今回のテーマは、「相互尊敬・相互信頼の関係づくり」です。生産性(スキル)を補完する意味合いでの人間性(マインド)を強化する知恵について、アドラー心理学の立場から分かりやすくお伝えします。
リスペクト(尊敬)とトラスト(信頼)
先ほど私は「アドラー心理学では、役割や立場の上下はあっても、本来『人間の尊厳において上下はない』との立場から、ヨコの人間関係としての『相互尊敬・相互信頼』を推奨しています」と書きました。ただ、「リスペクト(尊敬)」は、アドラー心理学だけの専売特許ではありません。経営学者のP.F.ドラッカーも「仕事の上での人間関係は、尊敬に基礎を置かなければならない」(『マネジメント【エッセンシャル版】』、上田惇生訳、ダイヤモンド社)と書いています。
ドラッカーはまた、信頼について次のように言及しています。
「そもそもリーダーについての唯一の定義は、『フォロワーがいること』である」。続いて、「信頼がない限りつき従う者(フォロワー)はいない」と書いています(『未来企業―生き残る組織の条件』(ダイヤモンド社)。つまり、リーダーとフォロワー間においては「信頼関係」が欠かせないのです。
「リスペクト(尊敬)」と「トラスト(信頼)」を人間関係の中で位置付けると、リスペクト(尊敬)は人間関係のある種の抑止力として働き、また、トラスト(信頼)は人間関係の促進力として働くマインドだと言ってもいいかもしれません。
ところで、「信頼」に近い表現として「信用」があります。信用と信頼の違いは、どう捉えたらよいのでしょうか。
「信用」で連想するのは、「信用金庫」「信用取引」「信用調査」などのビジネス用語です。取引の際は、悪意の可能性を見極め、しっかりとした裏付けを基に信じることが必要です。これは「生産性の原理」に基づいています。英単語を用いると“credit”がふさわしいでしょう。
対して「信頼」は、「信頼取引」も「信頼調査」もありませんが、「信頼関係」「相互信頼」「全幅の信頼」などの人間関係に使われます。相手との好ましい関係を構築すること、人を育てることに欠かせない態度である「人間性の原理」に基づく対応です。あなたが良い関係を保ちたい、育てたいと思っている人に、やや理解が及ばないことがあるにせよ、その背後にある善意を見ようとして無条件に信じることです。英単語では“trust”が当てはまります。
結論に入ります。これからの組織に求められるのは、人間に対する軽視・蔑視に代わるリスペクト(尊敬)、不信・恐怖に代わるトラスト(信頼)を基にした「相互尊敬・相互信頼」なのです。その鍵は、「タテの関係」から「ヨコの関係」へと組織構造を転換させることなのです。
「アドラー心理学」とは
ウィーン郊外に生まれ、オーストリアで著名になり、晩年には米国を中心に活躍したアルフレッド・アドラー(Alfred Adler、1870-1937)が築き上げた心理学のこと。従来のフロイトに代表される心理学は、人間の行動の原因を探り、人間を要素に分けて考え、環境の影響を免れることができない存在と見なす。このような心理学は、デカルトやニュートン以来の科学思想をそのまま心理学に当てはめる考えに基づく。一方、アドラーは伝統的な科学思想を離れ、人間にこそふさわしい理論構築をした最初の心理学者である。
ウィーン郊外に生まれ、オーストリアで著名になり、晩年には米国を中心に活躍したアルフレッド・アドラー(Alfred Adler、1870-1937)が築き上げた心理学のこと。従来のフロイトに代表される心理学は、人間の行動の原因を探り、人間を要素に分けて考え、環境の影響を免れることができない存在と見なす。このような心理学は、デカルトやニュートン以来の科学思想をそのまま心理学に当てはめる考えに基づく。一方、アドラーは伝統的な科学思想を離れ、人間にこそふさわしい理論構築をした最初の心理学者である。
PROFILE
岩井 俊憲
Toshinori Iwai
1947年栃木県生まれ。早稲田大学卒業後、外資系企業に13年間勤務。1985年㈲ヒューマン・ギルドを設立、代表取締役に就任。アドラー心理学カウンセリング指導者。中小企業診断士。著書は『「勇気づけ」でやる気を引き出す!アドラー流リーダーの伝え方』(秀和システム)ほか50冊超。