう、この段落の空いたスペースに、君の得意なスナップ写真1枚添えたら、もっと良くない?」 部下「え? 部長、入社面接で、私が学生時代、写真部だったって申し上げた話、覚えていてくださったんですか?」 部長「もちろん。僕も、写真、好きなんだ。君の輝かしい受賞歴を生かさないのはもったいないよ」 部下「明日朝イチには、出来上がったものを、お持ちします!」 部長「10時半に会議が終わるけど、そこでどう?」 部下「承知しました!」 部長「今度、時間のあるときにでも、撮影術、教えてもらおうかなあ(笑)」 部下「私でよければ、喜んで!(笑)」 ビジネストークがいつの間にか「雑談混じりのカジュアルトーク」になってきました。上司と部下の距離がぐっと近づく瞬間です。 成功の秘訣は、部長の「聴く」姿勢にありました。部下の話を聞くべきときは、しっかり聞く=聴くことに集中する。「傾聴する姿」が信頼や親密さを形成します。 “Listening is Loving”-傾聴とは他者に愛を捧げることでもあります。雑談でも仕事でも、大事なのは人の話に耳を傾ける姿勢なんですね。

shigeru_banner 2016年8月号 落ち込む部下を正論ではなく雑談で元気づける技 大事なプレゼンを来週に控え、部下のCさんは悲痛な表情で鬱々(うつうつ)と独り言を口にします。2つの、正反対の上司の対応を見てみましょう。 (1)正論で説き伏せようとして失敗する上司の例 Cさん「無理です。前回もそうでしたが、今回も絶対しくじるに決まっています。心配で何日も寝ていません(ひどく落ち込んだ様子)」 部長「君が弱いからダメなんだ。甘えるな! 頑張れ! 死ぬ気でやれ!」 部長は懸命に応援するのですが、Cさんは「死ぬ気でやる」どころか、本当に死んでしまいかねない様子です。 (2)思わぬ雑談プレーで成功に導いた上司の例 Cさん「今回も絶対しくじるに決まっています(ひどく落ち込み、鬱(うつ)状態)」 部長「緊張するのは、君の中にすんでいる『上がり虫』が悪さをしているからだと僕は思う。虫さえ退治すれば解決する」 Cさん「え! そうなんですか?」 部長「退治すれば、うそみたいに治る。どうだ、一緒に虫退治の戦略会議を行おうじゃないか。虫が動き出すと、いつもどうなるの?」 Cさん「どうなるって……マイクを持つ手が震えます……」 部長「そりゃあ、手持ちマイクが虫の好物なんだ。排除! 虫が嫌いなピンマイクに変えよう」 Cさん「!?」 部長「他に虫の好物は?」 Cさん「原稿用紙を手に持つと震えるんですが……それも好物?」 部長「原稿用紙撤去! 原稿は全てパワーポイントに書き込んで、そのまま読んじゃえばいいじゃないか。これで上がり虫を無力化できる」 Cさん「なんだか、気が楽になりました」 部長「虫が大好きな辛口批評家の局長も、今回は出張でいないから、虫はまさに虫の息さ!」 Cさん「部長……!」 部長「緊張や不安は君のせいじゃない。悪いのは上がり虫のやつなんだから」 この雑談、とっぴすぎて「ついていけない」とお怒りかもしれませんが、これは「過緊張や不安症など、心理的困難を抱える人」の悩みを解消する心理療法の技「外在化」(悩みを自分のせいでなく自分の外にある別の物に置き換える治療法)の1つなのです。頭をぶつけて泣き叫ぶ子どもに「痛いの痛いの飛んでいけ~!」と母親が言ったりしますでしょう? あれと同じです。 「正論」より、「雑談風なストーリー」で救われることさえあるのです。雑談力、「すごい」ですね!


筆者プロフィール shigeru_profilepic 梶原 しげる (かじわら しげる) 早稲田大学卒業後、文化放送に入社。20年のアナウンサー経験を経て、1992年からフリーとしてテレビ・ラジオ番組の司会を中心に活躍。49歳で東京成徳大学大学院心理学研究科に進学、心理学修士号取得。東京成徳大学経営学部講師(口頭表現トレーニング)、日本語検定審議委員も務める。 新刊案内! 不適切な日本語 梶原しげる著/新潮新書 821円(定価)