その他 2022.11.01

投資はタイミング:長尾吉邦

国際通貨基金(IMF)の「世界経済見通し(2022年7月改訂)」によると、2021年の世界経済成長率(実質GDP)は米国が5.7%、日本が1.7%となった。また、総務省「令和3年版 情報通信白書」によると、ICT投資額(名目)は、米国が1989年の1476億ドルから2018年は6986億ドルと約30年で4.7倍以上に増加している一方、日本は1997年の20.0兆円をピークに減少傾向をたどり、2018年は15.8兆円(1989年比1.1倍増)にとどまっている。日本は30年の間に「経済成長しない国」「投資しない国」になってしまったのだ。

 

バブル崩壊の経済下でバランスシートを整えることに追われた経営者のマインドから来るものであると理解はできるが、実に寂しい結果である。投資を加速し成長へと誘うには、経営者のマインドセットとスキルアップが必要だ。特に投資判断スキルである。

 

NPV(正味現在価値)やPI(収益性指数)などの投資評価指標も活用するが、いずれも投資による増加キャッシュフローによる指標であり、“甘辛”が出るので決断を決定付けるものとは言えない。

 

成功した経営者の投資判断を見るとタイミングを合わせることに長けている。このスキルを「動物的な直感」で片付けるのは早計である。アンテナを張り巡らし、情報を収集しているのはもちろんだが、大きな違いは「投資経験」だ。投資による成功と失敗を何度も繰り返しているからこそ、タイミングを合わせることができるのだ。

 

したがって、投資判断スキルを向上させるには、何度もの投資経験が必要である。見えづらいデジタル投資となると、なおさらだ。とは言え、最初から大きな投資で失敗できないのが実際であろう。

 

私は尊敬する経営者から「のこぎり投資」が大事と学んだ。のこぎりで木を切るがごとく、最初は小さい投資から始め、少しずつ大きくして経験を積み上げることによりタイミングが合っていく。

 

経営者にとって投資判断は最重要判断だが、慎重になりすぎて縮こまってはいけない。何のために自己資本比率を上げ、キャッシュを積み上げてきているのか。最適なタイミングで投資を実行し、自社を成長に導くためではないだろうか。

 

いつまでも投資に躊躇していては、未来を失う。さあ、のこぎり投資で決断していこう。

 

 

 

 

 

 

PROFILE
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長尾 吉邦
Yoshikuni Nagao
タナベコンサルティング 取締役副社長。タナベ経営(現タナベコンサルティング)に入社後、北海道支社長、取締役/東京本部・北海道支社・新潟支社担当、2009年常務取締役、2013年専務取締役を経て、現職。経営者とベストパートナーシップを組み、短中期の経営戦略構築を推進し、オリジナリティーあふれる増益企業へ導くコンサルティングが信条。クライアントの特長を生かした高収益経営モデルの構築を得意とする。著書に『企業盛衰は「経営」で決まる』(ダイヤモンド社)ほか。