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【特集】

グローバルビジョン

人口減少による日本の内需縮小が「確実にやってくる未来」である今、海外進出は全ての日本企業に とって必須の成長戦略となった。自社のグローバルビジョンをアップデートし、それに基づく長期視点の 海外戦略をデザインするメソッドを提言する。
メソッド2024.01.05

米国駐在経験から見る現地日本企業への営業戦略:御舩 浩次郎

海外事業の最重要課題は販売・営業

 

新型コロナウイルスの感染拡大が落ち着き、企業の海外進出・事業拡大の動きが再開しつつある。ジェトロ(日本貿易振興機構)が行った「2022年度 日本企業の海外事業展開に関するアンケート調査」(2023年2月)によると、「今後の事業拡大先(上位10カ国・地域)」について、良好な日米関係や世界一の経済大国の購買力を理由に、米国(29.6%)がトップという結果だ。また、海外進出日系企業拠点数としては、米国は中国に次いで2位(8673拠点、外務省「海外進出日系企業拠点数調査 2022年調査結果」)と、依然として高い人気を維持している。

 

また、ジェトロ「2021年度 日本企業の海外事業展開に関するアンケート調査」(2022年2月)を見ると、アフターコロナの経済回復の波に乗り、コロナ禍前の水準への回帰、過去最高売上高の達成を目指す企業が多い中、今後の最重要国・地域の課題・不足事項として、「販売・営業」を挙げる企業の割合が最も高い。

 

筆者は2017年から2019年の約2年間、米国のIT企業(BtoB)のセールスとして駐在していた。本稿では、その経験を基に日本企業の海外営業戦略について解説する。

 

 

海外進出における3つの企業形態

 

BtoBを事業領域とする日本企業は、海外進出当初のメーンターゲットを言語ハードルが低い日本企業とすることが多い。本稿では、筆者が経験した、現地の日本企業をターゲットとする営業戦略に絞って紹介する。

 

営業戦略には、3C(市場環境、競合環境、自社)分析、STP分析※1、4P分析※2などさまざまなフレームワークが存在するが、いずれにしても後述する具体的な施策・営業アプローチにも関係するため、「顧客は誰か」を突き詰めて理解することが重要である。

 

まずは、営業戦略の前提でありつつ、国内では考慮する必要がなかった「企業形態」の切り口からポイントを紹介する。

 

海外進出に向けた企業形態としては、大きく分けて①駐在員事務所、②支店、③現地法人の3つがある。これらを理解することで、ある程度ターゲットのあたりを付けることができる。

 

❶ 駐在員事務所
現地のマーケティング活動や情報を収集するための進出形態で、事業そのものは行わない企業形態。事業・営業活動はできないが、設置の手続きや撤退の手続きが比較的簡単であるため、海外進出の第一歩として用いられることが多い。企業体の規模としては比較的小さい。

 

❷ 支店
現地に営業活動が可能な拠点を設置するが、法人格の取得までは行わない事業体。国内にあった部署が海外に移転するイメージである。国内で築いた信用力を利用しつつ営業活動ができる点や、同一企業のため国内からの資金移動が容易などのメリットがある。

 

❸ 現地法人
現地の法律にのっとり設立された企業。独自の資本を持つことができ、柔軟性・機動性のある経営が可能。海外進出における企業形態の最終形である。

 

これらは企業が海外進出に向けて必ず検討すべき項目であるため、すでに海外に進出している企業はもちろんのこと、現段階で海外進出を検討している企業も理解されていることと思う。

 

 

決裁権の所在を把握する

 

では、営業アプローチ先のターゲットは、独自資本を持ち、事業規模が比較的大きな現地法人にするのが良いかというと、そう単純ではない。営業活動においては、もう1軸の考え方である「決裁権の所在」も考えなければならない。

 

前述の企業形態は、進出国における進出度合いを示すものでもあるため、どの領域に、どれだけ投資するかを決める決裁権の所在とは一定の相関関係があるが、必ずしも一致しない。それは業界や規模、投資額、日本本社側との力関係により異なるものである。(【図表】)

 

【図表】企業形態と決裁権の所在の相関関係


※1 基本的には海外拠点の意見が通るが、日本本社への確認が必要
※2 海外拠点の意見もある程度尊重・反映される
出所 : タナベコンサルティング作成

 

営業戦略を立てる上で、決裁権の所在の把握は、国内での営業よりも重要である。その後の具体的な施策の実行・営業アプローチに大きく影響を及ぼすためだ。そのため、企業形態だけでなく、決裁権がどこにあるのか(個人ではなく、役員会議などの会議体の可能性もある)を丁寧に把握する必要がある。

 

筆者は現場で、企業形態は支店であるが、日本本社の関与が少なく、支店が決裁権を持っていたためスムーズに受注まで至ったことがある。一方で、企業形態は現地法人であるが、日本本社の関与度が高く、日本本社のシステム導入基準に合わせるためのアンケート調査に時間を要したケースもある。日本本社の関与度が高い場合、日本本社との関係性を活用することで受注確度を高めるアプローチが可能となる。企業形態とは異なり、日本本社と現地の駐在員事務所・支店・現地法人の力関係は公開されているわけではないため、営業活動を通じて把握するしかない。

 

その意味では、これらの活動は営業管理手法として古くから利用されているBANT(受注確度を高めるための営業フレーム)のA(Authority:決裁権)や、昨今注目されているMEDDIC※3のE(Economic Buyer:決裁権者)を押さえることと同義と言える。

 

企業における海外進出・事業展開は、国内では検討不要であった要素も必要となる。タナベコンサルティンググループでは、このような現地での営業戦略立案や、より幅広く海外ビジネス全体の戦略設計から現地のパートナー探し、各種施策の実行支援までを一気通貫でサポートしている。海外進出・拡大を検討される際には、ぜひご相談いただきたい。

 

 

※1 セグメンテーション・ターゲティング・ポジショニング分析。市場の細分化、勝負する市場の決定、市場での立ち位置を把握し、効果的に市場を開拓するためのマーケティング手法
※2 Product(製品)、Price(価格)、Place(流通)、Promotion(販売促進)の4つに分けて分析するマーケティング手法
※3 Metrics(測定指標)、Economic Buyer(決裁権者)、Decision Criteria(意思決定基準)、Decision Process(意思決定プロセス)、Identify Pain(課題)、Champion(自社商品・サービスの擁護者)の6項目から構成されるフレームワーク

 

 

 

Profile
御舩 浩次郎Koujirou Mifune
タナベコンサルティング 戦略総合研究所 事業開発。国内大手IT企業にてさまざまなエンタープライズ向けのアカウントおよびソリューションセールスを担当。国際部門では米国グループ会社へ出向し、現地日系企業のITインフラのサポート・改善に従事。帰国後、米国スタートアップの日本拠点立ち上げに参画し、マーケティング・新規顧客開拓を実施。タナベコンサルティング入社後は、コンサルティングサービスの海外展開に向け、グループ各社との連携・社内プロジェクトの推進に関わる全体総括を担当。
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