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【特集】

グローバルビジョン

人口減少による日本の内需縮小が「確実にやってくる未来」である今、海外進出は全ての日本企業に とって必須の成長戦略となった。自社のグローバルビジョンをアップデートし、それに基づく長期視点の 海外戦略をデザインするメソッドを提言する。
メソッド2024.01.05

「インバウンド3.0」の実装に向けて取り組むべきこと:ジェイスリー 足立 功治

新型コロナウイルスの世界的な感染拡大は、年間3000万人を超える規模のインバウンド需要を消滅させた。インフレ、利上げ、紛争といった世界経済への影響は続いているが、私たちはこの激変する世界で、未来を切り開いていかなければならない。

 

世界で再び訪日意欲が高まりを見せる中、2023年4月以降、規制緩和による訪日外国人の受け入れが再開している。コロナ禍で人々の価値観や社会が大きく転換した今、いかに変化をくみ取り、どう勝機を見いだすのか。新たなインバウンドビジネスとテクノロジーを用いた戦略は次のステージへ向かっている。

 

 

日本人が気付いていない価値の創出

 

訪日外国人の増加が見込めなくなったコロナ禍中に、インバウンドビジネスにおいて頻繁に取り沙汰されたキーワードがある。「観光コンテンツの発掘と磨き上げ」だ。

 

再び訪れるであろう訪日意欲とインバウンド需要の拡大を見据え、日本あるいは各地域が保持する観光資源を今一度見直し、訪日外国人に「本当に刺さる」ものを考え、整えるというものである。コロナ禍が明けた今でもこの必要性は変わらず、継続して取り組んでいる事例を多く目にする。

 

しかし現状では、すでに日本人が認識している観光資源を「どのように見せるか」に注力しているケースが圧倒的に多い印象だ。大切なのは、日本人ではなく、訪日外国人から見た日本や地域特有の魅力や価値がどこにあるのか、「ターゲット視点=外国人目線」で見つめ直すことにある。

 

外国人目線という言葉は、今でこそ一般的に使われるようになったが、ジェイスリーはインバウンドビジネスが盛況を迎える以前より、最重要かつ根本的なポイントとして説いてきた。そして、外国人目線で魅力や価値を見つけ、届けることに大きな役割を果たしてくれるのが日本在住の外国人であると考え、彼・彼女らと連携したソリューションを提供している。

 

日本在住の外国人は、外国人から見た日本の価値と魅力を感じ取ることができ、訪日する外国人に対して適切に伝えることができる。この力を活用してこそ、真の「観光資源の発掘と磨き上げ」といえるであろう。

 

 

第三者(外国人)目線の情報発信

 

訪日外国人が日本でしか得られない体験による価値、いわゆる「コト消費」に注目が集まって久しい。その場所にある「モノ」ではなく、そこで体験できる「コト」の価値を伝えることを意味するが、これはアクティビティーに分類される観光資源に限らない。例えば、日本酒という「モノ」の素晴らしさを伝えるだけではなく、その楽しみ方まで伝えることで初めて「その魅力を体験したい」と思ってもらえるというわけである。

 

ただ、その伝え方には工夫が必要だ。いくら日本人が楽しんでいるシーンを伝えたところで、「外国人である自分も同じように楽しめるだろうか」という訪日外国人の不安を払拭することは難しい。そこで重要になってくるのが、日本在住の外国人の力である。

 

なぜなら、彼・彼女らは自国の文化や習慣を踏まえた上で、魅力に触れた際に、どこに、どのような体験価値があるのか、訪日外国人の観点と言葉で表現できるからである。この手法で情報を発信していくことにより、「自分事」として魅力を感じてもらうことが重要だ。

 

このように、訪日外国人にとっての特有の価値を見つけ出し、彼・彼女らに正しく届けることが、インバウンドビジネスの基本方針であると念頭に置く必要がある。次に、これを実践した具体的なプロジェクトを紹介していきたい。

 

 

今後のインバウンド戦略に役立つ2つの事例

 

❶ 神戸観光局
港町として古くから栄え、歴史的名所や異国情緒あふれる街並み、グルメなど、日本有数の観光地として知られる兵庫県・神戸。そんな神戸の観光を推進している神戸観光局と、阪神電気鉄道の共同プロモーションプロジェクトを、ジェイスリーが支援した。台湾からの訪日客をターゲットとして最適な観光資源を発掘・発信することで、神戸の魅力を最大化した事例である。

 

20〜30歳代女性をメーンターゲットとして、プロモーション全体のコンセプトやキャッチフレーズを立案。各チャネルや各ツールで特集する観光スポットの選定、ターゲットに響くPRの傾向分析と各施策のアイデアなどを提案した。ポスター、パンフレット、電車広告、動画などのツール制作においては、ツールごとの特性と目的に合わせて内容に変化を持たせつつ、「台湾向けの新しい神戸ブランド」として統一した。

 

「新魅力新神戸」をキャッチフレーズに設定し、コロナ禍のため訪日できなかった期間にオープンした新しい施設のほか、既存施設の新しい楽しみ方を紹介。「知ってほしい神戸の姿」「台湾での旅行トレンド」「台湾でのインスタ映え」という3つのポイントから、神戸の新たな観光資源を選定した。そして、台湾で若者に知名度の高いSNSインフルエンサーをモデルに起用し、プロモーションのさらなる効果を促進した。

 

❷ ジェイアール東日本企画
東日本大震災から10年という節目を迎えた2020年、JR東日本主催の下、ジェイアール東日本企画とともに、東北の魅力を全世界に発信するイベントを実施。東京と東北6県をリモート中継でつなぎ、YouTubeでライブ配信を行った事例である。

 

東北6県は日本酒の激戦区であり、日本屈指の銘酒が名を連ねる地域でもある。日本に長年に住み、日本酒をこよなく愛す米国人が、各地域を代表する銘酒の歴史や飲み方、厳選したおつまみを紹介。さらに、東北の酒蔵と東京店舗をリモートでつなぎ、酒蔵の当主から蔵の内部や製法などを解説してもらうことで、東京に居ながら東北の酒蔵巡りをしているような感覚を体験してもらった。

 

イベント参加者は、酒蔵当主から地酒の解説を聞きながら、東京店舗で試飲(利き酒)を堪能。その体験をSNSを使ってリアルタイムで拡散してもらった。その他にも伝統文化体験として、青森県から津軽三味線の演奏者を招いて生演奏を聴く企画、福島県の会津地方に古くから伝わる「起き上がり小法師」の歴史と制作を体験する企画などを多数実施した。

 

店舗(イベント参加者)、地域、そしてSNSの閲覧者を結んだ五感に刺さるインバウンドプロモーションは、店舗集客はもちろん地域ブランドの浸透や誘客に非常に有効であり、ぜひ取り組むことをお勧めしたい。

 


台湾の旅行トレンドを押さえ、台湾で人気のSNSインフルエンサーを起用し、「台湾向けの新しい神戸ブランド」を発信(神戸観光局)

 

 

 

Profile
足立 功治Kouji Adachi
ジェイスリー(タナベコンサルティンググループ) 代表取締役社長
インフォメーションデザインを主軸にキャリアをスタートし、インターネット創成期において大手企業サイトの構築やプロモーション企画のプロデュースを数多く手掛ける。現在はBtoB企業やスタートアップ、自治体の課題解決のため、ブランディングとDXの知見を生かしてコンサルティングを行っている。
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