コラム
2018.09.28
Vol.37 口うるさい上司に突っ込まれがちな言葉
2018年10月号
「割愛」してどんどん飛ばす?
教員採用試験で実際に出題された「役不足」「煮詰まる」をはじめ、本来とは逆の意味で使われることの多い言葉(慣用句)を2016年7月号でいくつかご紹介しました。今回は第2弾として、「本来とは逆の意味」ではなく、「本来の意味とは異なる意味」で使われることの多い言葉をクイズ形式でご紹介していきます。軽?い気持ちでお付き合いください。
早速、第1問!「割愛」の本来の意味は次のうちどちらでしょうか?
①不要なものを切り捨てる
(例)「これは前の話と重複しますから割愛します」
②惜しいと思うものを手放す
(例)「大事なんですが、時間の都合で割愛します」
「どっちでもいいじゃない!?」と思われがちですが、口うるさい上司などから「本来はだね、君」と思わぬツッコミが入るのを予防するため、くらいに考えてください。では、シンキングタイム!5、4、3、2、1、ここまで!正解は「②惜しいと思うものを手放す」。ここで当然ながら不満の声が聞こえてきそうです。
読者A「仕事のできるビジネスパーソンがプレゼンなんかで①を使っているじゃないですか!要点だけに話を絞り込んで、さまつなところは小気味よくカットする場面で」
読者B「大した差がない気もする」
実は私も「どっちだっていいじゃないか」くらいに思っていましたが、あらためて辞書を引いて見ると、ほぼ全てが②の意味のみで説明していました。言葉の変化を柔軟に受け入れ、いち早く取り入れることでおなじみ、私が大好きな『三省堂国語辞典第7版』(三省堂)にあったのは「おしみながら、はぶく、手放すこと」との②の語釈だけで「不要なものを切り捨てる意味で使われる」という①を支持する記載は一切ありません。
また、『明鏡国語辞典第2 版』(大修館書店)も「惜しいと思いながら、思い切って捨てること。例:文章の一部を割愛する。もと仏教語で、愛着の気持ちを断ち切ること」とあり、「不要」「切り捨て」という無慈悲な①を匂わす記載はありません。
大型辞書『日本国語大辞典』(小学館)では「『愛着の気持ち』を断ち切ること、おもいきること」「『惜しいと思いながらも』省略したり捨てたりすること」(以下略)という具合で「不要だから切り捨てる」というドライな感じを表す表現はなく、「いとしい、惜しい」を大前提とする気高い行為なのだと知りました。『デジタル大辞泉』(小学館)も「惜しいと思うものを手放す」はあっても「不要なものを切り捨てる」とビジネスライクな表記はありません。
国語辞典を見る限り、①の「不要なものを切り捨てる」ではなく②の「惜しいものを手放す」こそが本来の意味だと言わざるを得ません。②と答えた皆さま、お見事! おめでとうございまーす!……と、なるところですが、一方で面白いデータを、文化庁が毎年行っている「国語に関する世論調査」(2011年度)から拾い出すことができました。
本来の意味は②、と決着がつきましたが、実際はどちらの意味で使っている人が多いのでしょうか。膨大なデータとお金を使って調べている同調査を見ると、①を間違いと切り捨てることに、若干の疑問を抱く気持ちも出てきます。
調査を見れば、割愛の本来の意味と、実際に国民が認識する意味が逆転しているケースが少なくない、むしろ圧倒的に多いという事実が綴つづられていました。例えば、先ほどの第1問では、本来の意味は②でしたね。ところが調査の結果では、①が明らかに多数派との数字をたたき出しているのです。
前述の同調査によると、「割愛」を本来の「惜しいと思うものを手放す」との意味で使う人はたったの17.6%。本来の意味でない「不必要なものを切り捨てる」で使う人が65.1%です。本来ではない意味の方が、本来の意味の3.7倍も多く使われているのです。
2018年10月号
世間からずれているから「世間ずれ」?
続いて第2問!「世間ずれ」の本来の意味はどっちでしょう?
①世間を渡ってずる賢くなっている
②世の中の考えから外れている
①とお答えの方、正解です!正解の根拠は、辞書、文法書、多くの国語学者の見解に基づいています。いわゆる「マナー本」もこちらを支持しています。
世間ずれを漢字で書けば「世間擦れ」です。「擦れる」とは「こすれる」に加えて「世間になれて悪賢くなる」(三省堂国語辞典第7版)という意味や、「いろいろな経験をして純粋な気持ちがなくなる」(大辞泉)という意味があります。「すれっからし」の「すれ・擦れ」ですね。
従って、世間ずれは「世間を渡ってずる賢くなっている」というわけです。誤答の主たる原因は、「ずれ」を「擦れる」ではなく「ずれる」(本来あるべき位置からずれる、適正な範囲からずれる・外れるなど)と捉えていることです。「世間からずれている、基準がずれている、視点が外れている」とイメージを膨らませた結果かもしれません。
ところが、現代日本人の認識は正解通りかと言えば、ノー!なのです。2013 年度の「国語に関する世論調査」によれば、「世間ずれ」の本来の意味とされる「世間を渡ってずる賢くなっている」を支持する声が35.6%、本来の意味ではない「世の中の考えから外れている」が55.2%。
10年前のデータでは「本来の意味」が51.4%で「本来ではない意味」が32.4%でしたから、たった10年で世間の認識が逆転となったわけです。とりわけ若い世代に本来とは異なる意味を支持する人が多いことを考えると、今後、本来とは異なる意味がさらにその割合を大きくしていき、そのうち「本来の意味」の「本来」とは何なんだ!?となるかもしれません。
2018年10月号
「うがった見方」はどんな見方?
第3問!会議で発言した若手社員が上長から言われました。「君は、うがった見方をするね」。言われた若手は、どうリアクションしてよいのか戸惑いました。ケチをつけられたのか、褒められたのか、判断できなかったからです。
さて「うがった見方」の本来の意味はどっちでしょうか?
①「君は、ひねくれた、人を疑ってかかるような見方をする」→ネガティブ評価
②「君は、物事の本質を捉えた見方をする」→ポジティブ評価。
今のところ、正解は②「物事の本質を捉えた見方」です。うがった見方の「うがつ=穿つ」は「表面に出ていない、本当の姿を捉える(三省堂国語辞典第7版)という意味だからです。明鏡第2版ではもっとハッキリ「プラス評価で使う。深読みしてツボをはずす意で使うのは誤り」とネガティブ評価を完全否定しています。辞書、参考書はこぞって②のポジティブ評価であると断言しています。
しかし、部下が「うがった見方」の本来の意味=ポジティブ評価を知っていたとしても、上司側が本来の意味で発言しているのか、本来とは違う意味で声を掛けてきたのかは不明です。なぜならこんなデータがあるからです。国語に関する世論調査(2011年度)によれば10代から60代以上の全世代で「疑って掛かるような見方をする」を本来の意味だと選択しています(全体では①の48.2%に対し②の26.4%)。辞書とはまるで逆の結果ですね。
第3問の正解発表のところで「今のところ」とあえて添えたのは、本来の意味と違う使われ方が定着すると、辞書にも「俗に」と断り書きを入れながら本来の意味とは違う意味を併記し始めるため、一概に「誤用」「不正解」とは言えなくなる場合もあるからです。
とはいえ、自分にとってなじみのない言葉を見たりを聞いたりしたときは、まず辞書で確認。本来の意味を知った上で、本来とは異なる解釈の存在を合わせて知っておくのが賢明です。
筆者プロフィール
梶原 しげる (かじわら ?しげる)
早稲田大学卒業後、文化放送に入社。20年のアナウンサー経験を経て、1992年からフリーとしてテレビ・ラジオ番組の司会を中心に活躍。49歳で東京成徳大学大学院心理学研究科に進学、心理学修士号取得。東京成徳大学経営学部講師(口頭表現トレーニング)、日本語検定審議委員も務める。
\著書案内/
不適切な日本語
梶原しげる著/新潮新書
821円(定価)