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【特集】

地域プロデュース

高齢化や人口減少といった地域の課題を克服するには、地域産業に関わるさまざまなプレーヤーが連携し、ビジネスを創り、事業価値を高めて、地域経済を活性化させる必要がある。自律的で持続可能な地域社会の実現に向け、人と事業をつなぎ、育て、地域の未来を協創する取り組みを紹介する。
メソッド2024.02.01

地域プロデュースに求められる3つのポイントとは:日下部 聡

地域社会の課題、それは「人口減少」と「高齢化」を背景に、マーケットが縮小するという構造的なものである。こうした課題は地域経済を縮小させ、さらなる人口減少と少子高齢化を引き起こす。それらが進行すると、労働力不足、経営者の後継者不足、働く場所・働き方の多様性の低下、地域経済・社会の持続可能性の低下などが生じる。その結果、地方都市の空き家・空き地の大量発生、生活・行政サービスや社会インフラの維持困難を招き、地域の社会課題を一層深刻化させる。

 

筆者がコンサルティングを担当する東北地方は、人口減少、高齢化の先進地域である。【図表】は地域別高齢化率を示している。2045年の地域別高齢化率1位は秋田県。秋田県は2021年段階でも38.1%と全国1位だが、2045年は50.1%と、県民の半数が65歳以上になる見込みだ。

 

【図表】都道府県別高齢化率の推移


出所 : 内閣府ホームページよりタナベコンサルティング作成
※2021年は総務省「人口推計」、2045年は国立社会保障・人口問題研究所「日本の地域別将来推計人口(2018年推計)」

 

また、2045年の高齢化率では1位が秋田県、2位以降に青森県、福島県、岩手県、山形県が続き、東北5県が上位を占める。

 

こうした人口減少、高齢化は全ての地域で向き合うべき課題である。今回は、東北地方で持続可能な地域社会の実現へ向けて取り組む事例を紹介する。

 

 

宮城県「みやぎ6次産業化リノベーション支援事業」

 

宮城県は2021年度に「みやぎ6次産業化推進プラン」を策定し、農林水産業の6次産業化推進に取り組んでいる。6次産業化支援の目的は「農家の所得向上」である。収益を上げるには、農家自身が「価格決定権」を持つこと、そのためには農家が生産→加工→流通・販売の全ての工程に携わり、新たな付加価値を生み出す6次産業化が必要となる。

 

2022年から2023年にかけて、タナベコンサルティンググループ(TCG)は宮城県農政部と共に「みやぎ6次産業化リノベーション支援事業」を実施した。

 

生産者はどうしても「良いモノをつくりたい」情熱が先走り、採算面が後回しになりがちになるが、今回の事業では「経営の視点」の再認識を徹底。商品開発や販売促進時のマーケットインの発想、経営的なマイナスが生じる場合の改善策など、さまざまな視点から検討していただいた。

 

 

ヤマガタデザイン「街づくり会社」で社会課題を解決

 

「消滅可能性都市」に挙げられている山形県鶴岡市。人口が減少の一途をたどる同市で2014年に創業したのが、ヤマガタデザインである。

 

ビジョンに「地方の希望であれ~Be hope for local.~」、ミッションに「圧倒的な当事者意識で地方の課題を解決する事業を生み出し、希望ある社会を実現する。」を掲げる同社は、地域の課題に対し、クリエイティブに事業をデザインして解決する“街づくり会社”だ。

 

創業の背景には、「高齢化、過疎化による都市機能消滅という全国の地方都市が直面する社会課題に対し、地域が持続・自走できる仕組みを創造して解決したい」という代表取締役の山中大介氏の熱い思いがある。ヤマガタデザインは、地域が当事者となって、山積する地方の課題に挑み、未来を創造する、夢と責任ある社会の実現を目指している。同社のビジネスモデルから学べるポイントは、次の2点である。

 

❶ 地域で生きる当事者として、ゼロから街づくりを行う
地域の魅力に着眼し、観光・教育・人材・農業分野において、人が集う仕掛けと情報発信、人が育つ仕組みと販路開拓によって街づくり事業を収益化している。全国の地方都市はそれぞれ特徴が異なるものの、高齢化や過疎化などの共通課題がある。同社の取り組みからは、「どの地域でも活性化できる」ことが分かる。

 

もう1つ、何より大きいのは、山中氏自身が住民票を鶴岡市に移し、地元に生きる当事者として共に街づくりを行っている点である。

 

❷ 創業10年で150名採用。人が集まる魅力、採用力
同社は、人材採用条件の1つを「住民票を鶴岡市に移すこと」としている。これは「地域の課題解決に圧倒的当事者意識で取り組む」というミッションの体現でもある。多くのローカル企業が採用に苦戦する中、同社は毎年数十名を採用し、従業員数は創業10年で約150名に拡大(2022年4月時点)。その実績が、同社の魅力を物語っている。

 

さらに、2024年4月には社名を「SHONAI」に変更する予定だ。創業10周年を機に庄内地域での取り組みを全国に拡大していくとし、創業地の「庄内」を前面に押し出す。最終的には庄内地域の人口全員(約27万人)を株主にしたいという。地域の一人一人が当事者となり、庄内を良くしたい、未来にワクワクしたい、社会をより良くしたいと思い、行動する。そんな未来図が社員のモチベーションになっている。

 

 

地域プロデュースや6次産業化に必要なこと

 

これらを踏まえ、自立的で持続可能な地域社会実現に向けたポイントとして3点が挙げられる。

 

❶ 事業構想力
移動手段の確保や買い物難民などを「地域のニーズ」と捉えれば、地域には多くのニーズが存在するとも考えられる。ヤマガタデザインは、地域の課題というニーズに対するソリューションを提供し、事業を成長させている。マーケットに対し、どのような価値を提供して収益化するかという事業構想力が必要である。

 

❷ リーダーシップ
「何を」やるかも大事であるが、成果を上げている事例を見ると「誰が」やるかによるところが大きい。事業構想力、思い、やり切る力を持ってリーダーシップを発揮することが重要だ。

 

❸ 巻き込む力
何事も1人でやるには限界がある。6次産業化にしても1次から2次、3次への展開は経験がなければ難しい。しかし、自ら率先垂範し、周囲を巻き込むことで推進力が生まれる。先述のヤマガタデザインは、創業10年で150名を巻き込んでいるのである。

 

地域社会の課題は山積しており、今後ますます加速していく。しかし、課題に向き合い、持続可能な地域社会の実現を目指す取り組みは、全国各地で展開されている。地域の未来を協創する取り組みを、TCGはこれからも支援していきたい。

 

 

 

Profile
日下部 聡Satoshi Kusakabe
タナベコンサルティング エグゼクティブパートナー
地域を思い、理念を重んじる「志」の高い経営者とともにビジョン構築、ビジネスモデル改革、チームビルディングに取り組み、多くの実績を上げている。また、中堅・中小企業の事業承継期の次世代経営体制・チームづくり、体系的な人材育成による自立型組織の構築コンサルティングにも高い評価を得ている。
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