その他 2020.07.31

ウィズ/アフターコロナの戦略提言
いざ、「反転攻勢」へ

1.反転攻勢への六つの指針

 

コロナ禍との長期戦を見据え、「経営を止めない、経済を止めない」という基本原則の下、多くの経営者の皆さんとの対策議論を通じて経営の指針を取りまとめた。それを「反転攻勢への六つの指針」として示したい。

 

【指針1】反転攻勢への第1ボタン

 

反転攻勢への第1ボタンは、経営環境の変化を見極め、危機感を正しく持つことで、経営者自らと自社へ変革を強く求めることにある。

 

①警戒経済下での甘い見通しを排除する

 

甘い見通しは、会社をつぶし、変化のチャンスを奪う。緊急事態宣言解除後の経済は、感染抑制と経済維持を両立させながら進む「警戒経済」。先行2年間の売上高の復元予測を厳しく見積もることだ。

 

ドメイン別に見ると、最も厳しいのは人の移動とインバウンド(訪日外国人)消費の領域である。観光・航空・ホテルなどは、2020年の売上高をコロナ前の30%、2021年は50%くらいでみる。また外食やレジャーも2020年はコロナ前の60%、2021年は80%でみておきたい。

 

コロナ禍の前から販売が減少傾向にあった自動車関連は、2020年9月までは60%、21年12月までに80%、回復は21年春以降とみておくべきだ(トヨタ自動車は7~9月で80%、10~12月で90%、回復は21年以降とみている)。

 

建設業も、分野によるが建築は20年に80%、21年も80%と、長期にわたって回復が厳しいとみる。住宅は60%と80%、土木は80%と100%でみていくべきではないか。一方、リノベーション、メンテナンス、防災対応などはマーケットが伸びるだろう。

 

大事なことは、自社の事業を「ドメイン・チャネル別」に再分類し、先行きを厳しく見通して経営対策を立案することである。

 

②「総見直し」の時
――危機に強い会社への課題を整理する

 

「タナベ経営から『卵は一つの籠に盛るな』と教えられたので、今では10の産業と200社の顧客があり、コロナ禍でも売上高に影響はありません」など、経営者の皆さんから頼もしい言葉をいただいている。

 

タナベ経営が一貫して提言してきた経営の原理原則にのっとり、いま一度、自社を「総見直し」し、経営危機に強い会社へと進化する「本気の経営改革」を実行する覚悟を決めていただきたい。

 

③自社の社会価値の本質は何か?
――この答えを腹落ちさせる

 

本気の経営改革には、「捨てる・改める・新しくする」の断行が必要である。「自社の社会価値の本質は何か?」「理念、志は何か?」を、経営者自らが本質にたどり着くまで問いただし、答えを腹落ちさせることだ。それができれば自分たちの行動の在り方が見えてくる。

 

コロナ禍の中では、さまざまな賛否両論が巻き起こり、社会も会社も社員も混乱し、フリーズする。その状況においても経営者は答えを見つけ、企業継続へリーダーシップを執らなければならない。

 

④ウィズコロナ・アフターコロナで困っている社会・顧客を発見せよ

 

シャープがマスクの生産開始を発表したのは3月24日である。それをきっかけに、同社はさらに健康分野への取り組みを強化するとのことである。「マスクが足りなくなる」と経済評論家が警鐘を鳴らし、マスクが売り切れた店の陳列棚の映像をメディアが頻繁に流していたころのことだった。

 

同社のような決断とスピード対応こそが事業家の責務ではないだろうか。くどいようだが、3月24日は「生産開始」であり、「検討開始」ではない。

 

私たち事業家には大切な使命がある。それは、目の前の困っている人を救うことだ。困っている社会・顧客に目を向け、今、何に困っているのかを発見することだ。

 

 

【指針2】厳しい先行予測判断を基に生き残りの経営を断行せよ

 

①固定費6カ月分の資金を確保する

 

固定費の6カ月分の資金があれば、売上高が半分になっても1年は操業できる。1年あれば何らかの対策を打てる。

 

②資金と損益の赤字解消対策を積み上げる

 

繰り返すが、甘い見込みは排除してほしい。決断が鈍り、チャンスを見逃すからだ。

 

まずは原価管理にメスを入れる。インフレ環境では単価と回転が上がるので、原価の押さえが甘くなる。デフレ環境では原価を絞らなければ利益は出ない。

 

さらに、キャッシュフロー(CF)をベースに置くと、営業CFでは営業赤字事業からの撤退、生産減産、人件費の削減(助成金活用)、安売り防止、回収サイトの早期化、在庫圧縮。投資CFでは遊休資産や事業資産の売却、事業売却、投資助成金の活用、投資計画の撤廃および見直し、リース資産の見直しなどだ。

 

反転攻勢に向けて、他人依存の資金補填や営業赤字を解消し、一歩でも早く成長戦略へかじを切ることが、この先の未来を決める。

 

③利益を追求する
――顧客に貢献せよ、原価を押さえよ

 

今、積極的に経営を動かせば、内外から賛否両論が巻き起こる。そんな中、ユニクロ(ファーストリテイリング)の旗艦店である銀座店は5月11日に営業を再開した。決断した同社の代表取締役会長兼社長・柳井正氏は、「自粛は要らない、本業で貢献せよ」と社員を鼓舞したそうだ。

 

私たち事業家の本分は、「事業で社会に貢献すること」である。そして、事業を継続し、社員の雇用を守るためには、利益が必要だ。さらに、利益追求の攻めは顧客貢献だが、守りは原価管理だ。これを機会に、原価を絞るマネジメントシステムを構築していく。

 

原価管理ができていて低収益の会社は見たことがない。利益を追求するという組織カルチャーが出来上がっているからである。

 

④事業の「断捨離」を断行せよ

 

先行の見通しを基に事業の総見直しを図り、これから1年以上、CFと収益が回復しないと判断した事業においては、撤退や人員の大幅なシフトを提言したい。特に、コロナ禍の前から業績不振の事業・部門・店舗などは、撤退の絶好機とも言える。

 

経営者は孤独の中で決断しなければならない。担当部門の責任者や社員は事業存続を期待し、もがくだろう。しかし、収益も体質も弱い事業は、いずれ終焉を迎える。いくらもがいても「ダメなものはダメ」と判断を下せるのは、経営者しかいないのだ。

 

⑤ウィズコロナ・アフターコロナにおける貢献事業のスピード立ち上げ

 

出店する大型商業施設がコロナ対応で閉鎖となった人気パン店「どんぐり」(北海道・札幌市)は、わずか数日でウェブ販売の仕組みをつくり、味を落とさない急速冷凍の設備を整えた。そして地元の食材を活用し、収入が激減しているタクシー事業者に配達を依頼する事業を立ち上げた。

 

指針1の④で示した、目の前の困っている人を救う貢献事業を立ち上げる際の時間感覚も変えるべきだ。1年をかけるなどはもっての外。1カ月でも長い。「1週間で立ち上げる」という勢いが大切である。

 

 

PROFILE
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長尾 吉邦
Yoshikuni Nagao
タナベ経営 取締役副社長。タナベ経営に入社後、北海道支社長、取締役/東京本部・北海道支社・新潟支社担当、2009年常務取締役、13年専務取締役を経て、現職。経営者とベストパートナーシップを組み、短中期の経営戦略構築を推進し、オリジナリティーあふれる増益企業へ導くコンサルティングが信条。クライアント先の特長を生かした高収益経営モデルの構築を得意とする。著書に『企業盛衰は「経営」で決まる』(ダイヤモンド社)ほか。