コラム
2016.03.31
vol.7 若者世代にどう接していますか? 梶原しげる
2016年4月号
4月、いよいよ新しい年度のスタート。採用したばかりの新入社員や、新しく昇格させた管理職の働きぶりも気になります。幹部の中から期待に応え、自分の後継者にふさわしい存在として頭角を現す人材は現れるのか? 期待と不安が入り乱れる季節です。
「経営者にとって期待と不安は4月に限らない!」
のんきな私は叱られそうです。経営者は社員の知らないところで「経営者ならではの悩み」を常に抱えているのですから。
経営者の悩み インターネットで「経営者 悩み」と検索すると、「こんなにも?」と驚くほどさまざまな悩みが目に飛び込んできます。 ちなみに、「経営者の悩みTOP5」(中小企業基盤整備機構調べ)には、売り上げやコストなどのお金の悩みとともに、後継者や幹部をどう育てたらいいのかという「人材の悩み」がありました。 若手の人材育成に苦慮する経営者の声はしばしば耳にします。「資金繰りと同じぐらい、いやそれ以上に後継者の育成や見極めは難しい」と嘆く経営者もたくさんいます。 特に、生まれながらに起業家としての能力(体力・気力・ビジネスセンス)に秀でた経営者ほど、若い社員たちを「自分とはマインドが違い過ぎて、何を考えているか理解不能だ」と感じる傾向にあるようです。
2016年4月号
世代間の違いに戸惑う
「育てる」第一歩は「理解する」ことから始まります。理解不能な若い世代を育てるとなれば、戸惑っても不思議ではありません。
20代前半から30代前半の若い世代を表す「さとり世代」という言葉があります。
「名付け親」の博報堂ブランドデザイン若者研究所のリーダー・原田曜平さんから、直接その由来を伺ったことがあります。
「生まれた時から少子化ですから競争する必要がない。不景気な時代しか経験していない彼らは高望みをしない。SNS育ちだから『叩かれないこと』に心を砕く。それ故、空気を読み周囲に気を配る技に長けている。(表立っては)不満を言わない。反抗もしない。この、まるで悟りを開いたかのような集団を『さとり世代』と命名しました」
「最近の若い部下たちに強い違和感を覚える」との経営者の言葉にもうなずける気がします。今の若者たちはかつてないほど「分かりにくい人たち」だとも言えます。
一方で、こう豪語する社長がいます。
「若い連中を飲みにも連れて行くし、バーベキューやゴルフへ引っ張り出して一緒にワイワイやっている。連中の考えていることぐらい理解できるし、指導も行き届いていますよ!」
実に頼もしいお言葉です。「触れ合う機会を増やし指導に生かす」を否定する気はさらさらありません。
しかし、意地悪な見方をすれば、さとり世代で空気を読む名人の若者たちのこと。「仕事上の偉い人」を前に「好ましい部下」を巧みに演じるぐらいは朝飯前、なんてことはないでしょうか?
ゴルフ場での「一打」に「ナイスショット!」なんて声を上げながら、腹の中で「業務命令で付き合わされたのだからここは辛抱……」と「悟っている」だけだったらガックリです。
「経営者だ」「偉い人だ」という立場で接する限り、若い世代の本音や真実は見えてこないかもしれません。では、後進の若い世代を育てる前提となるキーワードである「若者理解」を深めるためには、どんな方法があるのでしょうか?
部下はいやいや参加しているだけかも知れない・・・?
趣味の世界で若い人と交流 1つ参考になるのが、漫画が原作の大ヒット映画『釣りバカ日誌』のハマちゃんとスーさんの関係です。 ハマちゃんは建設会社に勤務する釣り好きの若い平社員。釣りの超初心者、年配のスーさんが、自分が勤務する会社の社長だということなどまるで知りませんでした。「年上の経営者と、若い部下」という関係性を知らぬ間に、2人の交流が進みます。 真実が判明した後も、2人は以前と変わらぬ釣り仲間としての友情を育んでいくところがこの作品の見所です。「身分や立場、役割を超えた、普通にはあり得ないメルヘン」に私たちは魅了されるのです。 若い世代を理解するため、スーさんのように趣味の仲間を持つのも、異世代理解を促す1つのアイデアです。
2016年4月号
40代半ばで大学院へ進学
仕事とはまるで異なる分野での若者交流の場としてもう1つお勧めなのが「学校」です。
これは私の拙い体験。40代半ばの大学院受験です。きっかけは当時、司会をしていたラジオ番組のコメンテーターを務める経済評論家の一言でした。
「梶原くんは、アナウンサーとしてはそこそこ優秀かもしれないが、それじゃあ単なるしゃべりの器用な人にすぎない。確たる専門性を持てば、僕みたいに説得力を持つ存在になれるかもしれないのになあ、なーんちゃって」
元銀行員のその方は冗談めかしながら「言いにくい本音」をズバリ助言してくれたのです。一瞬ムカつきましたが、すぐに「その通りだ」と思いました。
自分の専門性、すなわち「お前は何者だ?」との根源的な問いが、私に迫ってきました。
そして、まるで思春期のように「俺って何?」と悩まされていたある日、「悩むのは頭の使い方が悪いからだ!」と書かれた書籍に出合いました。
「悩むのは性格が弱いからではなく、頭の使い方!」
この言葉に救われました。
「頭の使い方さえ学べば、ダメな自分を変えられるかもしれない!」
著者は日本カウンセリング界の重鎮、國分康孝教授でした。私は先生が教鞭をとる大学院の受験を決意。1年間予備校に通い、入学を果たしたのが人生の転機となりました。
教室で机を並べるのは私の子どもと同じくらいの年齢の若者です。國分先生から直接論文指導を受けるには、成績上位であることが必須条件ですから、ライバルでもありました。
彼ら・彼女らは、私が社会人であるかどうかなどに関心はありません。ゼミでは対面カウンセリングや集団プレゼンの実演を行い、院生同士が激しく批評し合います。
職業柄、しゃべりに変な自信があった私でしたが、「押し付けがましい」「威圧的」「傾聴ができていない」などと、若い仲間から容赦なく指摘されたことが大きな財産になりました。
「今時の若者は……」。そんな軽率な思い込みは軽く吹き飛びました。おかげで、理論や技法以上に大きなものを学ぶことができた気がします。
2016年4月号
社長から一転、高校生に転身
こんな私の「異世代体験」など及びもつかない素晴らしい話を先日伺いました。地方の家電店をたった1人で立ち上げた75歳のSさん。周囲や取引先から「社長! 社長!」と言われ続けて約50年。一度も赤字を出さない堅実経営に徹し、地元で絶大な信頼を集めたその方は、高校進学の夢を叶えるべく店を畳み、受験勉強を始めました。
そして2015年4月、めでたく公立高校夜間部への入学が許されました。夜間部ですから、10代から30代まで幅広い若者が学んでいますが、中でも「75歳の高校生」は珍しい存在です。
60年前。家が貧しく、高校進学を断念せざるを得なかったSさんは、中学卒業と同時に上京して電気店で修業を積み、電気工事や販売、経営のノウハウを師匠から学んで、故郷に戻り起業しました。
仕事にも家族にも恵まれながら、一方で高校生活への憧れを諦めていなかったのです。そして夢は現実となりました。この4月、順調に高校2年生に進級です。
梶原「学校生活はどんな感じですか?」
S「校長先生をはじめ、先生方やクラスメート、クラブの先輩がとても良くしてくれます」
校長先生は自分の子どもと同世代、クラスメートや先輩に至っては、孫より若い10代後半の若者たちです。
梶原「今時の若い人たちって、どうですか?」
S「私らの頃よりずっと真面目ですねえ、仕事も勉強も。夜間ですから学校に来る前に2つも仕事をやって、学校の後またもう1つ仕事をする、ものすごく頑張る同級生がいます」
梶原「そういう若者を想像していましたか?」
S「いえいえ! 普通、今時の若者はもっとチャラチャラしているって思いますでしょう(笑)。私が所属する軟式野球部の先輩たち(20歳前後の若者)は、地方大会を勝ち抜いて神宮での決勝ラウンドまで駒を進めましてねえ。『Sさんを連れて行きたいと思ったから頑張れた』なんて言ってくれるんです。私らの若い頃よりずっとやる気があるし、うちの先輩はすごいですよ」
梶原「先生方もSさんよりずっと年下ですよねえ?」
S「それはもちろん。でも優しくて、熱心で、威厳があって。夏休みの研究課題で星座観測に連れて行ってもらいました。私から見るとものすごく忙しいスケジュールのはずですが、私たち生徒にいろんな物語を丁寧に語ってくださる。先生っていうのはやはり物知りの人格者ですね。相談にも乗っていただいています」
社長時代は「酒はもちろんたばこも1日50本、移動は車」という、典型的な地方の社長的ライフスタイルだったSさんは、高校進学を機に、それらを全て断ち切ったのだそうです。
S「正月に仕事時代の仲間が『めでたい時だから少しぐらい、いいじゃないか』とお酒を勧めてくるんです。しかし、私は社長ではなく高校生ですから一切飲みません。そもそも予習復習で手一杯ですから無理。若く優秀な同級生に追い付かなきゃなりませんから。先生にも迷惑をお掛けしたくない」
毎日夕方5時に自転車通学。クラスメートと給食を共にし、夜9時まで英数国理社、体育、総合など、各教科の授業を受け、軟式野球部とボランティア部のクラブ活動に精を出す「元経営者・75歳」。
「卒業して、また若い人たちと一緒に、世の中のお役に立てる仕事ができる日が楽しみで仕方がありません」
そう言ってのける75歳のSさんは、経営者としてでも年長者としてでもなく、「フラットな立場」で「ありのままの若者」と接する稀有なチャンスを得ました。
もちろんSさんは特異な例ですが、「若い部下の扱いがよく分からない」「ジェネレーションギャップが厄介だ」と嘆く前に、Sさんの「役割や立場を超えた視点」の存在を知っておくだけでも、若者や部下の扱いに進展がありそうな気がします。
筆者プロフィール
梶原 しげる (かじわら しげる)
早稲田大学卒業後、文化放送に入社。20年のアナウンサー経験を経て、1992年からフリーとしてテレビ・ラジオ番組の司会を中心に活躍。49歳で東京成徳大学大学院心理学研究科に進学、心理学修士号取得。東京成徳大学経営学部講師(口頭表現トレーニング)、日本語検定審議委員も務める。
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