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コラム
有識者連載
各分野の有識者や、さまざまな領域の専門家による連載です。
コラム 2018.05.31

vol.33 34歳イケメン社長のたくましい言葉

shigeru_banner 2018年6月号 テレビの舞台裏を支える「あるもの」とは? テレビ番組成功の必須要件とは、キャスティング、台本、演出といわれますが、それに勝るとも劣らない「重要なポイント」があります。 それは、弁当です。特にロケ先で食べる弁当を「ロケ弁」といいます。日の出から日の入りまで、時には日の出前から夜中まで、休みなく続くロケ先での唯一のお楽しみは「弁当休憩だけ」ということも珍しくありません。 そこで、若いAD(アシスタントディレクター)の一番大事な仕事は「おいしいロケ弁の手配」です。ささくれだった現場も「おいしいお弁当」でしばし穏やかな空気に包まれ、「さ、もうひと頑張りするか!」と、ロケ隊のモチベーションがグイッと高まるものです。 スタジオ収録でも同じです。オンエアではせいぜい1時間、2時間の番組でも、生放送でなければ、面白い場面を編集で切り貼りして作るのが一般的です。何度もある待ち時間を含めれば5~6時間、長ければ半日は外界から閉ざされ、出演者は楽屋とスタジオを何度も往復することになります。ここでも唯一のお楽しみは、楽屋弁当ということになります。 自称を含め「グルメ」の多い芸能界では、ロケ弁(楽屋弁当・収録弁当を含める)がしばしば話題になります。「○○という番組で出るロケ弁は、おいしくてセンスが良い」なんてことを雑誌のインタビューで話すタレントもいて、業界以外の人の間でも、ロケ弁への関心は案外高いのです。 shigeru_banner 2018年6月号 おいしいロケ弁 先日、若い経営者が集まる勉強会でお目にかかった、俳優妻夫木聡似のさわやかな面立ちをした石川聡さん(34歳)も、ロケ弁に興味を持ったお一人だったようです。 石川「テレビ業界には、ロケ弁という名の宅配弁当を毎日のように食べている人がいる。そんな弁当に対する意識の高い方(弁当接触率が高いため、弁当に一家言持つようになった皆さま……あ、私もだ!)をも飽きさせない多様なメニューを提供したい。ロケ弁の平均単価、800円から1000円を1つの基準に」 こうして10年以上前、インターネットを使った弁当宅配事業を思い立った石川さん。味は天下一品なのにあまり知られていない、ある中華の定食屋さんと一緒にお弁当のメニューを開発したのだそうです。その宅配弁当が大ヒット。お店の売り上げは月250万円から1200万円へと、およそ5倍に膨らんだといいます。 今でも、石川さんの会社「日本フードデリバリー」は宅配弁当の総合サイト「くるめし弁当」、パーティーケータリングの「シェフコレ」、厳選おもてなし弁当の「三ッ星Deli」、社食の出前ビュッフェサービス「みんなの食堂」と並び、厳選したロケ弁を届ける「日本ロケ弁協会」を運営しています。 shigeru_banner 2018年6月号
年上の部下は、やりやすい
34歳の社長の下には80人を超える社員たちがいます。半分近くは社長より年齢も社会人経験も長い人たちです。 梶原「年上の部下って、やりにくくないですか?」 石川「ないですね。例えば仕事上でAかBを決めるとき。社長が言うからこっちにする、ということが、まるでないんです。それはこの会社では判断基準が明確だからだと思います。全ては『お客さまの体験(満足度・喜び)が上がるのはどっち?』で決まります。それに年長者は自分のやりたいことがハッキリ決まっているから、仕事の任せがいがあります」 梶原「ほう?」 石川「ある社員は、元外国要人の公邸で料理人をしていました。彼はわが社が目指す方向を向いているというわけではありません。自分でレストランを持つための『手段』や『トレーニング』だと潔く割り切っています。それが結果として、とても助かっています」 梶原「どういう面で?」 石川「弁当やケータリングのメニュー作成でいろいろなレストランのオーナーや料理人との交渉を担当してもらったら、ピッタリはまりました。自分が一番興味を持っている分野ですから、交渉相手の話をしっかり聞けるわけです。おかげさまで、良いアイデア、良いメニューが続々誕生しました。明確な目標を持った人に、その方向の任務を果たしてもらえることほど心強いことはありません」 梶原「若い人はどうですか?」 石川「34歳の私が『今の若い人』って言うのも変ですが、『将来こうなりたい、こうしたい』という自分の目標を口にできる人が少ない気がしますね。『ああはなりたくない、ああしたくない』って、他人のことは言うんですが。そうだ、先日、面白いことで相談に来た社員がいました」 梶原「どんな相談ですか?」 石川「何をどう考えたのか謎なんですが、リンゴを売って回りたいから退職したいと言い出すんです」 梶原「軽トラに載せて駅前でリンゴとかモモを売る仕事?」 石川「それが、よく分からないんです。私も今の仕事にたどり着くまではいろいろやってきましたから、むげに否定しない方がよいと思い、『それは土日だけやるってわけにはいかないの?』と聞きました」 梶原「納得しました?」 石川「ええ、それでやったんですって、土日にリンゴ売り」 梶原「どうでした?」 石川「『やっぱりやめることにしました』って言うから、うちを退職するのかなあと思ったら、リンゴ売りの方をやめるんだそうで。『それじゃあ、あらためて頑張ろうか?』と言ったら、にっこり笑っていました」 梶原「以後どうですか?」 石川「吹っ切れたようで、スッキリした顔で元気に働いています!リンゴ売りの何がどうだったかは知りませんが、自分なりにチャレンジして、もがき苦しみ、思考が整理されたんじゃないかと思います。自分と向き合い、『自分は何が好きで何をしたいのか』を確かめる良いチャンスだったんじゃないですかね」 shigeru_banner 2018年6月号
順調だったけれど
お弁当の売り上げとともに人材も順調に育っているようです。ところが……。 石川「実はつい最近、一番大変な出来事がありました」 梶原「え?」 石川「大阪の拠点、大阪支社の立ち上げメンバーから、急に辞めるとの連絡がありました。長い付き合いで、私が最も信頼する仲間の一人でした。全ての仕事をキャンセルして大阪へ飛び、説得しましたが、結局、彼の意思を覆すことはできませんでした」 梶原「……」 石川「彼の人望が極めて厚かっただけに、信頼するリーダーを失った大阪支社で働く者たちの間に不安が広がり、心はざわつき、浮き足立っていました」 梶原「どう、なさいました?」 石川「私がうろたえれば、社員の困惑は深まるばかり。私は決断しました。大阪支社の全てをリセットしようと。まず環境を、すなわち支社の場所をまったく別の場所に移すことから始めると」 梶原「大阪のスタッフに戸惑いは?」 石川「あったでしょう。でも彼を失う悲しみに浸る彼らを、新しい支社を作り上げる希望へと導く他にないと考えたのです。私は、支社のメンバーと話し合いながら移転先物件探しの担当、内装照明などデザイン担当、オフィスで使う机や椅子、応接セット選定担当など、次々決めていきました」 梶原「動き始めた?」 石川「日がたつにつれ、スタッフの表情に変化が見えてきました。『今度の場所、便利かもね』『壁は明るめがいいな』『私、こういう椅子で仕事がしたかった』と」 梶原「前向きな声、出てきたようですね」 石川「ええ、新しい支社への移転も5月に決まりました!」 晴れやかに語る34歳の若き社長、たくましいなあ。
筆者プロフィール shigeru_profilepic 梶原 しげる (かじわら ?しげる) 早稲田大学卒業後、文化放送に入社。20年のアナウンサー経験を経て、1992年からフリーとしてテレビ・ラジオ番組の司会を中心に活躍。49歳で東京成徳大学大学院心理学研究科に進学、心理学修士号取得。東京成徳大学経営学部講師(口頭表現トレーニング)、日本語検定審議委員も務める。 \著書案内/ 不適切な日本語 梶原しげる著/新潮新書 821円(定価)