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100年先も一番に
選ばれる会社へ、「決断」を。
【特集】

未来へつなぐ事業承継

2025年に日本の6割以上の経営者が70歳を超え、127万社が後継者不在と言われる中、次期社長の社内登用や外部招聘によって「所有と経営を分離」する事業承継が増えている。単に今の事業を引き継ぐのではなく、100年先を見据えていかに成長させるか。 そのことを経営目線で考え、未来を描いて自社と事業を継承していく「MIRAI承継」のメソッドを提言する。
メソッド2024.03.01

「MIRAI承継」で経営を未来へつなぐ:福元 章士、大西 靖彦

企業経営継続が困難な環境へ変化

 

現在、外部環境の変化がますます激しくなってきている。世界経済の停滞が続く中、日本経済は緩やかに回復に向かっているが、約30年ぶりに物価と賃金の上昇するインフレが加速。すなわち、これまでのデフレ経済下におけるコスト競争から、適正な価格を価値として提供する価値転嫁型モデルへの転換が求められている。

 

企業経営を継続するには、環境変化に対応するための事業ポートフォリオの変革とともに、誰が経営を担うかという人材戦略も非常に重要である。帝国データバンクが2023年6月に公表した「全国『社長年齢』分析調査(2022年)」によると、全国の社長の平均年齢は60.4歳と32年連続で上昇し、過去最高を更新。これは、依然として後継経営者へのバトンがスムーズに渡せていない状況と考えられる。

 

経営者の高齢化が進む一方、2022年の後継者不在率は57.2%となり、2011年以降初めて60%を下回っている(帝国データバンク「全国企業『後継者不在率』動向調査(2022)」2022年11月)。コロナ禍を機に承継に向き合う機会が増えたこと、金融機関をはじめとする支援機関相談窓口が拡充されたことで、第三者承継やM&A、ファンド経由の経営再建併用の事業承継などが増加していることに起因する。

 

同調査によると、代表者の就任経緯では「同族承継」の比率が低下し、内部昇格およびM&Aによる承継比率の上昇基調が継続。後継候補者属性では、「非同族」が初の首位となった。つまり、事業承継においても、同族後継者不在による承継難から変化がうかがえ、少しずつではあるが、承継の選択肢が増えていると言える。しかし、事業継続自体が厳しさを増していることに変わりはない。

 

 

承継はなぜ難しいのか

 

経営を次代につなぐことがいかに難しいかという現実に、タナベコンサルティンググループ(TCG)は創業以来67年間、向き合ってきた。そして、「会社はつぶれるようにできている」と申し上げてきた。

 

現在、日本国内には約368万の企業があるが※1、100年企業は4万3631社※2、200年企業は1685社に過ぎない※3。企業存続がいかに難しいかを物語る数値である。

 

では、なぜ承継は難しいのか?

 

一般的に企業における事業の寿命は30年と言われてきた。いわゆる「事業30年説」である。現在では、事業そのもののライフサイクルはさらに短いと言われている。100年企業になるためには少なくとも3回以上の事業ポートフォリオ転換に成功しなければならない。

 

また、企業が持続的に成長するためには、新たな成長エンジンとなる事業と、それを実行する人材が不可欠である。この2つの要素を承継のタイミングでしっかりと具備することが難しいからこそ、企業の承継は難しい。

 

しかし、事業の寿命が企業の寿命になってはいけない。そして、経営者の寿命が企業の寿命になってもいけない。事実、第三者承継やM&Aなど選択肢は増えてきているが、昨今の後継者不足で日本企業の127万社※4は次世代へ経営をつなぐストーリーをまだ描けていない。

 

全ての企業が選択できる道は、「存続」「廃業」「売却」「倒産」の4つしかない。当然、経営者が選択する道は「存続」が基本である。

 

TCGが目指す経営の承継とは、「FCC(ファーストコールカンパニー)~100年先も一番に選ばれる会社~」の実現に向けて未来へ経営をつなぐことである。その観点から言えば、「売却」を選択して企業という公器を次の世代に残していくことも、一つの選択肢になる。結果的に自社や従業員の雇用を守ることになり、社会貢献につながる選択と言える。そう考えると、企業経営の本質は、「経営を未来へつなぐための取り組み」と捉えられるのではないだろうか。

 

 

オーナー経営者の2つの顔

 

承継の際、オーナー企業は2つの立場で検討を迫られることになる。1つ目はオーナー株主個人、2つ目は企業の社長としての立場である。

 

オーナー株主個人の立場としては、節税のための株価抑制、もしくは株主利益(創業者利益)などの資本の承継が主な検討事項となる。企業の社長としての立場であれば、企業価値を向上させるために、経営戦略や組織体制(後継社長や次世代ボードメンバー)が主な検討事項になる。

 

この関係は一般的にトレードオフの関係になることが多い。節税のための株価抑制を検討する中で、選択肢によっては節税のために企業体質が毀損してしまう恐れもある。反対に企業価値が高まれば一般的に株価は上がり、オーナー株主個人としては相続税負担が大きくなる。

 

このトレードオフの関係の中で、企業価値を損なうことなく承継をさらなる成長のステップにすることが、「経営を未来につなぐ」ということではないだろうか。今般の経営技術の中で承継の選択肢が増えていることを鑑みると、「何が最良の選択肢か?承継の価値判断基準は何か?」をあらためて考え、可能性を広げて準備していくことが、オーナー経営者の責務と言える。

 

ゴーイング・コンサーンを体現するために

 

「次代に自社をどのようにして残していくか」を真剣に考えている経営者の皆さまへお伝えしたいことがある。会社という公器を、価値を高めながら次代に引き継いでいくことこそが、何よりの社会貢献である、ということだ。

 

企業存続のためには、激しく速い環境変化への対応が不可欠である。つまり、変化に合わせて企業自身が変革しなければ、生き残ることはできない。

 

企業が自ら変わるチャンスは3つある。1つ目は赤字の時。利益が出ている時、思い切った変革は難しい。現在の取り組みがうまくいっていると組織が認識しているタイミングでは、現状維持を優先させるものである。

 

しかし、赤字の時には企業を変革する大胆な施策を決断・実行する覚悟が生まれ、企業を変革しなければならないと経営者や経営幹部は考えるはずである。もし、赤字でもそのように考えが変わらなければ、将来は「倒産」コースを歩むしかない。

 

2つ目は不況の時である。昨今のコロナ禍においても社会が大きく変化し、それに対応した企業は成長している。不況だからこそ新たなビジネスチャンスが生まれ、そのチャンスを生かすべく自社を変革することが成長につながり、持続的成長が可能になる。

 

最後は承継のタイミングである。経営者が次世代に変わるからこそ、自社も変わるチャンスである。

 

企業経営はトップの意志で決まる。トップが変わる承継期こそ自社変革が可能なタイミングであり、単に会社資産の承継だけではなく、「いかに成長できる基盤を創りながら経営を次世代へ引き継いでいくか」を考えなければならない。

 

前述した通り、外部環境は変化している。当然、自社の未来を創る上でも、今までのやり方が通用しなくなる。そこで大切なことは、企業に変化と成長を促す新しい経営ソリューションの活用である。

 

TCGでは、未来を創る承継ステージ別の経営ソリューションを「MIRAI承継」ブランドとして展開している。承継のあらゆるステージにおいて最適なソリューションを、資本の承継だけではなく、事業・組織・人材・経営システムなど、経営全体を俯瞰してデザインし、専門コンサルタントが経営者に寄り添い、専門的価値を提供している。

 

企業経営の課題に対してトータルに取り組んできたTCGだからこそ提供できる、これまで培った多面的なノウハウを次に紹介する。この経営ソリューションを参考いただき、ぜひ持続的に成長するFCCの実現に向けて、経営を未来へつないでいただきたい。

 

 

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Profile
福元 章士Shoji Fukumoto
タナベコンサルティング 上席執行役員
収益・財務戦略構築を専門分野として、建設、住宅、製造、小売業など幅広い業界でコンサルティングを実施。企業再生、組織再編、事業承継などのターンアラウンド支援も数多く手掛けてきた。「1社でも多く企業の成長を誠心誠意サポートする」をモットーに、さまざまな経営課題を解決に導く経営者のパートナーとして高い信頼を得ている。
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