「経営のコツここなりと気づいた価値は百万両」
これは、経営の神様・松下幸之助の言葉である(樋野正二著『「松下経理大学」の本』、実業之日本社)。コツとは、教えてもらうことで気付けるものではない。いわば「悟り」のようなものだと言うのだ。そして、コツをつかむことの価値を、「百万両」という表現を使い、極めて大きなことだと教えてくれている。
KPI(重要業績評価指標)においても、何を押さえるのか、何に絞り集中していくのか、自社の戦略に適合した指標を開発する。これは価値ある発明とも言える。
工場用副資材の卸売業および自社ブランド商品の企画開発を手掛けるトラスコ中山(東京都港区)は、「在庫ヒット率」という独自のKPIを発明した。これは、自社の在庫から出荷した割合(在庫出荷率)であり、同社は常に90%前後を維持している。このKPIの追求により、同社は、即納による顧客満足(CS:カスタマーサティスファクション)・顧客体験価値(CX:カスタマーエクスペリエンス)の向上、豊富な品ぞろえによる顧客からのファーストコール(一番先に声を掛けられるポジション)で競争優位性を実現。また、ついで買いなどを誘発することによって単価や購買頻度を高め、利益の最大化につなげている。
全9店舗を有する、坪当たり売上高において全国トップクラスのパン製造・販売業A社のKPIは、「商品アイテム数150点」「各店、週2品以上の新商品開発」である。なぜか。
パン店の商圏は狭い。したがって、来店頻度を上げることが売上高を最大化するための決め手になる。
そこで、同社はこのKPIを追求することにより、「いつでも多種類のパンがあり、新しい商品もあり、楽しく買い物ができるパン店」として、来店頻度と購買点数を上げることに成功している。結果、固定費対売上高で、業界の常識では考えられないほどの業績を上げ、高収益を実現しているのだ。
こうしたKPIの発明と追求は、社員のモチベーションも向上させる。顧客が喜ぶ価値を提供している実感が自社への誇りにつながり、業績も上がるのだから。
業界の一般的なKPIは、同業他社と比較する意味では価値があるが、それ以上のものではない。ぜひ、「顧客満足度×競争優位性×利益の最大化」の3点をつなぐ、自社のOne&Only(唯一無二)のKPIを発明していただきたい。その価値は、まさに「百万両」である。