コラム
2015.12.24
vol.4 着席パーティー 見知らぬ人にどう振る舞う? 梶原しげる
2016年1月号
年明け早々、取引先の新年パーティーの掛け持ちでスタートだという方もいらっしゃるでしょう。そこで、経営トップの皆さまに、質問です。
「パーティーは立食がいいですか? 着席がいいですか?」
「ゆっくり落ち着いて食事ができる着席の方が良い」という答えが多いかと思われますが、意外に「立食の方が良い」とおっしゃる方も少なくないようです。取引先の創立記念パーティーや結婚披露宴、還暦祝いの会。宴会場のドアが開く前、懐かしい顔を見つけては、前室に用意されたビールやワインの立ち飲みで早くも盛り上がったりします。
「ずっとこのままのカジュアルな立食スタイルでいいなあ」と思うのですが、「正式な席」ではそうもいきません。
「〇〇様ですね、こちらへどうぞ」と宴会を取り仕切る黒服に確認され、うやうやしく案内されたテーブル席に向かうと、残念ながら知らない人ばかりで居心地の悪さを感じる、といったこともあるでしょう。
読者の皆さまは、年齢にかかわらず各職場のトップというお立場ですから、気の合うお友達とご一緒ばかりとはいきませんね。「ご来賓に失礼がないように」と配慮する主催者側は「組織のトップはトップ同士、知り合いであろうとなかろうと、一様に最前列中央の席にお並びいただく」などと、肩書の序列にこだわる傾向にあるからです。
その結果、経営トップは「知らないもの同士が顔をそろえる着席パーティー」の常連となっていくのです。
「どうぞよろしくお願いいたします」「こちらこそどうぞよろしくお願いします」
丁寧なあいさつが厳かに交わされますが、その後、無理やりに盛り上げようと会話を仕掛ける人もあまりいないようです。その光景を遠くから(時には司会席から)見ている私は「気まずくないかな」と余計な心配をしてしまうことがあります。列席する経営トップの皆さまは、この先2時間も続く「言葉少ない時間」を「退屈だ」「居心地悪い」と感じないものなのでしょうか。
着席初対面を積極的に活用する人
「着席初対面」を後ろ向きに捉える私とは逆に、「えりすぐりのメンバーと同席できるなんて、またとない出会いのチャンスだ!」と積極的に考えるおじさんがいました。「なかなか同席する機会のないVIPと、2時間顔を付き合わせ、じっくり話ができる絶好の出会いの場」を積極的に活用し、人脈を広めているMさん。私の知り合いで、某出版社の若き副社長です。
Mさんはかつてベストセラーを連発する敏腕編集者として鳴らし、役員になって以降もビジネス書籍を中心に、現場で活躍し続けています。彼が現在手掛ける作品の著者の何人かはこのような場で出会い、その後に手紙でアポを取り、口説き落とした人だと聞きました。
M「実は、私はいまだ、初対面の人と同席して上品に社交的に振る舞う技を会得していません。差し障りのないことをほどほどに話して、その場をそつなくやり過ごす能力って、逆にすごいなあって常々感心しています」
梶原「どんな業界でも、上座に居並ぶようなトップの皆さまは、そういう自然な時間の過ごし方に対応する能力をお持ちなんですよね」
M「そう、立派な能力です! 同席した初対面同士が、適当に言葉を交わし、悠然と飲食を楽しんで、互いの人となりを感じ取り合うなんて……」
梶原「ソワソワしたり、ざわついたり、ガツガツしたりせず、上品で穏やかな空気を醸し出す。経営トップは違うなあと思いますね」
M「なぜできるのか? ポイントは、役割意識だと思うんです」
梶原「役割意識?」
M「普通は、見知らぬ同士が着席させられて約2時間。何を話したらいいんだろうとか、気まずいなあとか、知り合いの席に行きたいなあとか、余計な邪念が浮かんで心が揺れますよね」
梶原「おっしゃる通り! ビールを注いだ方がいいのか? 何か気の利いた質問でもするべきか? いや余計なことを言ったら失礼になるのか? 邪念だらけで、私ならヘトヘトに疲れます」
M「ところが、そういう場面で平然とにこやかに過ごすのが自分の役割だと覚悟していれば、心乱れることはない。人間は役割を与えられれば冷静を保てる。役割意識が明確でないときに浮き足立つものです」
梶原「なるほど……」
M「私を支える役割意識は書籍につながる人材発掘。生々しいでしょう? 役員とはいえ、心は一編集者。この会食で、ベストセラーにつながる著者を探す役割が課せられている! そう割り切ると、恥ずかしいとか気まずいという気持ちはすっ飛んじゃうんです。スマートなトップの振る舞いができるようになるのは、まだまだ先ですなあ」
梶原「えー? 仕事につながると思うと余計に緊張しませんか? 仕事じゃないから適当に時間が過ぎればいいやっていう方が、気楽な気もしますが」
M「いやいや、仕事だからこそ、恥ずかしげもなくできること、ありませんか? 私なんか若い頃、気難しい著名作家に原稿を書いてもらうためには、裸踊りでもなんでもやりました。仕事でもなければ、あんな大胆なことはできません。編集者としての役割がつっかえ棒になったから耐えられたのです」
梶原「言われてみれば、私にも思い当たることがあります」
高所恐怖症の私ですが、急降下するヘリコプターから眼下に広がる都心の夜景を実況中継することがありました。気を失うほどの恐怖でしたが、「本番5秒前! 4、3、2……」と告げられた途端、恐怖は消え去り、思った以上にしっかり話せたものです。
私以上に大変なのはカメラマン。機体のドアを取り払い、足をロープに固定して体は外にはみ出させ、腹筋の力だけで体とカメラを支え、機内の私と外の夜景を交互に撮り続けるのです。
ヘリポートに着くとカメラマンに声を掛けました。
梶原「高いところ、平気なんですか?」
カメラマン「とんでもない。普段は土手の上から川を見下ろすだけで目まいがするほど苦手です。カメラを持たなきゃ絶対無理」
カメラマンやアナウンサーという「役割意識」が大きな力を発揮する。初対面の人との着席での飲食にビビらない経営トップの「役割意識」は、マイクやカメラにすがらないだけ、われわれ以上に立派だと言えます。
結婚披露宴で外国語に囲まれる
最近、「着席宴会」を体験して驚いたのは、友人の結婚披露宴が某宴会場で行われた昨年のことでした。
新郎は「ユニークな経歴」の持ち主です。大学院を修了後、米国の現地企業に採用され、その後韓国の大学に留学。私が出会ったのは彼が日本に帰国したころ。彼は30代半ばでした。真面目で欲のない勉強熱心な独身青年です。
一昨年の夏、彼は「中国語を学びたい」と、上海への短期留学のため日本を後にし、 1年きっかりで帰国しました。その時、驚いたことに、美女を伴って帰ってきたのです。
披露宴でも驚いたことが2つありました。
1つは列席者に合わせ、新郎自ら4カ国語を駆使してあいさつしたこと。とても感動的でした。
2つ目は、私の席が、中国から来日した新婦ご家族4名のテーブルだったことです。新婦の両親と叔父、そして中国服でお越しの80歳のおばあちゃま。
皆さん、生まれて初めての日本だそうです。
「着席初対面」に緊張が走りました。「気まずい」を超えた「おびえ」です。ここで必要なのは「何を話そう」どころか、「どう通じさせよう」なのです。立ちはだかる言語の壁……。
テーブルには、新婦家族以外に、私を含む3名が同席しました。1人は内モンゴルから来日して10年の女性。もう1人は日・中・韓3カ国を股にかける貿易商の男性です。
この方々が同席に座るのは納得です。とても流暢な中国語をしゃべるからです。テーブルの共通語は中国語! そこに、なぜ私が入れられてしまったのでしょうか。
自分の「役割」に求められるもの
新婦の父はそんな「さまつなこと」は一切気にしていない様子です。50代半ばとは見えないほど、若々しくアクティブでフレンドリー。われわれ3人に満面の笑みで話し掛けてきます。
その様子がなんとも面白く、吹き出す私にお父さんは大喜び。さらに話を被せてくるのです。私が中国語を話そうと話さまいと、頓着しません。「大陸的」とはこのことでしょうか?
アルコール52度の白酒(中国酒)を両手に掲げ、何度も勧めてくださいます。5回に4回はお断わりするのですが、1回は断わりきれず、それが続いてヘロヘロです。
お父さんは面白がって、スマホのシャッターをどんどん押し、フラッシュがパシャパシャ光り、目の前がチカチカしてきます。お父さんは目一杯われわれにサービスしようとします。
「娘をどうか、よろしく!」
切なる願いが込められていました。娘を手放す親心。そりゃあ不安だったでしょう。
新郎が私をこの席にしてくれた理由が、少しだけ分かった気がしました。「商売柄、何かと気が付いて、サービス精神旺盛な梶原さんなら、娘を異国に嫁がせるちょっぴりメランコリックになりがちな家族を楽しい空気でいたわってくれる」との期待。
そう感じた瞬間、私の「役割スイッチ」が入りました。
わずかな言葉の断片に、身振り手振り、仕草、声の調子、表情、笑顔など非言語を総動員して、家族のだんらんを味わっていただけるよう心掛けました。
すると、それまで黙り込みがちだった80歳のおばあちゃま。筆談を介して雑談しているうち、すっと立ち上がって踊り出したのです。われわれのテーブルは手拍子、拍手で湧き立ちました。
もしこれが立食であれば、言葉の通じない私は諦めてその場から「逃げた」可能性がありました。長い間同じ時を過ごせる、着席の場だからと観念したからこそできた気遣いだったかもしれません。
着席の場には、時間をかけて「友情」を育む力があります。主催者から指定された席に座り、気負わず自然に初対面の相手とやりとりする。無理なく気持ちを通わせる。時の経過とともに、テーブルを同じくするメンバー全体に、じわじわと親しみの感情が熟成される。立食にはない着席の大メリットです。
こうした経験を通して理解した、経営トップの皆さんが軽々とそつなくその場をやり過ごすという作法が、実はとても優れた「能力」だと、あらためて思い知ることとなりました。
筆者プロフィール
梶原 しげる (かじわら しげる)
早稲田大学卒業後、文化放送に入社。20 年のアナウンサー経験を経て、1992 年からフリーとしてテレビ・ラジオ番組の司会を中心に活躍。49 歳で東京成徳大学大学院心理学研究科に進学、心理学修士号取得。東京成徳大学経営学部講師(口頭表現トレーニング)、日本語検定審議委員も務める。
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