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コラム
有識者連載
各分野の有識者や、さまざまな領域の専門家による連載です。
コラム 2021.12.01

Vol.75 デザインで自社を生かす:竹内製菓

竹内製菓「お徳用柿の種」 左側が旧パッケージで、右側が新パッケージ。社名を前面に打ち出した大胆なデザインに変更した(左)。竹内製菓がOEMで手掛けた「新型カキノタネ」。粒の形が日産自動車の名車のシルエットをかたどっている(下)     経営者と社員が共有できる旗   前回(2021年11月号)に引き続き、まずは少しだけ私自身の話をさせてください。   私は2021年10月に、京都芸術大学でソーシャルデザインをテーマに据えた科目で、ゲスト講師を務めました。私が話したテーマは「地域資源をデザインの力で生かすには」でした。   ここでいうデザインとは、商品の形や色を決めたり、ウェブやカタログを制作したり、という話にとどまりません。デザインとは「当事者ですら意識しきれていない、もやっとした課題」に対して「明確な答えを導く、全ての作業」を指します。言葉になっていない、姿を見せていない、そうした問題に向き合って、「あなたが真に目指しているのは、これではないですか」と提示することが、まさにデザインなのですね。私は今回の講義で、そのことを強調しました。   そして、こういう意識はプロのデザイナーに限らず、多くの経営者にとっても、とても大切な部分ではないかと思うのです。   企業を存続していく上で、経営者は、何を誰に伝えていくべきか。商品の強さを、取引先に理解してもらうのは当然ですね。また、消費者向け商品の場合、流通企業の先にいるお客さんにも分かってもらうべきでしょう。でもその前に、何をおいても自社の社員の皆さんに、「自社がどのような会社なのか」「何が持ち味なのか」を認識してもらうことが大切かもしれません。そこを重要視するなら、「経営者と社員が共有できる旗」の存在が効果を発揮します。迷いが生じた場面で、全社員が一緒に見つめることのできる「旗」です。   そして、その「旗」を掲げる際には、前述した広義のデザインへの意識が求められます。つまり、狭い意味でのデザインではなく、「もやっとした課題」に対して打開策を見いだせるようなデザインワークであるべきという話。   OEM以外の商品を伝える   ここからが、今回の話の本番です。   新潟県小千谷市に竹内製菓という米菓メーカーがあります。同県内にはたくさんの同業者がおり、最大手クラスの企業は売り上げ1000億円規模。竹内製菓は10億円強といったところですから、決してシェア上位とは言えません。   ただし、同社には強みがあります。OEM事業です。もちろん一般消費者向けの商品も流通企業に卸していますが、売り上げの比率はOEMの方が多い。もう少し詳しく説明しますと、竹内製菓の実力は業界内ではよく知られています。   例えば、2020年に日産自動車が「新型カキノタネ」という歴代人気モデルをかたどった小さな柿の種を発売して、大いに話題を呼びました。この「新型カキノタネ」の製造を実際に担っているのは竹内製菓です。私など、「よくあんな細かな形状の柿の種を作れるものだなあ」と感心してしまいました。   ただ、同社の3代目に当たる専務の竹内義朗氏には、複雑な思いがずっとあったと言います。   「OEMが得意領域であるのは良い。でも一方で腑に落ちないところもあった」(竹内氏)   OEM製造の一方で、同社には一般消費者向けの商品がいくつも存在しているわけです。でも、そのことが広く伝わっていない。この先、事業を継承する上で、このままで良いのかという疑問ですね。     あえて量産型商品を選んだ   竹内氏は、一般消費者向けの主力商品である「お徳用柿の種」のパッケージを一新することを決断しました。中身の味はそのままで、外見だけを変えるという考えでした。もちろんそこには意味がありました。   「確かに、うちの米菓への評価は高いんです。しかし、それだけではいけない。社員と一緒に、そうした点を認識したいと考えたのです」(竹内氏)   もう少し詳しく、その狙いを教えてもらえますか。   「『うちの米菓はおいしいから、ちゃんと食べてもらえるはずだ』という意識が、社員の中で強すぎると痛感していました」と竹内氏は語ります。   「物が良ければ売れるといった考えだと会社は存続できない。顧客にしっかりと商品の良さを伝えてこそ、なのです」(竹内氏)   つまり、この話は、単に商品のパッケージデザインに手を入れて目先を変えるというものでは決してないのです。パッケージを一新することによって真に変えようとしたのは、経営者と社員の姿勢だった。   「だからこそ、どうしてデザインを変えるのか、そこを社員に説明し尽くしました」(竹内氏)   自らの商品をちゃんと伝える意欲を全員が共有すること。その結果として竹内製菓の存在をさらに社会に知ってもらうこと。そうすることで、同社の米菓の味がこれまで以上に人々に親しんでもらえる状況が生まれる。つまりは、そういう話ですね。   社内では結構な反対にも遭ったそうです。「『お徳用柿の種』はまずまず売れているのに、どうしてわざわざパッケージを変えるのか」「別にこのままでいいじゃないか」というふうに。それに対して竹内氏は粘り強く説明を重ねたそうです。   「量産型の『お徳用柿の種』から手を付けたのは、社員に、この商品が自社ブランドである認識があまりにもなかったからです。だからこそ、あえてここから始めるのがむしろ賢明であると考えました」(竹内氏)   売れているのならなおのこと、もっと自発的に存在を伝えると同時に、自社商品への誇りを社員に持ってもらいたいという狙いがあったのです。     出荷数が激増する結果に   「お徳用柿の種」の新パッケージは、単なるマイナーチェンジではなく、まさに「一新」と表現するにふさわしいものとなりました。社名を大きく刻み、シンプルでありながら洒脱なデザインでインパクトがあります。   2021年に新パッケージに変わってから、何が変わったのでしょうか。   まず、人気小売店での取り扱いが急増したそうです。さらに、同シリーズのうち「サラダ柿の種」は出荷数が従来の3倍に上るほどの効果を上げました。デザインの変更が、売り上げに好影響をもたらしたのです。   「でも、売り上げ以上に社員の意識が変わったことが大きな成果です」と竹内氏は言います。   同社の社員の間に、マーケティングやブランディングについて考える空気が生まれたということですね。竹内氏はこうも話しました。   「会社をアップデートしないといけない。自分が関わっている商品だと社員がちゃんと認識しないといけない。そのためには、私と社員が一緒にパッケージ変更を進める必要があったんです」   デザインは何のためにあるのか。その一端をご理解いただけたかと思います。    
PROFILE
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北村 森
Kitamura Mori
1966年富山県生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。「日経トレンディ」編集長を経て2008年に独立。製品・サービスの評価、消費トレンドの分析を専門領域とする一方で、数々の地域おこしプロジェクトにも参画する。その他、日本経済新聞社やANAとの協業、特許庁地域団体商標海外展開支援事業技術審査委員など。サイバー大学IT総合学部教授(商品企画論)。